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all words by Dr.NORIHIRO KOMIYAMA

Dr. 小宮山の健康相談室

  口が臭いのが心配  dog2ani.gif 31x25 1.63KB

解説
原因
必要な検査
家庭での処置
病院での処置
日常生活での注意点
犬の歯について

■解説
 かわいい我が家の愛犬なら、たいていのことは許せるし、我慢できるかもしれません。 でも、甘えて近寄ってきた愛犬の口がプーンと臭ったら、思わず顔をしかめてしまうのではないでしょうか。

 犬の口が臭いとき、原因の大半は、歯や歯を支える組織の病気、すなわち歯周病にあると言えます。犬の歯の病気は非常に多く見られ、特に5歳以上の犬のほぼ90%以上が歯に関係する病気を持っているといわれます。

 人間の歯に関しても、最近は「歯周病」という言葉が定着し、歯を守るために歯周病の予防が大切だという認識が高まっています。しかし、以前は、歯医者さんへ行くのは、虫歯の治療のため、とだいたい相場が決まっていました。

 これに対して、犬には虫歯は稀です。犬の歯の病気と言えば、ほとんどが歯周病だと考えていいでしょう。また、大型犬と小型犬を比較すると、圧倒的に小型犬に歯の病気が多いのが特徴です。これには理由があります。

 一つは、小型犬では歯と歯が密着して生えていることです。すなわち、歯と歯のすき間が非常に狭く、そこに食べ物のカスなどが詰まって、歯垢ができやすいからです。もう一つの理由は、「歯槽骨」と呼ばれる歯髄を支える組織が薄いことです。歯周病の進行過程で歯槽骨が溶けてきますが、小型犬ではこれが薄いため、病気の悪化が早まってしまうわけです。 これとは逆に、大型犬の場合、歯と歯のすき間が広いので、カスが詰まることもあまりなく、歯垢が溜まりにくくなっています。歯槽骨も厚く、歯をしっかり支えているため、小型犬より歯の病気が少ないのです。

 歯周病のため口臭がある場合、一般に食欲が低下します。このような状態が続くと、体力が衰え、他の病気を誘発する恐れもあります。動物病院で状態を調べてもらいましょう。
■原因
 犬の口臭の原因は、大半が歯周病です。そこで、歯周病がどのような経過をたどって起こるかを考えてみましょう。

 歯周病はまず、歯の表面に歯垢が溜まることから始まります。食べ物のカスが歯に付着し、そこに細菌が繁殖して歯垢ができます。歯垢は細菌のかたまりと言えます。歯垢を放置しておくと、まず歯肉が炎症を起こし(歯肉炎)、徐々に歯を支える他の組織も冒され、最終的には歯が抜け落ちてしまいます。
 
 歯周病を防ぐには、歯を支える組織が冒される前に、歯垢を取り除くことが必要です。なお、歯周病ではないのに口臭がある場合、犬が何かニオイの強いものを食べなかったかどうか考えてみてください。あるいは、飼い主の見ていないところで、生ゴミをあさったかもしれません。

 他に病的原因として、腎臓、肝臓、胃腸などの病気、あるいは口内や鼻などの腫瘍、膿腫などもあります。犬の口が臭いのに、歯や歯の周辺に異常が見当たらない場合、歯周病以外の病気が疑われます。口臭があるほかに、何か症状がないかどうか観察し、病院で診察してもらいましょう。
■必要な検査
 歯や口内の病気には、歯周病以外に、潰瘍性口内炎、ウイルス性の病気、外傷などがあります。外傷の例としては、犬が電気コードをかじって、口の中に裂傷ができたというものもあります。犬がかじると危険なもの、あるいはかじられて困るものは、犬のいる場所に置かないとか、かじらせないようにしつけをすることも大切です。

 通常、獣医師は歯や口内の検査をするとき、まず口の中を肉眼でよく調べます。咬み合わせがうまくいっているか(不整咬合がないか)、歯肉の炎症などの病変がないか、病変があればどの程度かなどがポイントとなります。

 歯周病が進行すると、歯と歯肉の間にすき間ができます。これは「歯周ポケット」と呼ばれます。歯周ポケットがすでにできている場合は、その深さを測り、歯周病の進行の度合いを推定します。 より詳しく調べるには、レントゲン検査が必要となります。
■家庭での処置
 犬が歯周病に冒されたとき、家庭でできる処置については、獣医師の指示に従ってください。進行の程度によって、できることとできないことがあります。

 飼い主が知っておかなければならないのは、歯垢や歯石(歯垢が固くなり石灰化したもの)は毒物だということです。つまり、歯に歯垢や歯石が付着しているのは、口の中に毒物を蓄えていて、毎日その毒物を飲み込んでいることになるのです。口の中の毒物は全身に回る可能性があります。毒物に冒される場所が骨であれば骨髄炎に、関節であれば関節炎が起こります。同様に腎臓ならば腎炎、肝臓ならば肝炎、心臓ならば心内膜炎が引き起こされます。

 避妊手術をしていないメス犬は、高齢になると子宮蓄膿症を起こすことが多いのですが、犬の歯に歯垢・歯石が溜まっていると、この病気にかかる時期が早まるのではないかとの疑いも持たれています。 歯垢・歯石のある犬が膣を嘗めることにより、毒物が子宮に入って感染が起こり、子宮蓄膿症の発症を早めるのではないかと考えられているのです。

 歯垢・歯石は取り除かなければなりません。家庭で最も確実に取り除く方法は、歯磨きです(後述)。もし家庭で除去できない場合は、動物病院で除去してもらってください。 歯周病が進行すると、最終的には歯が抜け落ちます。

 もし歯の大部分、あるいは全部が抜け落ちてしまったら、食べ物を与えるとき、飼い主が気をつけなければならないことがあります。ただし、犬は人間ほど歯の機能に依存していません。人間は雑食性であり、穀物、野菜、魚や肉など、何でも食べます。臼歯、切歯、犬歯のそれぞれの歯には役割があり、臼歯で穀物をすりつぶし、切歯で野菜の繊維を噛み切り、犬歯で魚や肉を引き裂きます。

 現代の日本人は、主食の米を白米にして軟らかく炊いて食べるので、米を噛む行為を「すりつぶしている」とは感じないかもしれません。また、食べ物全体の加工度が進み、概して軟らかくなっているので、「噛みきっている」「引き裂いている」という感覚も薄れているようですが、それでも健康のために「よく噛むこと」が奨励されています。 犬にも、臼歯、切歯、犬歯がありますが、犬歯が特に発達し、大きく鋭くなっているのが特徴です。野生時代の犬には加工食品がありません。食糧にありつくには、大きな獲物の肉を引き裂き、口に入れる必要があります。

 犬の歯の主要な機能は、食べ物を飲み込める大きさに引き裂くことです。固いものは臼歯で砕き、飲み込めるようにします。歯がなくなったら、大きな食べ物を引き裂いたり、固いものをかみ砕けなくなります。ですから、飲み込める大きさにちぎって与え、あまり固いものを与えないようにましょう。もちろん、そういう状態にならないように、予防することが一番です。
■病院での処置
 歯周病の予防および治療のポイントは歯垢・歯石の除去です。家庭でできない場合は、動物病院でこれらの除去を行います。
 
通常、動物病院で行う専門的な歯石除去では、超音波を利用した特殊な器具を使います。 また、歯肉が余分にできている場合(歯肉過形成)は、これを切除することもあります。歯周病がほとんど最終段階まで進行しているときは、抜歯せざるを得ないかもしれません。
■日常生活での注意点
 歯周病を予防するには、歯磨きの習慣をつけることが第一です。 仔犬を最初の検診に連れて行ったとき、動物病院で歯磨きの指導を受けることをお勧めします。 歯磨きは習慣にして、毎日または一定の間隔で生涯続けるべきものです。

 もし最初のやり方が悪いと、犬は歯磨きを嫌いになるかもしれません。ですから、決して無理強いしないことが大切です。飼い主が気持ちにゆとりを持って、やさしい態度で接し、犬を歯磨きに慣れさせましょう。また、できるだけ同じ場所で同じ時間に歯磨きをすることも大切です。間隔はできれば毎日、最低でも週に1回は行いましょう。

  動物用の歯ブラシは、動物病院で入手できます。犬の大きさに合った歯ブラシを選んであげましょう。人間の子供用の歯ブラシでも代用できます。 最初から、大きく口を開けさせて、全部の歯をゴシゴシと磨こうとは考えないでください。最初の段階では、唇を軽くめくり、上下の前の歯(切歯)の表面だけを軽く磨きます。1、2週間後、このやり方に慣れたら、奥の歯も磨きます。ここまでの段階では、上下の歯を咬み合わせたままの状態にし、唇を軽くめくって、歯の表面だけを磨けばよいでしょう。 口を大きく開けさせるときは、上顎の両側の犬歯の後方に親指と人差し指を当て、犬の頭を後ろにそっとそらすようにすれば、自然に口が開きます。

 以上のやり方に慣れたら、前の歯の裏側も磨きます。ただし、通常犬は歯の裏側を嘗めてきれいにするので、必ずしもそこは磨かなくても構わないでしょう。 最近では、たいていの動物病院が歯ブラシや歯磨き剤を販売しています。 「クロルヘキシジン0.2%溶液」を歯磨き剤に使うと、特に歯周病の予防に有効で、これも動物病院または薬局で入手できます。

 ただ、この溶液の味を嫌がる犬もいます。その場合は、別の歯磨き剤を選ぶことができます。犬が馴染むことのできる歯磨き剤を使うのがよいでしょう。定期的にきちんと歯磨きを行っていれば、歯垢・歯石が溜まらず、歯周病の予防に大きな効果があります。 人間と同じように、犬も生涯自分の歯で食べられるほうが幸せだと思います。
■犬の歯について
 犬の歯も乳歯から永久歯に生え替わりますが、小型犬ではときどき、永久歯が生えそろっても、乳歯が残っていることがあります。これを「乳歯遺残」と言い、放置しておくと、永久歯が正常に成長せず、「不整咬合」の原因になります。

 犬の乳歯は28本、永久歯は42本あります。もし歯が42本以上あれば、乳歯が抜けずに残っていることになります。前方の歯は前と後ろに二重に、後方の歯は乳歯と永久歯が並んで生えているように見えるでしょう。残っている乳歯は2〜3週間以内に、歯に関心のある動物病院で抜いてもらうのが原則です。