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all words by Dr.NORIHIRO KOMIYAMA

Dr. 小宮山の健康相談室

   できもの・腫れものが心配  dog2ani.gif 31x25 1.63KB

できものとは?
原因
必要な検査
病院での治療
家庭での処置
早期発見と予防のために
肛門周囲腺腫とは?
乳腺腫瘍とは?

■できものとは?
 犬の体には、できものや腫れものがよくできます。できもの・腫れものの大きさ、形、状態はさまざまで、それぞれの特徴によって医学的に異なった呼び方がされます(表参照)。

  できもの・腫れものの原因となる病気もいろいろですが、たとえば腫瘍を始めとして、炎症、外傷、皮膚病、アレルギー疾患などの結果として「水疱」(液体を含むできもの)ができることもあります。また、アレルギーの多くはかゆみを伴うため、犬が体をかくことによって、できもの・腫れものが生じることもあります。

 できもの・腫れものの中で最も恐いのは腫瘍です。腫瘍には良性と悪性があり、悪性の腫瘍がガンと呼ばれます。もちろん、この悪性腫瘍が一番恐い病気です。 ガンは手術で取り除いても、かなり多くの場合、再発を繰り返します。また、あるところにできたガンが、別の場所に転移することもあります。

 ガンの手術で最も重要なことは、「より広く、より深く」できる限り取り除くことです。雑草を土から上の部分だけ刈り取っても、根が残っている限り、またすぐ生えてきます。それと同じように、手術をしても、ガンの一部が残っていれば、また再発します。 また、言うまでもなく、ガンが小さいうちに早期発見することが大切です。

 犬の体にできものを発見したとき、これが良性か悪性かを判定する簡単な方法がありますので、覚えておきましょう(イラスト参照)。 ガンは体の外にも中にもできますが、ガンによる死亡率は、10歳以上の犬で45%、全年齢では23%です。 ガンは恐い病気ですが、その約半分は適切な治療によって治ります。この治癒率およびガンの発生率が、犬と人間でほぼ同じだというのも興味深いデータです。

種類 部位(場所) 特徴 治療法
骨肉腫 前脚
(ひじに近いところ)
大型犬に多い 断脚
および
抗がん療法
後ろ脚
(ひざに近いところ)
超大型犬に多い
乳腺腫瘍 後方(おなか)の乳頭部に多い 避妊手術をしていない犬に多い 摘出手術
抗がん療法
脂肪腫 体の前方にできやすい 腫れるが、触ると柔らかい 摘出手術
食餌療法
薬物療法
化膿巣 体のいろいろな部分 触ると柔らかく、少し熱を帯びている 外科手術で
排膿する
外傷 体のいろいろな部分 出血する、腫れる 内科療法
場合により
外科手術
アレルギー 体のいろいろな部分 丘疹、水疱、潰瘍、膨疹、膿疱などができる(※) 抗アレルギー剤
肛門周囲腺腫
肛門周囲腺がん
肛門の周囲 雄は良性、雌は悪性の場合が多い 外科手術
※丘疹は、硬い小さな半球状の隆起のこと。水疱は、液体の溜まった小さな隆起。潰瘍は、皮下組織の破壊状態のこと。膨疹は、毛細血管の拡張による皮膚表面の腫れ。膿疱は膿の溜まった隆起のことです。

■腫瘍が良性か悪性かを判定する方法
まず、愛犬のできものを指でつまんで、前後左右に動かしてみる。

◇軽く動く −−−−−−−−−−−−−−−→ 良性
◇根が張っているように重たい感じがする −−→ 悪性

悪性腫瘍は手術をしても、がんの一部が残っていれば、再発、転移を繰り返し、腫瘍の大きさも拡大していきます。ですから、がんがまだ小さいうちに根こそぎ切除できるよう早期発見を心がけましょう!


■原因
 ガンの原因については、まだ分かっていないことがいろいろありますが、環境、食事、体質などが大きく関わっていることは明らかでしょう。 また、ガンにかかりやすい犬種があり、特にテリア系がそうであることが知られています。もちろん、他のすべての犬種もガンにかかりますから、テリア系でないといって安心するわけにはいきません。

 大型犬には、「骨肉腫」という骨のガンが比較的多いことも知られています。 また、高齢になると、ガンの発症率が高くなります。これも人間と同じですね。 若いときは健康だった犬でも、7〜8歳を迎えたら、定期的に健康診断を受け、異常を少しでも早く発見することが大切です。

  特に避妊手術をしていないメス犬は、ある程度の高齢になると、乳腺腫瘍の発生率が非常に高くなります。その犬の子どもを望まない場合、あるいはすでに子どもを産み、以後は望まない場合は、できる限り早期に避妊手術をすることをお勧めします。

 犬のガンが誘発される要因は、人間の場合とかなり似ています。ガンは「生活習慣病」の一種とされます。したがって、食事や運動の質と量、生活環境、飼い主との関係などが良好かどうかも、大切な問題といえるでしょう。 こうした一般的知識を持ち、ガンの予防に努めることが重要です。
■必要な検査
 犬の体にできもの・腫れものができた場合、それがどういう種類のできものか、腫瘍であるかどうか、腫瘍であれば良性か悪性かなどを検査によって調べます。

 獣医師は通常、基本的な検査として、注意深い病歴の聴取、身体検査、臨床検査を行います。 最も重要な検査は、生検(バイオプシー)です。これはできものの組織の一部を取り、特殊な器械で専門的に調べるもので、動物病院は通常、専門の研究所に依頼してこの検査を行います。

 もし、この生検を行わず、できものをただ見ただけで「これはガンです」と言い切る獣医師がいたら、その診断を信用することはできないでしょう。そのような場合は、転院するほうが賢明といえます。 また、ガンが転移していないかどうかを調べるときは、レントゲン検査を行います。
■病院での治療
 病院では、まずガンの種類を分析し、それに基づいて治療の方針を決めます。 ガンの2大治療法は、手術によるものと薬によるものです。一般に手術で治る可能性が高い場合、獣医師はまず手術を勧めます。 高齢犬は体力がないので手術をするのは危険といわれることがあるかもしれませんが、必ずしもそうではありません。むしろ、手術が適切な治療法だというケースもあります。

 高齢犬の場合、特に手術経験の豊富な獣医師のいる病院を選ぶことも大切でしょう。 薬物療法もどんどん進歩しており、かなり有効な治療法となっています。 ガンのように死亡率の高い病気の場合、治療法の選択は特に重要となります。 どのような治療法が可能か、それぞれの治療法の長所と短所、治る確率、治療期間、予後、費用などについて十分に説明を受け、納得できる治療法を選んでください。
■家庭での処置
 ガンに打ち勝つためには、栄養価の高い食事が必要です。最近では、ガンにかかった犬に適した特別食が動物病院で入手できます。 しかし、もはや治療しても効果がなく、回復の見込みがほとんどない場合もあります。この場合、「治る可能性を信じて、ガンと立ち向かい治療を続けること」、「ガンに対する治療は行わず、痛みや苦痛を取り除く薬だけを与えること」、「これ以上苦しめずに、安楽死を選ぶこと」の3つの選択肢があります。

 愛犬が最後の日々を少しでも安らかに過ごせるように、担当の獣医師とよく相談し、最終的には家族の皆さんが話し合って決めてください。
■早期発見と予防のために
 できもの・腫れものを早く発見するには、犬の体に触ることが大切です。短毛種の場合は、目で見るだけで発見できることもあるでしょうが、長毛種では外見だけで分からないこともあります。犬の体中を触ったり、ブラッシングすることを習慣にしましょう。

 子犬のときから十分にスキンシップをし、体のどこを触っても嫌がらないようにしつけておくことが重要です。 特にガンは固いしこりとなります。乳腺の周囲、リンパ節などを中心に、全身を触ってチェックしましょう。 リンパ節が腫れた場合、悪性リンパ腫が疑われます。このガンは5〜6歳以上の犬に多く、ラブラドール・レトリーバー、セント・バーナード、ボクサーなどが好発犬種です。 リンパ節は体の外にも中にもあり、体の外のリンパ節は当然、目で見て触ることができます。 体表のリンパ節は、顎の下、前脚の脇の下、後脚の付け根など数カ所にあり、左右対称になっています。 これらのリンパ節の場所を獣医師に教えてもらい、日頃から触って、正常な状態を覚えておきましょう。そうすれば、これらが腫れたとき、すぐに気づくことができます。

 また、ガンの症状のひとつは痩せてくることです。体重の変化は、目で見ているだけではなかなかわかりません。 変化に早く気づくには、定期的に体重測定を行うのが最もよい方法です。子犬のときは、体重が順調に増えているかどうかをチェックするために、比較的多くの人が体重測定を実行するでしょうが、成犬になってからはあまり体重を測らなくなるかもしれません。 しかし、体重の変化は健康のバロメーターですから、月に一度程度の定期的な体重測定を習慣づけましょう。 特に高齢犬がやせてきたときは、ガンの疑いがかなり強いので、注意してください(心臓病でもやせてきます)。

 また、早めに不妊手術をすることによって予防できるガンもあります。 メスの場合、2歳以前に避妊手術をすることにより、乳腺腫瘍をほとんど防ぐことができます。当然、生殖系の病気もなくなります。オスも同様で、去勢手術をすれば、生殖系の病気はなくなります。 また、アレルギー性皮膚炎は、「ハウスダスト」と呼ばれる環境のゴミが主要なアレルゲンとなっています。この皮膚炎にかかると、体が非常にかゆいので、犬はかゆいところを引っかいたり噛んだりします。そうしてできた傷口から細菌が侵入し、できもの・腫れものが生じることもあります。 犬の体や生活環境を清潔に保つことも、出来物・腫れ物の予防のために必要なことです。

 最後に、犬が飼い主を信頼し、安心して暮らせることも重要です。家族の皆さんが犬とのコミュニケーションを十分に行い、過度なストレスをかけず、安定した環境を築いてください。
■肛門周囲腺腫とは?
 犬の主要な中で最も多いのは皮膚腫瘍ですが、犬に特有の腫瘍に肛門の周囲の腫瘍(良性の「肛門周囲腺腫」または悪性の「肛門周囲腺ガン」)があります。

 この腫瘍は良性がオスに多く、悪性がメスに多いのが特徴です。 肛門の周囲に硬いしこりができている場合、この腫瘍が疑われます。犬の体をチェックするときは、忘れずにお尻の周辺もよく調べましょう。
■乳腺腫瘍とは?
 乳腺腫瘍の特徴的な症状は、お乳の部分に硬いしこりができることです。腫瘍の直径が1センチ以内のときに、手術で摘出することが重要です。 日頃から、犬の体を観察し、愛情を込めて触っていれば、小さいうちにしこりを見つけることができるでしょう。

 乳腺腫瘍の良性と悪性の割合は約50%です。悪性の場合、その約半分が体の他の場所に転移します。 転移の状態を調べるには、レントゲン検査のほかに、超音波検査も利用されます。

 この乳腺腫瘍は発生率の高い腫瘍で、8〜10歳の犬に多く見られますが、早期の避妊手術によって、ほとんど予防が可能であることを、ぜひ知っておいてください(避妊手術をしていない場合、発生率は7倍も高くなるというデータがあります)。 最近では、6〜12週齢の早期に副作用のない安全な避妊手術を行うこともできます。