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all words by Dr.NORIHIRO KOMIYAMA

Dr. 小宮山の健康相談室

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犬もボケる?
原因
検査
病院での処置
家庭での処置
日常生活での注意点
体の中が酸化する?

■犬もボケる?
 人間が高齢になると、いわゆる呆けのような症状が現れることがありますが、犬も高齢になると、人間と似たような呆けのような症状が出るのではないかと考えられています。

 ただ、学問的には新しい分野なので、今の段階では、まだわからないことがたくさんあるのが現状です。それでも、呆けといわれる高齢性の変化が起こるのは、「βアミロイド」と呼ばれる物質が脳内に蓄積するからだと考えられています。この物質は、人間のアルツハイマー病の原因となるもので、これが蓄積することにより、学習能力、認識能力、記憶力などが客観的に低下することが知られています。 高齢になると、体のいろいろな機能が衰えてきます。そして、行動や性格の変化も目立つようになります。それらのうち、脳の異常を原因とする変化を惚けと呼んでいいでしょう。

 呆けてくると、いろいろな反応が鈍くなります。たとえば、名前を呼ばれても、飼い主のほうを見ないこともあります。刺激に対する反応が、鈍くなるのですね。 また、遊び方が変化したり、眠っている時間が多くなったり、いろいろなことに過敏になったりします。 しかし、高齢犬に起こるこれらの変化が、必ずしも脳の異常だけを原因とするわけではありません。大切なのは、ある変化が起こったとき、その原因がどこにあるかを鑑別することです。

 たとえば、歩く動作が鈍くなったという場合、高齢による脳の変化、すなわち呆けのひとつの症状である可能性もあります。しかし、脚の筋肉が衰えたとか、あるいは関節炎を起こしたとか、原因が脚にあることも考えられます。また、視力が低下し、目がよく見えないので、のろのろ歩くという場合もあります。 このように、同じ症状でも、いくつかの原因が考えられます。正しい原因を早く見つけることが大切です。たとえば、視力の低下に気づかないでいると、手遅れになってしまうこともあります。
■原因
 脳の機能を変化させる原因となる病気には、まず脳腫瘍があります。脳腫瘍の場合、腫瘍ができる場所によって、症状は大きく違ってきます。歩き方などの行動に異常が出たり、性格に異常が現れることもあれば、ひどい場合は全身性の発作まで、その程度や範囲はさまざまです。 6歳以上の犬が突然けいれん発作を起こした場合、脳腫瘍も考慮に入れる必要があります。

 脳の血管の障害は、人間ではいわゆる卒中の原因となります。犬では人間ほどこの障害は見られませんが、まれに血管が詰まり、脳出血を起こすこともあります。症状はやはり、出血の場所によっていろいろです。 脳の炎症も、脳の機能を変化させる原因となります。

 老化が進んだり、呆けの症状が現れるのは、体の中の酸化物質が増えることが原因のひとつではないかと考えられています。 酸化とは、簡単にいえば錆びることです。鉄が錆びるのは、空気中の酸素と化合する、すなわち酸化するからです。 体の中でも、鉄の錆びに当たるような物質が酸化によってつくられ、いろいろな病気を引き起こしたり、老化を早める原因のひとつになっていることが知られています。

 最近、「抗酸化」という言葉がよく使われますが、これは酸化を抑制することを意味します。体の中が酸化するので、いろいろな病気にかかりやすくなるのだから、その酸化を抑えて、病気を防ごうというわけです。 抗酸化の働きを持つ栄養素としては、ビタミンCやEが知られています。また、いろいろな抗酸化剤が開発され、それらの利用も広がっています。

 犬の場合も、抗酸化剤を強化したフードが開発されています。高齢犬はこれらを利用することができます。 また、酸化の進んだ食べ物を食べないようにしなければなりません。たとえば、人間の場合、油で揚げた食品は日数がたつと油が劣化する、すなわち酸化するのでよくないと言われています。 犬もフードはもちろん、古い食品を食べさせないようにしましょう。食品が古くなるということは、酸化が進むということです。
■検査
 呆けのような症状が疑われる犬に対して、動物病院では、まず飼い主の話を注意深く聞き、状況の把握に努めます。 身体検査は、神経学的な検査と眼底検査が特に重要です。神経学的な検査には、脳神経の検査と脊髄神経の検査があります。また、脳腫瘍の疑いがあるときは、CTスキャンやMRIなどの機器を応用する機会も増えています。これらの検査には長時間の麻酔が必要ですので、麻酔に耐えられるかどうかまず調べることが先決です。

 目の検査は、眼底鏡を使用した特殊な検査を行います。視力が低下すると、犬は新しい場所に行くと注意深く歩くようになります。しかし、目が悪くなっていることに気がつかないと、脚の筋肉が弱くなったために歩き方が変化したと思ってすませるかもしれません。そういうことを防ぐためにも、視力の検査は重要になります。

 目が見えているかどうかを調べるには、いろいろな方法があります。犬を台などの上にのせ、頭の上から目の前を通るように脱脂綿を落とす方法があります。これを左右両方の目で行います。目が見えていれば、犬は落下する脱脂綿を目で追います。脱脂綿を使用するのは、床に落ちたとき、音がしないようにするためです。落ちたときに音がすると、犬は音に反応してしまいます。

 また、犬を階段の前に置いてみる方法もあります。もし階段にぶつかって、登ることができないなら、目が見えなくなっていると考えられます。 犬は目が見えなくなっても、同じ環境にいれば、家の中の家具の配置などを覚えているので、ぶつかったりせず歩くことができます。しかし、家具の配置を変えた場合は、目が見えなければぶつかってしまいます。これも検査の方法のひとつです。

 また、視力の低下が進んでいれば、暗いところではよけい見えにくくなります。朝の散歩のときと、夕方以降の散歩のときで、行動に変化がある場合、視力が低下していることが考えられます。

 高齢になると、聴力も低下します。聴力の検査は、犬に気づかれないように、後ろで鈴を鳴らす方法があります。鈴の音に気づいて振り向けば、耳は聞こえています。聴力の検査は、風圧が出ない方法で行うことが大切です。音と同時に風圧が出ると、犬は風圧に反応してしまいます。たとえば、手を叩くのは、風圧が出るので、よい方法ではありません。 嗅覚は、犬の好きなドッグフードを鼻の近くに持っていく方法で検査します。くんくんとニオイを嗅ぐようなら、嗅覚はあると思って良いでしょう。


いますぐできる視力・聴力・嗅覚テスト
以下のテストは、視力、聴力、嗅覚が簡単に家庭で調べられる方法です。
愛犬の健康のため、定期的に行って調べてみてください。

視力テスト
犬を台の上に乗せ、犬の頭の上から脱脂綿など(軽くて小さいもの)を片方の目の前を通過するように落として、目でそれを追うかどうか調べる。左右交互に行って両目を調べる。 階段の前に犬を置き、登ることができるかどうか調べる。
犬に気づかれないように注意して、歩く場所に障害物を置いて、その障害物を避けて歩くかどうか調べる。 朝と夜にそれぞれ散歩して、行動に変化が見られるか、変わりがないかどうかを調べる。
聴覚テスト
犬に気づかれないように、後ろで(風圧が出ないように注意して)小さめの鈴を鳴らして振り向くかどうか調べる。
嗅覚テスト
犬の好物のドッグフードを鼻の近くにもっていき、くんくんとにおいを嗅ぐかどうか調べる。
■病院での処置
 前述のように、体の中の酸化がすすむことが、老化や呆けの原因のひとつではないかと考えられています。 そこで、老化や呆けの症状が現れるのを遅らせるには、酸化を抑える方法が有効ではないかと考えられています。現在は、抗酸化剤が開発され、抗酸化剤を強化したフードもあります。できるだけ早めにそれらを使用するのも良い方法です。
■家庭での処置
 表に示した呆けの症状のうち、3つ以上が出ていれば、要注意です。その場合は、呆けについて専門的な知識をもつ獣医師に診断してもらうことをお勧めします。

 犬の生活環境は、変えないようにしましょう。同じ環境であれば、犬は安心感を持つことができます。 もし排尿排便を我慢できない状態になったら、汚れても簡単に掃除できるように工夫することも大切です。たとえば、カーペットなどを敷いた部屋よりも、フローリングの部屋のほうが掃除しやすいでしょう。 食事は、先述のように抗酸化剤強化フード(動物病院で入手できます)を利用できます。これを与えれば呆けが治るわけではありませんが、進行を遅らせる効果はある程度期待できます。

ボケの主な症状
以下の項目が3つ以上当てはまる場合は、要注意!
□飼い主の呼びかけにすぐに反応しなくなった
□遊び方が変化した
□眠っている時間が長くなった
□周囲の人がいないと不安になり、よく鳴くようになった
□以前より遠吠えする
□以前より興奮しやすくなった
□何事にも過敏になってきた
□以前はしなかった行動を、するようになった
□排泄の習慣が変化した
さあ、いくつ当てはまりましたか?

■日常生活での注意点
 老化も呆けも徐々に進行し、急に起こるのではありません。毎日一緒にいると、それらの変化にはなかなか気づきません。 犬が6歳以上になったら、年に1〜2回、定期的にいろいろなテストをして、前回と比較してみるとよいでしょう。たとえば、視力、聴力、嗅覚のテストは、家庭でもできる簡単なものもあります。それらを定期的に行うようにしましょう。 また、遊び方や行動に変化が現れることもあります。これらの変化を見るには、遊んでいるときや歩いているときの様子をビデオに撮っておくとよいでしょう。

 人間の場合、高齢になっても、いろいろなことに好奇心を失わないでいると、なかなか呆けないとか、呆けが進まないといわれています。 犬の場合も同じように考えられています。毎日の生活が退屈だと、老けこんだり、早く呆けが出たりするかもしれません。無理にならない程度に散歩をさせたり、一緒に遊んであげたりするとよいでしょう。 子犬のときから、しつけをきちんとしておくことは特に重要です。

 高齢犬が周りに人がいないと不安になって(分離不安)、鳴くことがあります。このような場合、犬が安心できる場所をつくり、そこでリラックスしていられるといいですね。高齢になるとしつけで教えられたことを忘れることもありますが、人間の指示を聞く習慣がついていれば、再度教えるのも楽でしょう。 人間の場合呆ける人が増えてきたと言うことは、高齢者自身が増えてきた、すなわち長生きするお年寄りが増えたからとも考えられます。 犬も長寿犬が増えてきましたから、必然的に呆ける犬も多くなるでしょう。呆けを治したり、高齢犬を呆けないようにすることは難しいでしょう。

 大切なのは、呆けの症状が出るのを、できるだけ遅らせることです。それには、やはり子犬のときからの生活習慣が重要ですね。 基本的なことですが、規則正しい生活習慣をつけ、飼い主を信頼し、喜んで飼い主の指示に従う犬に育てましょう。また高齢犬には、十分に休息をとらせてあげることも、わすれないでください。老化や呆けの対策は、子犬のときから始まっているのです。

ボケ対策を考える!
なってしまってからでは遅い愛犬のボケ。
6歳くらいから、しっかりボケ対策を講じるようにしましょう!

@年に数回、遊んでいるときや、歩いているときの様子を記憶しておく。ビデオカメラを持っていれば、撮影しておき、前回と比較してみる。動作に異常が見られれば、すぐに動物病院へ。
A無理にならない程度に、散歩をさせたり、一緒に遊んであげる。 B高齢になったら、安心できる環境で十分に休息をとらせる。
■体の中が酸化する?
 体の中が酸化するということは、酸素の一形態である「フリーラジカル」が細胞膜を攻撃し、「過酸化脂質」という物質をつくってしまうことと関係しています。抗酸化作用を持つビタミンCやEは、互いに協力して、フリーラジカルの害をなくしてしまうことができます。しかし、ビタミンCもEもほかの栄養素の助けによって、抗酸化力を十分に発揮できるのです。ビタミンCやEだけを偏って摂取するのでなく、栄養素はバランスよく摂取することが大切です。