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all words by Dr.NORIHIRO KOMIYAMA

Dr. 小宮山の健康相談室

  下痢が心配  dog2ani.gif 31x25 1.63KB

下痢の基本的知識
飼い主の心得
原因
検査
家庭での処置および看護法
病院での処置および治療法
日常生活での注意点
獣医師よりのアドバイス

■下痢の基本的知識
 下痢とは正常よりゆるい便が出る状態で、比較的よく起こる病気です。それ故、あまり心配しなくてもよいケースが多い一方、死亡率の高い非常に恐い伝染病(たとえば、パルボウイルス感染症など)を原因とする下痢もあります。

 最も重要なことは、飼い主の方がそのような生命に関わる下痢を即座に発見し、すぐに動物病院へ連れて行く判断ができることです。 そのためにも、「よくある病気」と軽く考えないで、下痢について基本的な知識を持っておくことが必要です。

 まず、下利便の状態は、正常時より少し軟らかい便(軟便)からほとんど水のような便(水様便)まであります。 また、血液が混じっていることもあり(血便)、このときは特に注意しなければなりません。 血便が鮮やかな赤い色であれば、消化管の下の方、すなわち直腸や大腸からの出血が考えられ、褐色に近い色であれば、消化管の上の方、すなわち胃や胃に近い小腸からの出血が考えられます。 血液の色は出血してから時間が経過するほど、黒っぽくなるからです。
 もし、特に子犬がトマトジュースのような血便をしたら、恐ろしいパルボウイルス感染症の疑いがあります。すぐに、動物病院へ連れて行ってください。
■飼い主の心得
 愛犬が下痢をしたら、飼い主として大切なことは、原因を推定することです。すなわち、普段と変わったことがなかったかどうか、よく考えることです。たとえば、いつも食べないものを食べなかったか、散歩中などに拾い食いをしなかったか、いつも行かないところへ連れて行かなかったかなど、食べ物や環境の変化がなかったかどうかをよく考えてください。

 もし、何か思い当たることがあれば、それを下痢の原因と推定することができます。通常、これらの下痢は一過性のもので、あまり心配する必要はありません。
これに対して、いつもと同じものを食べ、何ら生活の変化もないのに、犬がひどい下痢をしている場合、体の中でよほど大きな変化が起こったと考えられます。このように原因として思い当たることが何もないとき、その下痢はより危険です。すぐに動物病院で調べてもらいましょう。

 犬が何かの病気にかかっていて薬を飲んでいる場合、その副作用で下痢をすることもあります。投薬するときは、その薬を飲むことによって副作用があるかどうか、あればどういう副作用かなど、獣医師によく聞いておきましょう。

 慢性の下痢もあります。通常、このような下痢の特徴は、間欠的に起こることです。すなわち、下痢をしたり、正常に戻ったりという状態となり、これが1〜2カ月以上も続きます。
 このような場合、その下痢の状態がだんだん良くなっているのか、あるいは逆に悪くなっているのかを観察することが重要です。もし悪くなっていれば、何らかの病気が進行していることが考えられますから、動物病院で診察してもらう必要があります。

犬が下痢をしたら、次のことをチェック
まず、
原因を推定する
□食べたことのないものを食べなかったか?
□食べ過ぎてなかったか?
□フードを変えたか?
□拾い食いをしなかったか?
□牛乳を飲まなかったか?
□薬の副作用はないか?
□興奮したりストレスのかかりそうな環境の変化がなかったか?
思い当たる
原因がある
□いつもと変わらず元気である
      −−→  一過性の下痢なのであまり心配はない
□食欲も元気もない
      −−→ 何らかの病気が疑われるので病院へ
思い当たる
原因がない
□重い病気の疑いがかなり濃厚なので、すぐに病院へ
■原因
 下痢には急性と慢性があり、原因は胃腸管にある場合と胃腸管以外にある場合に大きく分けられます。 そして、原因が消化管にある場合、小腸性と大腸性に分けて考えられます(小腸性と大腸性の割合はだいたい半々です)。 原因となる病気については、表に示しましたので、参考にしてください。

 犬が急に下痢をした場合、先述のように、飼い主はまず思い当たる原因を推定することが大切です。もし、前日犬が拾い食いをしたところを目撃していれば、それが原因と推定できます。また、フードを変えたり、食事の量がいつもと違っていたり、食べたことのないおやつを与えていれば、それらを原因と考えることができます。

 しかし、「昨日珍しいおやつを食べたから、下痢をしたんだ。」と推定できても、より注意深く犬を観察することが大切です。具体的には、下痢をしている以外に、何か症状がないかどうかを観察することです。たとえば、食欲がまったくないとか、元気がなくぐったりしているような場合、単に食べ慣れないものを食べたために下痢をしたのではなく、ほかに原因が隠れている可能性も考えられます。やはり、病院で診察してもらうのがよいでしょう。

 下痢をしやすい食べ物を知っておくことも重要です。たとえば、牛乳を飲むと下痢を起こす犬がいます。牛乳に含まれる乳糖の分解酵素が少ないために、下痢を起こすのです。
 牛乳はカルシウムを豊富に含み、栄養バランスの良いすぐれた食品ですが、犬に水の代わりに与える場合は、注意が必要です。必要な栄養は、フードを適正量与えていれば、不足する心配はまったくありません。

 昨今、栄養について問題なのは、不足することではなく、むしろ過剰にとることのほうなのです。カロリーも栄養もとりすぎると弊害があります。もし、愛犬が牛乳を好きだとしても、ときどき何かのご褒美に与える程度でよいでしょう。
 なお、犬には人間用の牛乳ではなく、動物用の牛乳を与えるのがよいでしょう。また、牛乳を温めると下痢をしにくくなるようです。

 興奮やストレスが原因で下痢をすることもあります。たとえば、環境の変化により、犬が緊張を強いられた場合など、下痢を起こすこともありますが、通常は軽症です。
多くの場合、このようなストレスによる下痢は、実際の程度より大げさに取り上げられる傾向にあります。
■検査
 下痢をしている動物に必要な検査はまず糞便検査ですが、下痢を起こす病気はたくさんあるため、はっきりと原因を突き止めるには、尿、血液、レントゲン検査など、多くの検査を行います。

 慢性の下痢の場合、特に確実な診断が重要で、ただ便を固める作用のある薬を与えるだけの対症療法では不十分です。このような場合、内視鏡(胃カメラ)による検査が威力を発揮します。内視鏡で胃腸管の異常を見つけ、その部分の組織の一部を採取して調べれば、多くの場合どのような病気であるか診断を下すことができます。
■家庭での処置および看護法
 予防ワクチンを打っていない子犬が、急にトマトジュースのような下痢便をしたら、最も疑われるのはパルボウイルス感染症です。この場合、応急処置をして「様子を見ている」余裕はありません。すぐに動物病院へ連れて行ってください。

 下痢をしている犬の看護法としては、環境に気を配ることが大切です。たとえば、トイレに行くのが間に合わず、トイレ以外の場所で下痢をしてしまうことがあります。そうなると、一緒に生活している家族も困りますので、トイレのある一角を囲い、汚れても良いカーペットや新聞紙などを敷いて、その中に犬を入れておくような工夫も必要です。
 そして、犬が下痢をしたら、すぐに下痢便の始末をし、環境をきれいにしておきましょう。飼い主が手袋をすれば、便の始末も手際よくできるでしょう。犬の肛門の周囲をきれいに拭くことも大切です。

 下痢をしている動物に水を与えて良いかどうかも、大切な問題です。下痢により水分が失われるので、補給する必要はあるのですが、水分を与えれば、ますます下痢が激しくなることも考えられます。病院では、口から水を飲ませるのではなく、注射による水分補給が可能ですが、家庭では難しいでしょう。

 そこで、家庭でできる良い方法があります。犬が喉の渇きを訴えたら、氷を数個与えることです。氷なら水分が一気に胃腸管に入ることはなく、ペロペロ嘗めることで喉の乾きは緩和されます。しかも、冷たいので胃の粘膜が冷やされ、炎症を抑えることもできます。
 氷ではなく水を与える場合も、少量ずつ与えましょう。一度に大量を与えると、飲んだ水をすべて吐いてしまうこともあります。
 どのくらいの量を与えば良いかは、診察した獣医師に相談してください。

 下痢をした動物には、食事を与えない、すなわち絶食するのが原則です。一般には、動物が比較的元気がある場合、1日の絶食をし、あまり元気がない場合は、半日の絶食をします。より具体的なことは、獣医師の指示に従ってください。

 下痢をした犬に、人間の胃腸薬を飲ませるのはやめるべきでしょう。人間の胃腸薬は潰瘍を抑えたり、胃酸の分泌を調節する効能を持つものが多いのですが、犬にはそれらの必要性があまりありません。ただし、人間の薬でも、ビール酵母や乳酸菌などを使用したものは、犬に効果があることもあります。

下痢をしている犬には、こうしてあげよう!
犬のいる場所を囲い、
カーペットなどを強いておく
犬の肛門周囲をきれいにする
下痢をしたら、すぐに始末する 犬がのどの渇きを訴えたら、
水を少量ずつ与える
(例えば、氷を数個与える)
快適な温度環境を保つ

■病院での処置および治療法
 先述のように、下痢の原因は胃腸管にある場合と胃腸管以外にある場合(すい臓、肝臓、腎臓、副腎等)に分けられます。動物病院ではこれらの鑑別を行わなければなりませんので、いろいろな検査が必要になります。

 下痢の基本的な治療法は絶食です。口から食事を与えず、症状に応じて、輸液や点滴等の療法を行います。 また、感染があれば、抗生物質を与えて治療します。
■日常生活での注意点
 下痢の中で最も恐ろしいのは、感染症によるものです。たとえば、急性の激しい下痢を起こすパルボウイルス感染症は、死亡率の高い非常に恐い病気です。しかし、ワクチンを打つことによって、予防することができます。これらの予防ワクチンを定期的に必ず打つことが大切です。

 問題なのは、まだワクチンを打つ前の子犬です。可愛い子犬がこのような恐ろしい病気にかかると、本当にかわいそうです。子犬をワクチンを打つ前に外に出したり、ほかの犬と接触させるのは避けましょう。

 拾い食いも下痢の原因になります。下痢をしただけですめばまだ良いのですが、中には毒物を入れた食べ物をまくなど、悪質な行為をする人間もいます。愛犬を人間の悪意の犠牲にしないために、飼い主はきちんと犬のしつけをしておくことが不可欠です。犬が落ちているものを食べようとしたとき、それをやめさせる方法を必ず覚えてください。しつけの本を読んだり、しつけ教室等に参加すれば、その方法がわかります。

 寄生虫感染にも気をつけなければなりません。よく散歩をする犬は、特に寄生虫に感染しやすいので、動物病院で定期的に検便を受け、寄生虫が見つかれば、すぐに駆虫しましょう。外に出る犬はできれば年に4回、少なくとも年に2回、室内犬は年に2回、検便を受けるようにしましょう。

 感染症や毒物による事故死は防ぐことができます。飼い主はそのための努力を決して怠ってはいけません。

予防の心得
必ず、定期的に予防ワクチンを打つ
きちんとしつけをし、
拾い食いなどをさせない
検便をし、
寄生虫感染を防ぐ

■獣医師よりのアドバイス
 犬が下痢をしたら、その時点で体重を測っておくことをお勧めします。下痢をすることによって体重が減少するか、あるいは変化がないかということも、原因の推定に役立ちます。

 通常、体重が減少する場合、その下痢の原因は小腸にあります。小腸は食べ物の栄養を吸収する場所ですから、そこに異常があれば、栄養がうまく吸収されないため、体重が減少するのです。

 これに対して、体重の変化がない場合、その下痢の原因は大腸にあると考えられます。食べ物が大腸に送られてきたときは、すでに栄養が吸収されており、ここでは水分が吸収されるだけです。大腸に異常があっても、栄養の吸収には関係がないので、体重の変化はあまりみられません。