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all words by Dr.NORIHIRO KOMIYAMA

Dr. 小宮山の健康相談室

耳の病気について
(99年6月「耳の病気AtoZ」Vol.79掲載 2001/10/1 第1回改訂)

聴覚障害
耳ダニ感染
外耳炎
中耳炎と内耳炎
耳の皮膚炎
耳垢性外耳炎
脱毛症
耳血腫
飼い主にできる耳の病気の治療法とは?

聴覚障害
今回は耳の病気についてお話ししましょう。まず、聴覚障害(難聴)、すなわち耳が聞こえない、または聞こえにくい疾患について簡単に説明します。

聴覚障害には、耳がまったく聞こえないものから、全然聞こえないわけではないが聞き取りにくいというものまで、その程度には差があります。しかし、まったく聞こえないという障害は、通常非常にまれで先天的な病気です。

聴覚障害は一生の間続き、通常治すことはできません。しかし、閉塞などが原因で一時的な聴覚障害に陥った場合は、治療によって聴覚が回復されることもあります。

犬が高齢になってくると当然耳も聞こえにくくなってきます。高齢に伴う変化としては、眼・耳・鼻の順序で機能が低下してきます。また、高齢犬が耳垢性外耳炎に冒されて、聴覚障害を引き起こすこともあります。

一般に聴覚障害のある犬は、視力も低下しているため驚きやすいものです。急に触ったりすると、びっくりして咬みつくこともありますから、注意して接する必要があります。例えば、触るときは声をかけてから触るようにしてください。すなわち、そのような扱いは盲目の犬を扱っているのと同じことと考えてください。

散歩中も、音に対しては危険に気づかないことがありますから、飼い主が十分に気を付けてあげることが大切です。
耳ダニ感染
耳ダニは動物の耳の内に寄生するダニです。耳ダニや耳カイセンは俗称で、正しくは「ミミヒゼンダニ」と言います。これらは非常に強い感染力をもっています。

複数の犬を飼っている場合、1頭に耳ダニが見つかれば、他のすべての犬も耳ダニに感染している可能性が高いと言えます。特に仔犬はこのダニに感染しやすく、ミミカイセンは生後2-3カ月の犬に最も寄生しやすいと考えてください。

耳ダニに寄生されると、耳のなかに黒くて固いワックスのようなものがたまります。これを採取して顕微鏡で観察すると、ダニが実際に動いているのが見えます。そして、犬は頭を傾けたり、振ったり、耳を掻くことが多くなります。前述のように、この耳ダニ感染は若い犬に多いので、そういう時期に感染による不快症状を経験すると、その後の成長過程において精神衛生上悪い影響を及ぼすことがあり、問題となっています。

したがって、なるべく早くこの病気を見つけて治療する必要があります。仔犬を飼う際には、耳の内が黒くなっていないか、よく耳を振ることがないかを調べると良いでしょう。

治療はまず、カイセン虫を見つけることから始めます。もし見つかったら、できるだけ清潔を心がけて、軽く外耳を拭きます。その際、耳のなかをゴシゴシこすってはいけません。重症の場合は麻酔が必要になることもあります。耳を清潔にしてから、ダニを殺す薬で治療します。最近では、イバーメクチンという効果のある薬が使用できますので、治療も以前と比べて大分楽になりました。

しかし治りにくいこともあります。そのような場合、耳だけではなく体全体の治療が必要になることもあります。予防のためには、定期的に耳をチェックし、何か異常がないか調べるようにしましょう。
外耳炎
耳の穴の入口から鼓膜までを外耳道といい、この部位に起こる炎症が外耳炎です。

原因としては、細菌・マラセチアなどの真菌(カビ)・ダニなどによる感染・アレルギー・腫瘍・異物・耳の穴の毛のもつれ・耳アカなどが考えられます。

特に耳の垂れ下がっている犬種や、外耳道に毛が多く生えている犬種(特にコッカースパニエルやプードルなど)では、耳のなかが高温で湿っぽくなり、耳アカがたまりやすくなります。このような状態は細菌やカビが繁殖するには最適の条件となります。

外耳炎にかかるとかゆみや痛みが伴うので、犬は頭を振ったり、首を傾けたり耳を引っかくことが多くなります。治療は原因を調べることから始めます。耳アカの一部を採取して顕微鏡で調べるのです。例えば細菌が見つかった場合、抗生物質で治療します。それから通常、その原因に対する二次的な治療、例えばかゆみがあればかゆみ止めの投与などが行なわれますが、重い症状が長期的に続いている場合は外科手術が必要になることもあります。
中耳炎と内耳炎
外耳炎が中耳にまで及び、中耳炎になることがあります。もっとひどくなると内耳にまで及び、内耳炎になります。

外耳と中耳の境界には鼓膜がありますが、この鼓膜が何らかの原因で破れることにより炎症が中耳にまで広がります。

例えば、腫瘍ができたり異物が耳に侵入することで鼓膜が破れることがあります。また、耳を掃除しているとき鼓膜を破いてしまうこともあります。

鼓膜が破れると大変だと思われがちですが、実はそれほど大変なことではありません。

実際、外耳炎のうち約70%くらいはすでに鼓膜が破れていますから、中耳炎や外耳炎では外耳炎よりも高率で破れています。しかし、犬の場合は約2週間でほとんど再生しますので安心してください。また、中耳と鼻や咽頭などの上部気道はつながっているので、それらの部位の感染が中耳にまで達し、中耳炎を引き起こすケースも見られます。

中耳炎や内耳炎にかかると、膿が流れ出たり悪臭がします。犬は頭を傾けたり、振ったり、耳を掻く動作を多くするようになります。

また、内耳炎にかかるとある一定の方向にグルグルと旋回することもあります。つまり内耳が冒されると、運動障害・斜頸などの症状がはっきり表れてきます。最終的にはテンカン様の発作が起こって死亡することもあります。診断は臨床検査・エックス線検査などによって行ない、通常は外科処置によって治療します。

中耳炎は外耳より、内耳炎は中耳より深い部位での炎症ですから、部位が深いほど治療が難しく、かなり積極的な治療が必要となります。
耳の皮膚炎
耳の皮膚が蚊・ハエ・ブヨなどの虫に咬まれて皮膚炎を起こすことがあります。そのような虫に咬まれると、耳介(耳の外周り)が赤くなったり、脱毛したり、皮膚に俗に言う湿疹ができ、そこが固まってかさぶたになったりします。犬がかゆがってかさぶたを引っかくと、そこから二次感染が起こることもあります。

通常はまず耳介が冒されますが、進行すると目や鼻に広がる場合もあります。治療は抗菌剤や軟膏などを使って行ないますが、皮膚炎の原因となる虫を駆除することが非常に重要です。

また、寒冷地に住んでいる犬の場合、耳介が破壊される病気でもあります。これは自己免疫性の病気で貧血を特徴とする恐ろしい病気です。この病気はちょうど凍傷のように見えます。もちろんこれとは別に本物の凍傷という病気もあります。

コッカースパニエルなどの場合、脂漏性皮膚炎と言う耳介にフケのようなものがたまって脱毛したりする病気も見られます。
耳垢性外耳炎
これは俗に「肥厚性外耳炎」と呼ばれますが、正式には「耳垢性外耳炎」や「増殖性外耳炎」と言われ、耳のなかが厚くなり、穴が見えなくなるくらいまで腫れてくる状態を言います。一般に耳の病気が慢性になるとそういう状態になるようです。しかし、急に起こることもあり、そのような場合は、ノミや食物のアレルギー、あるいはアトピーが疑われます。 治療としては、外耳炎の原因を見つけ、それに合った方法で行います。
脱毛症
耳の全体あるいは一部の毛が抜ける病気があります。前述のハエなどの刺傷や脂漏性皮膚炎などでも脱毛は起こりますが、「カイセン」という全身の寄生虫でも耳介が脱毛します。特にダックスフンドでは遺伝的素因のために耳の脱毛症にかかることがあります。この脱毛症はオスに多く見られ、だいたい1歳になる前から脱毛が始まり、徐々に進行して8-9歳頃までにはすっかり抜けてしまいます。これは遺伝性ですから治すことができません。

また、ミニチュアプードルでも耳の毛が束になって抜けることがあります。しかし、この脱毛症の場合は一時的なもので、しばらくすれば(だいたい3-4カ月)再び生えてきます。

まれな例
天疱瘡と呼ばれる自己免疫性の病気で、特に落葉性(細かい落ち葉が顔や耳に付着するような状態になる)のタイプではよく耳や顔に脱毛が見られます。他に、メス犬では特にホルモンのバランス異常のため脱毛を起こすことがあります。甲状腺機能が低下していると脱毛しやすくなるのです。ホルモン異常が原因の場合は両側性で起こるのが特徴です。遺伝性以外の脱毛症では、脱毛の原因になっている病気を鑑別し、その原因の病気を治療することが肝要です。

ハスキーやアラスカンマラミュートに好発する亜鉛欠乏性の脱毛もあります。顔と耳介が赤くなったり、脱毛したり、フケの固まったようなものが見られます。

かゆみを伴う脱毛では、犬が自分で刺激して毛が抜ける場合もあります。

脱毛のある部分の毛をそっとつまんでみて簡単に抜ける場合は、内分泌性か慢性の重度な病気に冒されているか、あるいは遺伝的な脱毛を疑うことができます。

耳に薬を付けた場合、アレルギー反応を起こし、その部分を中心に脱毛することもあります。
耳血腫
耳介は軟骨を皮膚が覆う形で構成されています。耳介には無数の血管が張り巡らされていますが、その血管が切れ、軟骨と皮膚の間に血液の成分がたまり、耳介が膨れあがる病気が耳血腫です。比較的中型の犬に起こりやすいようです。

血管が切れる原因としては、いろいろな耳の病気のために犬が不快に感じ、頭を激しく振ったり、耳を引っかいたりして、軟骨に物理的刺激を与えてしまうことが考えられます。しかし、最近では自己免疫が関係しているとも考えられています。

この疾患は痛みを伴い、犬は首を傾けたり、振ったりすることが多くなります。

治療法としては、耳介にたまった血液成分を注射器で抜き取る方法がありますが、これではまたすぐにたまってしまうので、あくまでも一時的な処置に過ぎません。

通常は外科手術によって治療しますが、耳の形が少し変化する場合があります。
飼い主にできる耳の病気の治療法とは?
病気を治すには、原因を突き止めてそれに合った治療法をとらなければなりません。耳の病気に対して、飼い主にできる治療法もないわけではありません。もちろん、それだけで完全に治ることはなくても、進行を止めたり、症状を軽減することはできます。

今回そのとっておきの方法をお教えします。もしあなたが最近話題となっている超酸性水を持っている場合、それを使用すると良いのです。もし持っていない場合は、お酢を使用します。それらを5-10倍に薄め、耳の中にときどき滴下します。1日に2-3回、2-5滴を滴下し、耳を少しもんで中まで浸透させます。これを3日間続けます。次の3日間は休みます。そしてまた次の3日間滴下…、このサイクルを繰り返して行うと良いでしょう。

酢はできれば酢酸系(アセトニックアシド)のものを使用すればより効果的です。日本の酢はクエン酸系(シトリックアシド)のものが大部分です。しかしそれでもかなり効果はあります。このように酢を使うと、皮膚が酸性に傾き、種々の細菌が生息するには困難な状態になるために効果が表れるわけです。