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all words by Dr.NORIHIRO KOMIYAMA

Dr. 小宮山の健康相談室

動物医療最前線
(2001/8/8 第1回改訂)

21世紀を迎え、地球上のあらゆる生き物の共存が1つの大きなテーマとなっています。動物医療の分野では、予防医学の発達・最新医療技術の進歩・最先端機器の導入などにより、これまで以上に動物の健康に貢献できるようになってきました。飼い主の皆さんもこれらの情報を得る努力をし、愛犬を病気から守ってあげてください。

予防医学の発達で寿命が延びている
ガンに負けるな抗ガン療法
ペインクリニック(痛みの治療)
歯の病気
動物のCT検査・MRI検査について
眼に見えない獣医学から眼に見える獣医学へ―画像診断
血液の動きをカラーで見る心臓の断層撮影
レーザー

Q&A1
Q&A2

予防医学の発達で寿命が延びている
動物医療の形態も、時代の進歩とともに大きく変わってきています。大きな特徴は、最近予防医学が発達してきたため、動物の寿命が長くなってきたことです。犬の場合、予防的な健康処置を受けていれば、通常小型犬で15-18歳くらいまで 、大型犬でも12-14歳くらいまで寿命が延びてきています。

ここまで寿命が延びたことには、予防接種やフィラリア予防の普及・良質なドッグフードの出現・外科手術や輸血の技術の発達・抗生物質を始めとして薬剤の効用の拡大・新しい診断技術・より安全な麻酔薬の開発等が大きく影響しています。また、人間の医療のために開発されたあらゆる新しい治療法や技術が動物に応用され、それらの恩恵とともに動物の医療もかなり進歩してきています。しかしそれらの進歩した獣医療を行うためには、行う側の獣医師の人員・設備・技量といった問題や、受け入れる側である飼い主の費用の負担等の問題もあり、共に良く話し合って理解した上で、最も良いと思われる方法を受け入れるのが良いでしょう。
ガンに負けるな抗ガン療法
犬のガンについても抗ガン療法を行える獣医師がかなり増えてきました。以前は、犬に何か大きなデキモノがあると、見ただけでガンと言って(その獣医師が治療をできないから)飼い主に治療をあきらめさせていた傾向が一部にあったようですが、現在ではさすがに少なくなりました。

デキモノを腫瘍と考えると悪性と良性があり、良性の腫瘍はガンではありません。悪性の腫瘍をガンと言うのです。ガンはその細胞を調べて初めてガンと言えるのです。ガンといえば、その言葉を聞いただけであきらめていたのが、最近は積極的にガンと立ち向かう状況が整ってきたのです。

現在ではあらゆるガンに対してさまざまな治療法が用意されています。外科療法・化学療法だけでなく、一部では放射線療法も可能になりつつあります。手術の技術面も、体の中のあらゆるガンの部分を切り取る技術のみならず、断脚・上顎や下顎の切除など、以前では考えられなかった部分の手術も可能となりました。さらに外科手術に加え抗ガン剤の使用によって、かなり積極的な治療を行うことができるようになっています。もちろん、すべてのガンについて治療がうまくいくわけではなく、かなり難しいケースもあります。しかし以前に比べれば、ガンに立ち向かっていく価値は数段高まりました。

ガンの治療は協力して
医療の進歩を考え、ガンと診断されてもすぐにあきらめないで積極的にガンに立ち向かうことをお勧めします。もちろん先述のように、治せるガンと治すのが難しいガンがあります。例えば、大型犬に発症することがある骨肉腫などはかなり悪性で、その侵された脚を断脚しても、平均の生存期間は4ヶ月です。抗癌剤を投与しても最高1-2年前後の生存期間です。リンパ腫等の場合は、かなり積極的に治療すれば通常1-2年以上抑えられることが多いようです。

このようにガンの種類ごとにどのような治療をすれば、どれくらい生きられるかは大体判定できますので、判定結果を参照しながら、どのようにするのか御自身でお決めになるのが良いでしょう。

また、通常ガンは1人の診断医で診断がつくものではありません。まずそのガンの細胞を取り、病理学的な専門医の病理診断の結果をもとに、われわれ臨床診断医が治療を進めていくわけです。ガンの診断においてはそのプロセスが非常に重要なのです。したがって、ガンの治療においては十分にその説明を聞くことが大事です。費用はいくらかかるのか、どんな副作用があるのか、予後はどうかということを必ず聞いてから、治療を受けることが重要です。
ペインクリニック(痛みの治療)
以前の獣医学では、「犬は多少痛いくらいのことは我慢せよ」という暴論に近い論理もありました。しかし最近では人間の医学の発達とともに動物の医学でも痛みに対しての認識が非常に高まり、「痛いことは悪いこと」「痛みを我慢するのは良くないこと」という考え方が支持されつつあります。

痛みはあらゆる病気の原因となります。手術後の痛みであっても、通常の痛みであっても、例えその病気を治すことができなくても、われわれ臨床獣医師の立場として最低限その痛みを取ることが医師の倫理ともなっています。

痛みを早く取り除く
例えば何かの手術をした後で、痛がっている動物を「1-2日我慢すれば痛みがなくなる」といって我慢させるのは、もはや古い獣医学といっていいでしょう。現在では、痛みを我慢をすればそれだけ予後は悪くなる、すなわち合併症が多く引き起こされ、最悪の場合は死亡するというケースもあることが知られるようになりました。このことは以前の獣医学ではあまり知られていなかったのです。

それについては、獣医師とともに飼い主である皆さんの認識も重要と思います。当然ながら、動物医療において、獣医師も飼い主もできるだけ費用を抑えようと考えます。もし一部の獣医師が痛みに対しての治療をしなければ、当然料金は発生しません。しかし、当然動物に痛みの我慢を強いることになります。

獣医師から痛みについての説明がなければ、「うちの犬の病気に痛みは伴いますか」「治療の結果犬は痛みを感じますか」など、飼い主は積極的に質問すると良いかもしれません。

いずれにしても現在の動物医療の最前線では、「痛みは一刻も早く止めるもの」「痛みを感じる動物には痛み止めを行うこと」という認識がありますので、飼い主もそのことを知っておくと良いでしょう。
歯の病気
動物の医療では、歯の病気というと見過ごされる部分もあったのかもしれません。しかし、最近は「歯ぐらい悪いのは何だ」とか「高齢の動物の歯が悪いのは自然のなりゆき」などと言う乱暴な論理はまかり通らなくなりました。

欧米の動物病院の評価本には、小型犬の場合歯磨きの方法を指導してくれるのが良い動物病院と書かれています。我が国でも同じことが言えるでしょう。

以前オーストラリアに行ったとき、ある獣医師がコアラの寿命と歯の関係について面白い話をしてくれました。次のような話です。「野生のコアラは寿命が短いけれど、動物園のコアラは非常に寿命が長くなっています。その際1番問題になるのは歯の病気です。野生のコアラは歯が悪くなる頃かその前に寿命が尽きて死んでしまいます。ところが、動物園のコアラは野生よりも長く生きますから歯の病気にかかります。そこで、一定の年齢に達したコアラは、歯の治療をすると寿命が延びるのです」。

犬でも同様のことがいえます。最近では、麻酔をして歯石の除去をしたり、悪い歯を抜歯したり、歯のレントゲン写真を撮り歯の中を1本ずつ治療するという「歯内療法」ができる獣医師が増えつつあります。歯の治療に詳しい獣医師に十分相談して、いろいろな治療の恩恵を受けて下さい。

何といっても歯石をつけない
歯の病気では、何といっても歯石が問題になります。特に小型犬には多いです。愛犬があなたをなめようとしたとき、すごく臭いニオイがしませんか?歯を調べてみてください。きっと黄色くなっていると思います。それが歯石です。

歯石は毒物と考えてください。歯の臭い犬は、毎日毒物を少しずつ飲み込んでいることになります。ですから、例えば心臓に回れば心臓病、肝臓に回れば肝臓病、腎臓に回れば腎臓病と、体のあらゆるところに毒が回り、体をむしばみます。

仔犬のときから歯磨きを行い、歯石の予防に努めることが大切です。歯石のついた動物は、動物病院で除去してもらうことができます。最近では、麻酔をかけるなどして、積極的に歯石を除去する方法が普及しています。しかし高齢の小型犬への麻酔に慣れていない獣医師は、この方法を薦めたがりません(自分ができないから)。そんな場合はできる獣医師の所へ行く必要があります。最近の獣医学は高度化していますので、いろいろな方法をすべて、1人の獣医師、1つの動物病院でできるわけではありません。
動物のCT検査・MRI検査について
CT(コンピューター断層撮影法)やMRI(核磁器共鳴映像法)という言葉を聞いたことがあると思います。いずれも医療最前線で活躍すべき最新の医療技術で、これらにより診断方法の飛躍的な進歩が期待されます。

CTは、X線により体の断層面をさまざまな角度から撮影し、コンピューターによって画像化する方法です。CT機器の性能面は、第1世代、第2世代、と世代が大きくなるに従って、優秀な機器が出現してきています。最近では動物病院においてもCT機器を導入する機会が多くなっているようです。MRIは原子核の「核磁気共鳴」と呼ばれる作用を利用し、動物の細胞の持つ磁気を調べ、やはりコンピューターによって画像化する診断法です。

CTやMRIは、動物の頭の中のみならず全身を調べることができる最先端の画像診断方法です。しかし、動物の場合、比較的長時間(1-2時間)の麻酔が必要になることが多いようです。そのため、リスクもそれなりにありますが、今までのどの診断法よりもこれらの医療機器による方法は数段優れており、特にMRIは現段階で最も優れているといえます。ただし、もちろんこれらですべてが診断できるわけではありません。

MRI機器はCTよりかなり値段も高くなりますが、私の知る限り全国に5台ほどこの設備が導入されています。日本大学・東京大学・山口大学・麻布大学・日本獣医畜産大学の5つの病院です。
眼に見えない獣医学から眼に見える獣医学へ―画像診断
医学の特徴として「医学は眼に見えない」という欠点がありました。すなわち、体の中に病気があっても、その状態を我々の眼で直接見ることができません。そのため医学は誤解されやすい点があり、眼に見えない医学を目に見えるようにすることが重要です。それを可能にした代表的なものが画像診断です。

CTやMRIはもちろんですが、X線撮影・内視鏡(胃カメラ)・超音波等といわれるものです。これらの診断用具を使用すると、以前では考えられなかったほど簡単に診断できることもあります。

しかし、これらの用具を使用する場合は、当然費用もそれなりに高額になります。これらの医療機器を使用することに疑問があるなら、その医療機器の利用によって何が分かり何が分からないかを、担当獣医師からよく説明してもらってください。
血液の動きをカラーで見る心臓の断層撮影
心臓病については最前線の診断方法として、超音波を利用して心臓の断層撮影をするという方法があります。最近では「カラードプラー」という機器が出現し、視覚的な効果が高められました。カラードプラーを利用すれば、心臓の形や動きのみならず、心臓の中の血流、すなわち動脈血・静脈血の動きをカラーで見ることができます。

特に心臓に雑音がある場合は、この方法が有効な手段となり、小型犬に多い弁膜障害について、また大型犬の拡張性心筋症について、絶大な効果を発揮します。

このような最先端機器の出現により、動物の心臓病でも適切な薬物の効果やその薬剤の効果の判定ができるなど、診断能力および治療能力が大いに高められています。現在では、それらの超音波診断装置のある病院で、心臓病をより専門的に診断治療することも可能となりつつあります。
レーザー
従来わが国では、欧米に比べ東洋医学により親しんできました。レーザーは東洋医学の発想をより効果的に表したものですが、その使用については最近西洋医学にお株を奪われているようです。

レーザーは、半導体レーザーと炭酸ガスレーザーの大きく2つに分かれますが、ほかにもいろいろなものがあります。医療用では、治療用に使うレーザーと手術用に使うものに分かれます。最近では、一部の動物病院で、それらの最先端のレーザー治療及びレーザーによる手術がすでに可能となっています。特に神経の病気の治療において絶大な効果を表すことがあります。

これまで西洋医学では、神経の病気の治療には、神経の炎症を抑えるためステロイド剤等を投与することが中心でしたが、レーザーを利用すればさらにその効果が増すことが期待できます。ステロイド剤を少しでも減らして治療することが可能になります。

もちろんすべての病気にレーザーが有効というわけではありません。しかし代表的なものとしては、ダックスフンドによく見られる椎間板ヘルニア等について、外科療法に加えてレーザー療法を行うことが、現在最良の治療法となりつつあります。

Q1
2歳半のメスのゴールデンレトリーバーです。散歩に行くたびに、小さな虫(マダニだと思います)が毛にくっつきます。ノミ取り粉をつけると2-3日間はつきませんが、ノミ取り粉をやめるとすぐつきます。

ノミ取り粉は2日おきぐらいにつけ続けても大丈夫でしょうか?また、ノミ取り首輪でも完全に防げるでしょうか?スプレー状のものもありますが、毛がべとつかないか気になります。(岐阜県/M・S)
■A1
ノミ取り粉でもある程度はダニにたいして効果があるかもしれませんが、効果時間が短いのが欠点です。スプレーも同じようなものです。毛のべとつきに関しては、少量を使用することです。そのため頻回に投与しなければならず合理的ではありません。2日おきぐらいにつけ続けても大丈夫ですか?とのことですが、1-2ヶ月は大丈夫でしょう。しかし、6ヶ月とかになると話は別です。避けた方が良いでしょう。

重要なことは、いろいろな方法を組み合わせて行うと危険な場合があることです。例えばノミ取り首輪とノミ取り粉が同じ成分だと、その薬剤の効果は2倍となり危険です。違う成分ならば、大丈夫な場合もあります。一般に市販のノミ取り首輪(普通ノミよけ首輪と呼ぶ)は、動物病院のノミ取り首輪より効果は弱いのです。

現在は、ダニ等に効果がある、例えば月に1回背中に垂らすだけで効果がある薬剤があります。これらは比較的安全に使用することができます。また動物病院で使用されているノミ取り首輪にはダニに効果があるものもありますが、いくつかの注意点があります。その注意点は各々の動物病院で使用している薬剤によって違ってきますので使用の際はお聞きください。

Q2
2歳10カ月のパピヨン(2.2kg)です。今年の2月と8月に交配させ、1回目は56日目(仔犬95g)で出産し、死産でした。2回目は53日目(仔犬120g)で出産し、呼吸がやっとできる状態でしたので入院させましたが、半日で死んでしまいました。

2回とも早産だったのは体質なのでしょうか?母犬は妊娠中あまり食欲がありませんでしたが、元気は良く、毎日走り回り、出産当日もいつもと変化はなく、急に生まれてしまいました。出産が早まる原因は分かりません。もう出産はあきらめたほうがいいでしょうか?(広島県/I・Y)
■A2
早産の理由にはいろいろありますが、どれもなかなか特定できるものではありません。小型犬の1頭の妊娠には、その傾向があるかもしれません。

出産はあきらめたほうがいいでしょうか?とのことですが、まず始めに行うべきことは、その母親をいろいろと医学的に調べた方が良いと言うことです。何をどう調べるかについては、検査できる項目が動物病院によって違ってきますが、いろいろな血液検査や尿検査を始めとして、心電図・X線撮影検査・超音波検査等で身体の全体的な異常を調べるのです。すると体のどこかに感染・炎症・出血等があったり、さまざまな程度の奇形があることが分かったりすることもあります。

通常はその辺りまでで、その後もし調べるとしたらホルモンの検査等もできます。その場合不足していると予想されるホルモンを補う注射をしたりすることもあります。いずれにしても、繁殖に興味を持つ動物病院に直接行って、いろいろと相談するのが良いでしょう。