http://www.pet-hospital.org/

all words by Dr.NORIHIRO KOMIYAMA

愛犬チャンプ

芸文社:東京都豊島区東池袋3-7-9
TEL:03-5992-2051
TEL受付:月-金9:00-17:30

Dr. 小宮山の健康相談室

愛犬を救う応急処置
(98年12月「愛犬を救う応急処置」Vol.73掲載 2001/11/5 第2回改訂)

ケースごとの処置法
突然の事態に備えておこう
意識がないときは呼吸を確かめる
けいれん発作を起こしたら冷静に
出血しているときはまず止血
やけどの場合は体を冷やす
骨折部分にはさわらない
どんな毒物を飲んだか報告
仔犬は異物を飲み込むので注意
食塩を与えると吐き出すこともある
異物が食道に詰まったとき
食べ物を詰まらせたら奥に押し込む
炎天下や暑い場所には絶対に置かない
日射病・熱射病は水で冷やす

日頃からの準備
24時間受付の病院を確保しておこう
応急処置後に病院へ運ぶ
苦痛がかからないように病院へ運ぶ
犬の救急箱をつくろう
犬をしつけることも同じように重要

突然の事態に備えておこう
動物が生活する環境にはいろいろな危険が潜んでおり、思わぬ事故につながることがあります。飼い主はそうした危険から犬を守らなければなりませんが、もし事故に遭ったときは、とっさに対応できるように準備をしておくことが非常に大切です

交通事故で出血がひどかったり、異物を喉に詰まらせて呼吸困難に陥っている場合など、緊急に処置をしなければ命に危険が及ぶケースもあります。今回は、救急処置が必要な事故や病気のケースをあげ、動物病院に運ぶ前に飼い主が行うべき処置法や運ぶ際の注意点についてお話しましょう。
意識がないときは呼吸を確かめる
動物が意識を失うと、飼い主は動転すると思いますが、努めて冷静になってください。そして、動物が呼吸しているかどうかを確かめます。これはきわめて重要なことです。胸が動いていれば呼吸をしていますから、動物の胸などにさわらないように注意して病院に運びます。

もし、胸が動いていず、呼吸していないときは、呼吸できる状態にしなければなりません。呼吸が止まっているのは、空気の通る道、すなわち「気道」がふさがっていることが考えられますから、その気道を確保する必要があります。それには、犬の舌を引っぱり出してください。少しでも呼吸がしやすくなります。その方法で呼吸を回復してから、病院に運びます。

自発呼吸ができない場合は、人工呼吸を行う必要があります。自発的に呼吸ができないのは通常、より重症だということですから、一刻も早く病院に運ぶ必要があります。もちろん、動物を運ぶ車は安全運転することがより重要です。できれば、車の中などで人工呼吸をしながら、運ぶと良いでしょう。

動物の体温が下がっている場合は、体を暖める必要があります。体にさわってみて、体温が低下していることがわかったら、頭以外を毛布などでおおい、暖めてください。
けいれん発作を起こしたら冷静に
犬がけいれん発作を起こして倒れた場合も、飼い主はびっくりするでしょう。けいれん発作の原因は大きく分けてふたつあります。ひとつはてんかんで、もうひとつは心臓病です。通常、てんかん発作や心臓発作を起こしても、犬が突然死亡することはまずありません。しかし、発作の原因を突き止め、原因に応じた治療を行う必要があります。

犬がけいれん発作を起こしたときは、
何かにぶつかってケガをしないように注意してください。周囲に危険なものがあれば取り除き、取り除けない場合は安全な場所へ犬をそっと移動しましょう。発作を起こしているときに、人間がそばについていることを教えようとして、犬に話しかけたり、体にさわるのは避けましょう。かえって、状態を刺激して悪化させることがあります。

心臓を原因とする発作の場合は、発作の続く時間は10-20秒程度、長くても1-2分で治まり、すぐにもとの正常な状態に戻ります。てんかん発作の場合も、初期であれば、通常は1-2分程度で治まります。発作が治まってから、病院で原因を調べてもらいましょう。てんかんと心臓病以外にも、頭部外傷・中毒・腎不全・肝臓の奇形等が原因でけいれん発作を起こすことがあります。
出血しているときはまず止血
出血がひどいときは、病院へ運ぶ前に止血する必要があります。出血している部分より少し心臓に近い部分を、包帯や手拭いで強くしばってください。包帯や手拭いを巻いたら、内側に棒を入れてねじると効果的にしばることができ、通常は出血が止まります。このような止血処置をしてから、そっと病院に運んでください。
やけどの場合は体を冷やす
直火や熱いものにさわって火傷をした場合、真っ先に行うことは火傷の部分を冷やすことです。まず水をかけて冷やすことですが、通常、動物はいやがりますので、汚れを落とす程度で良いでしょう。できればビニール袋に氷と水を入れ、患部に当てて冷やしながら、病院へ運んでください。

火傷が広い範囲に渡るときは、できれば滅菌した清潔なガーゼで患部をおおいます。脱脂綿のように、線維がはがれやすいものは避けてください。このようなガーゼは、救急箱に常備しておくと良いでしょう。飼い主が自分の判断で薬品を塗ったりすると悪化することがありますので、そのようなことは絶対にやめてください。

ガソリンや殺虫剤のような化学物質を浴びて火傷をした場合、通常は皮膚が真っ赤になり、痛みを伴います。この場合、もし犬があまり痛がらなければ、化学物質を落としてしまうと良いでしょう。それには、水と石鹸または動物用シャンプーで繰り返し患部を洗います。もし、犬が痛がるようなら、無理にこの処置をするのはやめましょう。
骨折部分にはさわらない
骨折の可能性があるときは、骨折したと思われる部分にさわらないのが原則です。

脚を骨折し、骨が外から見える状態であれば、救急処置をします。傷口を消毒液(3%の過酸化水素など)で消毒し、清潔な(できれば殺菌した)ガーゼで傷口をおおいます。もしできれば、添え木を当てて軽くしばって、病院へ連れていきます。適当な添え木がなければ、新聞紙・雑誌・段ボール紙などを利用してください。動物を運ぶときは、平らな板や段ボールなどの上にのせ、担架のようにして移動します。
どんな毒物を飲んだか報告
動物が毒物を飲んだときは、できればすぐに動物病院に電話連絡し、獣医師に何を飲んだかを報告してください。電話でただちに、応急処置の指示をしてもらえる場合もあります。そのときは指示に従って処置をし、病院に運びます。たとえばカエル(体の腺から毒物を出すカエルがいます)を噛んで、中毒になったら、まず口の中をホースで水をかけてよく洗うことなどです。

犬を病院に連れていくときは、できれば飲んだ毒物を容器ごと持参しましょう。あるいは毒物の一部を持参し、わかる場合は毒物の名前をメモしてもっていきましょう。毒物の種類によって解毒法が違いますから、種類がわかれば早急に対応できます。
仔犬は異物を飲み込むので注意
小型犬の仔犬に特に多いのですが、異物を飲んでしまうことがあります。仔犬は何にでも興味をもち、すぐに口に入れることがあるからです。まず、飲み込むと危険なものは、犬の周囲に置かないことが大切です。そして、犬が何かを口に入れようとしたら、飼い主の指示によってそれをやめさせるようにしつけをする必要もあります。

しかし、もし飲み込んでしまった場合の処置も知っておきましょう。犬が異物を飲み込んでしまったとき、何でもただ吐かせればよいというものではありません。
吐かせてよいものと悪いものがありますから、注意しましょう。吐かせても大丈夫なものは、パチンコの玉やコインのように形が比較的丸いものです。尖った部分のあるものは、無理に吐かせると食道を傷つける怖れがあります。
食塩を与えると吐き出すこともある
もし異物を飲み込んでも、苦しそうにしていない場合(すなわち、すんなり胃の中に入った場合)、飲み込んだ異物が吐かせても大丈夫なものであれば、食塩を与えると、吐き出すこともあります。体重10sくらいの犬の場合、5-20グラムの食塩をティースプーンで舌の上に置きます。そうすると、5-10分以内に、飲み込んだものを吐き出すことがあります。

ただし、この方法で吐き出すのは、異物が胃の中にある場合で、腸にまで達しているときは難しいでしょう。したがって、犬が異物を飲み込んだ直後であれば、比較的有効といえるでしょう。

異物を吐き出させることができない場合は、レントゲン検査で異物を確認し、開腹手術が必要となるかもしれません。しかし最近では、胃の中か十二指腸の近くにある場合は開腹せず、
胃カメラを使って異物を取り出すこともできるようになりました。だいたい異物の75%は取り出すことができます。
異物が食道に詰まったとき
異物が食道から胃に入った場合は、とりあえずすぐには呼吸困難になりませんが、食道(すぐ真下に空気が通る気道がある)に詰まった場合は、緊急を要します。食道が膨らみ、その下の気道が圧迫されるからです。この状態では犬は呼吸ができませんから、非常に苦しがり、舌が真っ白になることもあります。

応急処置としては、まず異物が吐き出せる物質であれば、吐き出させます。その方法は、犬が比較的小さければ、後脚を両手でもってぶら下げ、何回か上下させます。この処置によって、異物を吐き出すこともあります。人間が2人いれば、1人が犬をぶら下げ、もう1人が背中を平手で比較的強く叩くと、刺激されて異物が出てくることもあります。

大型犬の場合は、固い床の上に横向きに寝かせ、手のひらを胸の後方に当て、前方に向かって急激にぐっと力を入れて押してください。うまくいけば、異物を吐き出すこともあります。
食べ物を詰まらせたら奥に押し込む
食事のとき、大きめの食べ物やパンのような軟らかいものを連続して食べると、喉(食道)に詰まることがあります。食べ物が詰まった場合は、吐き出させるより、奥に押し込むほうが効果的です。先の丸いキャップとかボールペンの後方の丸い部分で、喉の奥へ押し込みましょう。

特に小型の仔犬や高齢の犬に起こりやすいので、十分に気を付ける必要があります。応急処置の方法を知らなかったばかりに、大切な愛犬を亡くし、嘆き悲しむ飼い主さんが日本中にいます。ぜひぜひ気を付けてください。
炎天下や暑い場所には絶対に置かない
私たち人間が暑いときに汗をかくのは、そうすることによって体を冷やし、体温を調節しているのです。みなさんは犬が汗をかかないのをご存じだと思いますが、確かに犬は汗をかきません。なぜなら、汗腺がないからです。汗腺がないのは、もともと寒冷地で生息していた犬は、体を暖める必要はあっても、冷やす必要がなかったからだといわれています。

このことを知れば、
暑い時期に炎天下や風通しの悪い場所に放置することが、犬にとっていかに酷なことであるかがわかるでしょう。実際に、暑い場所や車の中に放置されて、日射病や熱射病で命を落とす犬があとを絶ちません。そのよう場所に犬を放置することは、絶対にやめなければなりません。また、暑い時期には絶対に日中の散歩をやめましょう。散歩は早朝や夜の涼しい時間帯にしてください。
日射病・熱射病は水で冷やす
炎天下や車の中に長時間、放置しておいたりすると、日射病や熱射病にかかることがあります。風のない状況では、特に危険です。日射病や熱射病にかかった場合、できるだけ早い措置が必要です。熱射病は措置が遅れると脳に障害を起こし、死亡してしまうことがあります。

飼い主の方にできる応急処置の方法がありますので、覚えておくとよいでしょう。まず、ぐったりしている動物を一刻も早く涼しい場所に移してください。そして、冷たい水を入れた浴槽に、頭以外を浸します。あるいは、ホースで犬の体に直接水をかけます。この措置を20-30分くらい続けます。その後、氷嚢で頭を冷やしながら、動物病院に運ぶとよいでしょう。

24時間受付の病院を確保しておこう
愛犬が危険な状態に陥ったとき、飼い主は落ち着いて判断し、行動することが非常に重要です。まず、かかりつけの動物病院に連絡し、動物の状態を報告してください。獣医師が緊急措置を指示できる場合もありますので、そのときはその指示に従ってください。

休日や夜間の場合、連絡がとれないこともあります。そのときは、電話帳などで調べて、ほかの動物病院に当たってみましょう。電話帳に「24時間救急受付」と記載してあれば、その病院に連絡すると良いでしょう。

愛犬のかかりつけの病院が24時間救急受付を行っていない場合は、
緊急事態に備えて、あらかじめ救急受付をするほかの病院を調べておくべきでしょう
応急処置後に病院へ運ぶ
動物が危険な状態にあるとき、飼い主は獣医師の往診を望むかもしれません。しかし、獣医師が現場に駆けつけても、往診の器具や設備しかないので、往々にして適切な処置ができません。また、獣医師の往診を待ち、それから病院に連れていくと、時間も2倍かかってしまいます。

したがって、まず動物病院に連絡し、そこで指示が与えられればそれに従った処置をし、あるいはここで説明した救急処置をし、飼い主が動物を病院へ連れていくほうが良いでしょう。
苦痛がかからないように病院へ運ぶ
動物病院へ犬を運ぶとき、犬が咬みつく可能性があれば、口輪をしてください。息苦しそうにしているときは、犬を抱くと圧迫することになり、よけいに苦しくなるでしょう。大きなタオルや平たい板などの上にのせ、担架のようにして静かに運んでください。

小型犬はバスケットや段ボール箱に入れて運ぶこともできますが、
箱類は必ず換気の良い状態にしてください。動物を抱いて運べる場合も、胸や腹部を圧迫せず、水平の状態で抱きます。
犬の救急箱をつくろう
緊急の場合に備えて「犬の救急箱」をつくり、救急処置の際に役立つ用品を入れておくことをお勧めします。これらの用品には人間と兼用できるものもありますが、犬用のものはそれとしてまとめておくほうが良いでしょう。救急箱は家族全員がわかる場所に保管しておき、用品を使ってしまった場合はすぐに補充しておきましょう。

救急箱の内容は、ガーゼ(できれば消毒済)・包帯・綿棒・絆創膏・消毒のためのアルコール液やイソジン液(アルコールで消毒した後、イソジン液を塗る)・脱脂綿(以上はすべて人間用。薬局で入手可能)、止血剤(「クイックストップ」等。ペットショップ等にある)・定規または木片・水くみ用容器・ハサミ・安全カミソリ・ピンセット等です。また、口輪・湯たんぽも用意しておくと良いでしょう。
犬をしつけることも同じように重要
緊急の場合の救急処置を知った上で、愛犬を危険な目に遭わせないようにするのが飼い主の責任です。まず、ここで述べたことを参考に、飼い主は犬の周りにどのような危険が潜んでいるかを理解する必要があります。それらの多くは、飼い主の心がけ次第で防ぐことができます。

たとえば、毒物による中毒は、それらの毒物を犬の生活環境に置かないことによって防ぐことができます。熱射病や日射病は、犬を炎天下に放置したりせず、涼しく風通しの良い環境で生活させるように気を付ければ防げるでしょう。

また、飼い主の指示に従うように、
犬をしつけることも非常に重要です。交通量の多い場所を歩くときなど、飼い主のマテやスワレの指示に従えれば、交通事故の危険は減少するでしょう。いくら予防接種や健康診断を受けていても、強暴な犬でしつけができていないと、事故に遭う確率が高くなり、命を落としかねません。飼い主の方はしつけが犬の命に関わるほど重要であることを自覚し、仔犬のときからきちんとしつけをしましょう。