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Dr. 小宮山の健康相談室

腫瘍への対処方法
(99年8月「腫瘍への対処方法」Vol.81掲載 2001/11/5 第1回改訂)

腫瘍の対処法
犬も高齢化でガンが増える
犬のガンの30-40%は治る
乳腺腫瘍は不妊していない高齢犬に多い
不妊手術が確実な予防法
リンパ節の場所を覚えておこう
口の中を調べ腫瘍を早く発見しよう
怖い骨肉腫は大型犬に多い
肥満細胞腫の診断は比較的簡単

症状と治療
普段から犬の体をチェックしよう
検査方法も進歩している
腫瘍が小さいほど成功する外科療法
抗ガン剤の種類は100種類以上
飼い主が治療法を選択する
治る見込みがない場合

犬も高齢化でガンが増える
犬も高齢化が進んでいます。高齢になると増える病気に、ガンがあります。この現象は、人間にも犬にも共通しています。

一般に「ガン」と呼ばれている病気は、「腫瘍」の中の「悪性腫瘍」を指します。腫瘍には、良性と悪性があります。良性は腫瘍を取り除けば良いわけですが、たまに再発することもあります。すなわち、再発性と非再発性に分けられます。悪性も2つに分けられ、転移性と非転移性があり、1番やっかいなのが転移するタイプです。
犬のガンの30-40%は治る
ガンに関する統計をいくつか紹介します。まず、アメリカのある調査報告によれば、ガンは10歳以上の犬の死亡率の第1位を占め、全体の約50%の死亡原因がガンだということです。全年齢では、死因の約25%がガンですから、4頭に1頭がガンで死んでいることになります。治癒率、すなわちガンにかかった犬が治る率は30-40%とされています。ちなみに、人間の治癒率は約50%といわれています。

また、犬は皮膚腫瘍の多い動物ですが、皮膚腫瘍の約80%は良性とされています。ガンは確かに恐い病気ですが、他のすべての病気と同じように、ガンも早期に発見すれば、治療の可能性が広がり、予後も良好になります。何といっても、獣医師や飼い主が異常に早く気づくことが大切です。
乳腺腫瘍は不妊していない高齢犬に多い
犬に多く見られる腫瘍は、乳腺腫瘍・リンパ腫・口腔内腫瘍で、そのうち最も多いのは乳腺腫瘍です。
犬に多く見られる腫瘍
乳腺腫瘍 腫瘍全体の約50%
肥満細胞腫 約20-25%
リンパ腫 約8-10%
口腔内腫瘍 約3-7%

乳腺腫瘍は不妊手術をしていない比較的高齢の犬に多く、8歳以上になると発症が増えます。メス犬の乳腺腫瘍は、比較的高齢の8-10歳の犬に多く見られますが、不妊手術をしていない場合、発生率が7倍も高くなることは統計的に知られています。悪性と良性の比率は50%ずつですから、2頭に1頭は悪性の乳腺腫瘍にかかることになります。悪性の約半分は体のさまざまな部位に転移し、動物を苦しめます。最も特徴的な症状は、お乳の部分にしこりができることです。腫瘍の直径が1センチを越えると、転移の可能性が高くなります。

最近では、肺のX線写真のみならず、超音波検査の普及により、腹部の転移の状況をかなり正確に知ることができますが、悲惨な状態を招く前に予防することが大切です。
不妊手術が確実な予防法
まず、日頃から動物の体を観察し、さわっていれば、小さいうちに腫瘍のしこりを発見することができます。愛情を込めて、動物の体にさわってあげましょう。

乳腺腫瘍は、2歳半以前に不妊手術をすればほとんど防ぐことができます。子どもを生ませない場合は、早めに不妊手術をしましょう。子どもを生ませた後、次に生ませる予定がない場合も、手術をすると良いでしょう。最近の獣医学は進歩し、不妊手術は6-12週齢の頃から受けても、医学的な副作用は一切認められていません。
リンパ節の場所を覚えておこう
犬の体には、顎の下・前脚の脇の下・後脚の付け根など、数カ所にリンパ節があります。この部分が腫れた場合、悪性リンパ腫が疑われます。しかし、リンパ節の腫れには他の原因、すなわち感染等もありますから、鑑別をしなければなりません。

5-6歳以上の中年から高齢の犬に多く見られ、ラブラドールレトリーバー・セントバーナード・ボクサーなどが好発犬種です。あらかじめ獣医師より愛犬のリンパ節の場所を教えてもらい、普段からさわって、異常を早く発見できるようにしておきましょう。

体の表面のリンパ節は左右対称にありますが、体の中のリンパ節(さわることはできませんが)は真ん中に1個あるか、あるいは腸のリンパ節のように複数あります。
口の中を調べ腫瘍を早く発見しよう
口腔内腫瘍は口の中に発生する腫瘍で、比較的、大型犬に多く見られます。悪性には、悪性黒色腫・扁平上皮ガン・線維肉腫等があります。口の中の腫瘍ですから、目で見ることができます。小さいときから、口を開けることをいやがらない習慣をつけておきましょう。よく調べていれば、比較的早く発見できます。
怖い骨肉腫は大型犬に多い
骨肉腫は脚に発生することが多い怖い病気です。大型犬、超大型犬に特に多く、ゴールデンレトリーバーやシェパードなどが好発犬種にあげられます。年齢的には中高年に多く見られますが、2-3歳の若い犬にも発生し、悪性が多いようです。

特徴的な症状は、跛行・痛み・腫れなどです。大型犬種は骨の病気にかかりやすく、骨肉腫以外でも跛行することがあります。

治療法としては、早く発見して腫瘍のできた脚を断脚し、抗ガン剤で治療するのが最良です。しかし、骨肉腫にかかった犬は平均的に寿命がかなり短く、1年以上の生存は比較的難しいでしょう。断脚のみでは、4カ月の寿命といわれています。
肥満細胞腫の診断は比較的簡単
この腫瘍は皮膚腫瘍の一種で、ボクサーやブルドッグがかかりやすく、四肢・会陰部・頭部・首などに発生します。また、80%以上に胃や十二指腸の潰瘍が発見されるのが特徴です。診断は比較的簡単で、多くは針による吸引バイオプシー(後述)にて判定できます。大きく腫瘍の部分を手術で切除する治療が、一般的です。

普段から犬の体をチェックしよう
ガンの症状は多様ですが、飼い主が気づくことのできるものもあります。

ガンは硬いしこりとなりますので、皮膚や乳腺の周囲やリンパ節にしこりがないかどうか、日頃からチェックしましょう。しこりがだんだん大きくなってくる場合は、特に要注意です。しかし、時間をかけてゆっくり大きくなることもありますから、大きさが顕著に変わらない場合も、安心してはいけません。

急激にやせてくることも、ガンの特徴的な症状です。発熱することもあります。普段から犬の体にさわり、正常なときの体の温かさを覚えておきましょう。ほかに、貧血の症状が現れることがあります。貧血かどうかは、口の中の粘膜を見るとわかるでしょう。正常であればピンク色ですが、血液が不足して貧血となると、白っぽくなります。

犬は人間より約5-7倍の速さで年をとります。病気の進行も人間より早いので、特にガンが疑われる場合は、「もう少し様子を見よう」という態度が最も悪いといわれています。不安に思うことがあったら、動物病院へ連れていきましょう。そして、その動物病院で「もう少し様子を見ましょう」と言われたら、すぐに動物病院を変えることが重要です。


ガンの症状チェック
●皮膚にしこりがないか
●乳腺周囲にしこりがないか
●リンパ節にしこりがないか
●やせてこなかったか
●口の中の粘膜が白くなっていないか(貧血)
●熱がないか
検査方法も進歩している
腫瘍であるかどうかを調べる場合、通常、最初に獣医師は「吸引バイオプシー」を行います。腫瘍が疑われる出来物に小さな針を刺し、中身を検査する方法で、この検査により、出来物が腫瘍であるか、炎症によるものであるかを鑑別します。リンパ腫や肥満細胞腫(皮膚腫瘍の一種)などは、この吸引バイオプシーだけで確定診断できることが多いです。

しかし、一般には、あくまでも吸引バイオプシーは腫瘍であるかないかを鑑別するための検査です。この検査の結果、腫瘍が疑われた場合、本来のバイオプシー(生検)によって組織の一部を取り、病理検査を行います。そして、本当に腫瘍であるかどうか、腫瘍であれば、その種類や、良性か悪性かを調べます。
腫瘍が小さいほど成功する外科療法
治療法には、手術による外科療法・薬物による化学療法(抗ガン剤を使用して、ガンを叩く方法)・免疫療法(免疫を刺激して、ガンに負けない体質をつくる方法)などがあります。

これらのうち、最も一般的な治療法は外科療法です。手術によって治る可能性が高い場合、獣医師はこの外科療法を勧めます。外科手術は、腫瘍が小さいほど成功率が高くなります。腫瘍がだんだん大きくなっている場合は、少しでも早く手術をしたほうが治癒率は高くなるでしょう。また、手術については「広く、深く、より早く切ることがベスト」とされ、「腫瘍を残すより、傷を残せ」といわれています。

高齢の動物は体力がないので、手術ができないといわれることもありますが、単に高齢のみの理由で手術ができないというのは、飼い主にとっても無念でしょう。高齢でも手術が適切なケースもあります。高齢犬は特に、ガンの手術経験の豊富な獣医師に診察してもらうことをお勧めします。
抗ガン剤の種類は100種類以上
現在では、抗ガン剤の種類も100種類を越えるほどに増え、化学療法も重要なガンの治療法となっています。抗ガン剤といえば、すぐに副作用を連想しますが、動物では人間ほど強い副作用が現れません。動物に現れる副作用の程度は、人間の半分以下といわれています。人間の抗ガン剤の副作用では、脱毛がよく知られていますが、薬の種類によって差はあるものの、犬の場合は人間よりかなり少ないようです。

ほかに、嘔吐・下痢・食欲不振などの副作用が現れますが、犬は人間ほど苦しまずに、化学療法を受けることができます。
飼い主が治療法を選択する
ガンは種類や進行の程度によって、治療後の状態が大きく変わってきます。重要なことは、主治医とよく話し合い、愛犬のためにもっとも良い治療法を選ぶことです。その際、最終的に治療法を選択するのは、飼い主であるあなた自身です。愛犬のケースではどのような治療法が可能か、それぞれの治療法の長所と短所・予後・費用などの説明を受け、十分に納得した上で選択することが大切です。
治る見込みがない場合
早期に発見すれば治療効果があがるとはいっても、ガンは確実な治療法がなく、死亡率も高いことがあります。もし、愛犬のガンが治る見込みのないことがわかって、生きているものに死は必ず訪れます。その事実を受け止めて、治療法を含め、愛犬と家族にとり、残された日々をどう過ごすのがベストであるかを考えましょう。

治療法については、以下の3つの選択肢があるでしょう。1つ目は、もはや治療しても回復の見込みがなく、愛犬を苦しめるだけであることがわかった場合、心の整理がついたところで、安楽死を選ぶことです。2つ目は、ガンに対する特別な治療は行わず、痛みや苦痛を取り除く薬だけを与えたり、またはほとんど副作用のない薬を併用するだけにし、それらの薬の効果がなくなった時点で、安楽死させることです。3つ目は、治る可能性を信じて、徹底的にガンと立ち向かう姿勢で、抗ガン療法を受けることです。

この方法には、時間と費用がかかるでしょう。しかし、犬のガンは30-40%は治るのです。家族のみなさんでよく話し合い、喜びを与えてくれた愛犬が最後の日々を安らかに過ごせるように考えてください。