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all words by Dr.NORIHIRO KOMIYAMA

犬の飼い方と病気

白内障と緑内障

          ■盲目はすぐに気づかないことが多い
          ■盲目の一番の原因は白内障
          ■白内障にはいろいろな種類がある
          ■内科療法と外科療法
          ■回復可能性を判定するテスト
          ■緑内障と赤目
          ■緑内障の症状

■盲目はすぐに気づかないことが多い
従来、眼科は獣医学であまり興味をもたれない分野でした。しかし、最近では眼の病気もかなり注目されるようになり、いろいろな診断・治療法も進歩してきました。しかし、まだ眼の分野にあまり興味をもっていない動物病院もかなりありますので、愛犬の眼の具合が悪くなったとき、特に眼の病気に関心をもっている獣医師に診察し てもらうことが重要です。

犬は元来視力の弱い動物で、人間で言えば近視に当たります。人間ほど視力に対する依存度は強くないので、犬が盲目になっても、飼い主がすぐに気づかないことも往々にしてあります。特に片方だけの盲目の場合は、飼い主が生涯それに気づかないこともよくあります。

実際に愛犬が盲目になっても、2、3日過ぎるまで気がつかなかったり、もっと遅い場合は2、3週間後にようやく気がつくというケースも少なくありません。私たちの病院のケースでは、1、2カ月後に犬の盲目に気がついたというケースもあったくらいです。

なぜこういうことが起こるかと言えば、犬の場合は人間と違って、盲目になることが、人間と比べると生活に重大な影響を与えるわけではないからです。もちろん、視力を失うということは、大きな問題のあることですから、早く発見できれば、それだけよいわけです。

ただ、家のなかにいる限り、家具類の配置を覚えているので、眼が見えなくても犬はものにぶつかったりしません。ですから、盲目になっても飼い主は気がつかないケースがあります。

しかし、家のなかでも、以前は上っていた階段にうまく上れなくなれば、視力障害に気がつくでしょう。また、外へ出てまったく知らない場所や段差のあるところへ行った場合、犬がぶつかったりつまづくことによって、盲目になったのがわかると思います。

ほかにも犬を観察していて、以前に比べて臆病になったとか、神経質になったという場合には、眼が見えにくくなった可能性があります。

家庭でできる最も簡単な視力のテスト法があるので、覚えておくと便利です。綿やティッシュぺーパーを丸めて犬の頭の上から落とすという方法です。できれば犬を台の上に置いてあげるといいでしょう。これを左右両方の眼についてテストします。

つまり、丸めた綿やティッシュペーパーを、まず右側の眼の前を通過するように頭の上から落とすと、通常であれば犬はそれを眼で追うはずです。しかし、眼が見えていなければ、落ちるものを追いません。左眼についても同様のことを行ないます。ただし、落としたときに音がすれば、犬はその音によって気がつくことがあります。ですから、落下音がしないように気をつけてください。たとえば、ティッシュでも固く丸めると落下音がしますから、なるべく柔らかい場所に落とすようにしましょう。
■盲目の一番の原因は白内障
今回のテーマである白内緒と緑内障は、眼の病気において最も重要な位置を占めています。盲目の原因になる病気で最も多いのは白内障で、特に老齢性のものです。だいたい8〜10歳以上になると白内障にかかる犬が増えてきます。特にプードル、コッカー・スパニエル、ミニチュア・シュナウザー、アフガン・ハウンドなどは白内障の好発犬種と言われています。

老齢性白内障は手術が可能な場合がありますが、よく言われているほど手術効果が上がるわけではありません。通常、白内障が発症して半年以内であれば多くの場合は手術は可能となりますが、半年から1年以上経過している場合は、手術をしてもあまり効果はないようです。

一般論とすれば、早期でなければ手術をしてもうまくいかない場合が多いと言えますが、多少遅くても手術をすればうまく行くケースもあります。遅れると手術の効果が出ないのは、眼の網膜の部分が冒されていると手術をしても、眼の機能の回復ができないからです.
■白内障にはいろいろな種類がある
白内障には、初発の白内障、未熟な白内障、成熟の白内障、そして最後に過熟の白内障とさまざまな過程があります。当然、症状の進行した段階ほど、手術をしても効果が上がらないケースが多くなります。また、白内障は老齢性のものとそれ以外のものに分けることもできます。老齢性以外の白内障には、先天性の白内障(ゴールデン・レトリーバー、オールド・イングリッシュ・シープドッグ、ウエスト・ハイランド・ホワイトテリアなどに多い)、遺伝性の白内障、他の眼の病気から発症した続発性の白内障(たとえば緑内障、葡萄膜炎、水晶体の脱出など)、外傷によって起こる外傷性白内障、代謝性白内障などがあり ます。

このうち最後の代謝性白内障は真性の糖尿病から続発して起こり、糖尿病性白内障と言われ、ときどき見られます。このような症例の場合は手術をしても糖尿病を治さなければ結果は変わりません。この糖尿病性白内障は通常進行が早く、白内障が成熟化します。ある程度の初期であれば、糖尿病による合併症の管理を行なうことにより、進行が止まることもあります。それには、動物をインシュリンでコントロールして、水晶体摘出手術をすることも重要です。

このように白内障にはいろいろな種類があり、治療の可能性の高いものから低いものまであります。なかでも最も治りやすいのは外傷性白内障です。この外傷性白内障は眼球への損傷が原因となり、水晶体が直接損傷を受けるか、または外傷の結果、葡萄膜炎を併発し、白内障が起こります。

葡萄膜炎から起こる白内障はなかなか治療が難しい場合があります。通常は抗炎症剤や点眼剤および散瞳剤などによる治療が必要となりますが、症状がひどい場合は水晶体の摘出手術が行なわれます。しかし、この手術を行なった場合の予後は、必ずしも良好とは限りません。
■内科療法と外科療法
白内障で最も多くかつ重要なものは老齢性白内障でしょう。白内障によって視野が損なわれている場合の唯一の治療法は、外科的に水晶体を摘出することです。最近では、症状が初期の場合であれば、点眼液などによって進行をある程度止めることができるのではないかという発想の下に、そのような薬剤を用いる方法も普及しつつあります。

もちろん、劇的な効果を発揮するということはないようです。しかし、このような薬物療法を行なえば、行なわないよりも進行を遅くできるだろうという考え方から、この療法が採用されています。

したがって、白内障の治療は点眼療法、すなわち内科療法によってある程度進行を遅らせることを期待するか、または手術によって治療するかという2つの選択肢しかないと言えます。

白内障の治療で最も問題となるのは、手術によって犬の視力が回復するかどうかということです。この手術にはかなり高度な医療技術が必要で、手術の前には専門的な検査が必要となります。たとえば科学的に手術が適用かどうかを判定するには、「電気網膜図」や眼内用の超音波診断装置を参照すると役に立ちます。しかし、全国の動物病院でも、そのような器械を備えているのは10〜20軒程度と思われます。眼の病気の診断や治療には、かなりの専門技術と医療機器が必要となりますから、どこまでの検査や治療ができるかをよく話し合った上で、動物病院を決定するとよいでしょう。
■回復可能性を判定するテスト
愛犬が白内障にかかった場合、手術の効果があるかないかを簡単に判定できるすばらしいテクニックが最近アメリカで開発されましたので、方法をお教えしましょう。

もちろん完全に正しい評価ができるものではありませんが、誰にでも簡単にできる検査方法ですから、あなたの愛犬が手術をするかしないか迷っているときは、このテストを利用する価値は十分にあります。

これはアメリカのある眼科の専門医が、高価な医療器械を使用せずに、白内障の手術が適用になるかどうかを判定する目的で開発された技術です。まず犬を真っ暗な部屋に入れ、5分間待ちます。できるだけ小さめの部屋にし、飼い主もできれば犬と一緒に部屋に入ります。その際、フラッシュ付きのカメラを携帯してください。

そして、約5分くらい経過して暗いところに眼が慣れてきたら、犬の眼の約10センチくらい先からフラッシュをたきます。このとき犬がフラッシュに驚いてぴくっと動けば、その眼は手術すると見える可能性があると考えてください。これを左右両方の眼について行ないます。

もしこのテストで犬がぴくりともしなければ、その犬の眼の網膜は障害を受けていると思われるので、手術をしても無駄な場合が多いと考えてください。もし動物がこのテストに反応すれば、手術によって眼が見えるようになる可能性がありますので、できるだけ眼に詳しい動物病院で手術をしてもらうといいでしょう。

なお、眼の手術に関連して、最近はいろいろな方法が開発されています。たとえば、術中に眼内レンズを装着する方法があります。理論的には、眼内レンズの装着によって、術後の視力をより改善する可能性はあることになります。

しかし、装置が高価であるとともに、ある程度の熟練が必要になり、当然それだけ手術費が高額になることが難点でしょう。そのような理由から、あまり普及はしていないようです。

ところで、一般に眼の病気は単に眼だけが悪いのではなく、全身の健康状態が関係して起こることが多いので、過去の病歴を含め総合的に調べる必要があります。

また、手術を行なう場合は、手術によって視力を回復する可能性が何%くらいあるのか、あるいは予後はどうかなど、術前に飼い主と獣医師が十分に打ち合わせをする必要があるでしょう。
■緑内障と赤目
緑内障は、その病名から連想して、眼が緑色に変化する病気と思われるかもしれませんが、肉眼で見る限りでは、むしろ眼は赤くなります。

犬の眼の病気で、赤眼を呈する主要な病気は3〜4つありますが、そのうち最も重要な病気として緑内障、すなわち急性緑内障があります。これは本当に不幸な病気で、犬が急性緑内障にかかった場合、すぐに治療しなければほとんどが失明し、一生そのままの状態で送ることになります。

したがって、急性緑内障の治療は緊急を要します。犬の眼の全体が膨らんできたり、あるいは赤くなってきたら、最も悪い病気としては急性緑内障が考えられます。

緑内障以外では、急性の結膜炎や虹彩炎が考えられますが、急性緑内障と急性虹彩炎や急性結膜炎とでは、治療法がまったく違うので、この判定は非常に大事です。

ある程度専門的な病院でないと、その鑑定がなかなか難しいこともあるようですが、鑑定の簡単な方法を表にまとめておきますので、参照してください。

緑内障とは眼内圧が正常な限度を超えて長時間にわたり上昇し、その結果として生じる一連の変化を言います。判定は眼内圧が上昇しているかどうかを調べるのが最も重要となりますが、眼内圧を測る器械は高価なので、眼に特別の興味をもっていない動物病院ではそういう器械の設備がなく、その辺が診断の限界となるようです。
■緑内障の症状
緑内障は、原発性、続発性、先天性の3つに分かれます。原発性の緑内障は、人間には多く見られますが、動物にはまれです。

原発性の緑内障では、眼の隅角と呼ばれる部位は正常ですが、続発性の緑内障は隅角が非常に狭くなり、動物がかかる緑内障はほとんどのがこの続発性の緑内障です。 また、出血、水晶体の亜脱臼、葡萄膜炎などの後に緑内障が起こることもあります。

緑内障の診断として最も重要なものが、眼圧の測定です。緑内障では眼圧が上昇しますが、眼圧がかなり高くなっていれば、犬の眼を閉じさせ、上から指で触ることによって推定することも可能です。 また急性の場合は、疼痛があり、犬は眼を痛がります。動物の場合、眼が痛いとほとんどは目をつむります。ですから、犬が目をつむっていたら、疼痛のサインであることが多いので、覚えておいてください。

その他、懐中電灯などの光源を眼に当て、瞳孔が散大していたら、緑内障を疑うことができます。また、眼の角膜の表面が雲がかかったようにもやもやして見えたりします。そして、視力の消失、すなわち盲目となったります。これらが緑内障の診断で重要なものです。

視力を失ってしまった緑内障に対しては、その後の疼痛を除く目的で、最も簡単な方法として眼球摘出術、すなわち眼自体を摘出してしまう方法があります。また、最近よく行われる方法に義眼挿入術があります。これは義眼をはめ込み、眼としての機能は果たさなくても、眼があるように見せる方法です。

ときどき行われる方法として、毛様体凍結術があります。これは3〜6カ月ごとに麻酔をかけながら行なうテクニックで、ほとんど生涯にわたって行なうものです。

繰り返しますが、緑内障の治療は緊急を要します。非常に残念なことですが、私たちの病院でも、緑内障の犬のほぼ9割以上がすでに視力を失った状態で来院します。したがって、獣医師と飼い主の方が知識をもち、少しでも早く異常に気づくことが望まれます。