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all words by Dr.NORIHIRO KOMIYAMA


犬の飼い方と病気

皮膚病(主にアレルギー)について

          ■皮膚は最大の臓器
          ■ノミアレルギーが最も多い
          ■アトピーにかかると外耳炎を起こしやすい
          ■タンパク質がアレルゲンになる
          ■皮膚病の50%にはかゆみの症状がある
          ■皮膚の乾燥はかゆみを悪化させる
          ■脱毛の多くは後天性
          ■環境を清潔にしよう
■皮膚は最大の臓器
心臓、肝臓、腎臓などと同じように、皮膚全体を1つの臓器と考えれば、皮膚こそ最大の臓器です。皮膚は体のなかの「臓器の鏡」であるともいわれています。この意味からも、小動物の医療で皮膚病は最も多い病気で、重要な位置を占め、かつ最もむずかしい分野といえます。

皮膚病のなかには、なかなか治りにくい難治性の疾患が少なくありません。飼い主の方の根気を要求する病気でもあります。獣医師の立場からいえば、特に難治性の皮膚病は飼い主の方と二人三脚で治療する病気です。獣医師が手術をしたり、薬剤を投与すれば、原因のほとんどが取り除かれて、治ってしまうという病気ではないのです。

ですから、病気に関する知識をできるだけもち、できる範囲で適切な治療法を選択して、辛抱強く取り組む姿勢が大切になります。
■ノミアレルギーが最も多い
皮膚病の原因として多いものに、アレルギーがあります。代表的なアレルギーにはノミアレルギー、吸引アレルギー(アトピー)、食事アレルギーがあります。このうち皮膚病の原因となる最も多いアレルギーはノミアレルギーです。この病気は寒い地方を除くと、最も多い犬の病気でもあります。これは、ノミに咬まれることにより、ノミの唾液中に含まれる物質に対してアレルギー反応を起こし、その症状として皮膚病を発症する疾患です。

また、別のアレルギーであるアトピーは、呼吸するときにアレルゲン(アレルギーの原因となる物質)を体内に吸い込み、それに対する抗体がつくられて、過敏症を引き起こす病気です。この過敏症の原因としては、遺伝的な素質が関係していると考えられています。

最近では、人間の子供のアトピーが非常に増えていますが、犬のアトピーも増えています。また、花粉症は、年齢を問わず多くの人がかかる病気ですが、これもアレルギー反応によって起こります。そのため、アレルギーに関する知識をもっている人も少なくないでしょう。

アレルギーは、それぞれのアレルゲンに特異的なIgE抗体が 体内につくられ、その抗体が肥満細胞と呼ばれる細胞と結びつき、肥満細胞中に蓄積されているヒスタミンが放出されることによって発症します。このヒスタミンが、かゆみや炎症などの、アレルギーに特徴的な症状を引き起こすわけです。ところが、面白いことに、犬のアトピーでは人間と違って、ヒスタミンの値は上昇しないとされています。

また、花粉症などのかかると人間はくしゃみをしますが、犬はほとんどくしゃみをせず、症状はもっぱらかゆみとなって表れます。これも人間と犬で違う点です。
■アトピーにかかると外耳炎を起こしやすい
アトピーにかかると、まず初めにかゆみの症状が表れます。アトピー性皮膚炎は原因が体のなかにあるわけですから、体の表面に何ら病変はなくても、かゆみの症状は表れます。これとは対照的に、細菌感染による掻痒性(かゆがって体をかく)の皮膚病の場合 は、感染後に皮膚に病変が起こり、その病変がひどくなるとかゆみが起こります。こ の区別は覚えておくと便利です。

また、アトピーの場合、多くの犬が夜になるとかゆがるのが特徴です。アトピーの原因となるアレルゲンには、花粉、カビ、ハウスダスト(ちり、ほこり)、ダニ、動物の皮膚から出るフケ、鳥の羽などがあります。

かゆがる部位では、眼の周辺、耳、足、前肢の付け根、背部、会陰部、肛門周囲などが多いのですが、ひどくなると全身に及びます。また、アトピーの特徴として、50〜80%の犬が外耳炎を発症します。ほとんどが両側性、すなわち両方の耳に発症する外耳炎です。しかし、犬のアトピーは多くの点で人間のアトピーと違っています。たとえば、アトピーのために犬が鼻炎が起こすことは非常にまれです。

アトピー性皮膚炎の治療には通常、ステロイド剤をうまくコントロールして使用したり、抗ヒスタミン剤、脂肪酸、ホルモン剤などを組み合わせて投与します。最近では、人間で行なわれている皮内テストという方法が使われたり、血液検査からどのタイプのアレルギーが関与しているかがだいたい分かるようになってきました。
■タンパク質がアレルゲンになる
食事アレルギーは、犬の食べているものがアレルゲンとなって症状を引き起こす病気です。アレルゲンのほとんどはタンパク質です。最もアレルゲンとなりやすいものとしては、牛肉、牛乳、大豆、小麦、卵、馬肉、鶏肉、とうもろこし、豚肉などがあります。

主要な症状はかゆみですが、皮膚の病変は顔、指先、足の裏、肛門周囲に起こりやすく、ある場合には全身に起こります。食べ物が原因で起こるアレルギーですから、食事療法によって治療します。食事療法は獣医師の指示に従って行なうことが大切です。
■皮膚病の50%にはかゆみの症状がある
皮膚病といえば、かゆみがつきものと思うのではないでしょうか。逆にいえば、皮膚病にかかっていても、犬がかゆがらない限り、飼い主の方は気づかないこともあることになります。統計的には、動物病院に連れてこられた犬の約50%以上がかゆみを伴っているとされています。

一般的に、かゆみは犬の動作(かゆがり方)によって4つに分けられます。「嘗めている」「咬んでいる」「吸引の動作をする」「ひっかいている」の4つです。愛犬がこれら4つのうち、主にどの動作をするかということも、病気の診断の助けになります。
■皮膚の乾燥はかゆみを悪化させる
かゆみの主な原因としては、ノミやダニなどの外部寄生虫、真菌(カビ)、皮膚の細菌感染、アレルギーがあります。 通常、獣医師はかゆみのある動物に対して、まず最初に寄生虫感染を疑います。2番目には細菌感染、3番目にカビによる感染、4番目にアレルギーを疑います。

検査方法としては、動物がかゆがっている部位の皮膚の一部を削り取って、顕微鏡などで調べます。飼い主の方がかゆみの原因を知る簡単な方法があります。動物がかゆがる場所によって、原因を判定する方法です。もし犬が体の前の部分をかゆがればアレルギーが考えられ、体の後ろの部分をかゆがれば寄生虫、特にノミのアレルギーが考えられます。

かゆみが悪化する主な原因は4つあります。1つ目は、皮膚が乾燥していることです。これがかゆみ悪化の一番多い原因です。2つ目は、環境の温度が高く乾燥していることです。3つ目は、生活に変化がなく、犬が退屈していることです。4つ目は、ストレスのために落ち着かない状態にあることです。これらの原因のうち、いくつかの原因が重なり合って、かゆみが悪化するのが普通です。


皮膚が乾燥しているときは、潤いを補充すれば、ある程度かゆみは軽減されるでしょう。方法としては、週に2〜3回、皮膚にベビーオイルなどを塗ってあげるとよいでしょう。ただし、塗りすぎると皮膚がべたついて浸潤しますので、軽めに塗ってください。
■脱毛の多くは後天性
皮膚病の症状では、かゆみのほかに脱毛があります。かゆみと脱毛は、犬の皮膚病において最も多く見られる2大臨床症状といわれています。 通常、獣医師は脱毛のある犬に対して、いくつかの鑑別を行ないます。

まず、脱毛が先天性か後天性かを考え、次に外傷性か非外傷性かを考えます。先天性か後天性かという問題に関しては、先天性の脱毛症は非常にまれで、ほとんどの脱毛症は後天的に起こります。外傷性の脱毛症とは、犬が咬んだり嘗めたりこすったりすることが原因で、毛が抜けることです。

これに対して、非外傷性の脱毛症とは、外から力を加えないのに、自然に毛が抜けてしまうものです。次には、脱毛が全身性か部分的かを鑑別します。全身性の脱毛の多くは、毛の成長の周期に関係しています。部分的な脱毛は、局所に病変が起こった場合によく見られます。そして次に、脱毛が両側性(対称性)か片側性(非対称性)かを考えます。両側性とは、毛が左右対称に抜けることで、このような脱毛症が見られる場合は、内分泌の病気、すなわちホルモンのアンバランスが疑われます。

最後に、脱毛症が瘢痕性か非瘢痕性かを考えます。瘢痕性の脱毛症は、毛嚢と呼ばれる毛のもとの部分が損傷を受けているので、毛は二度と生えてきません。ただし程度によっては、瘢痕部を切除する外科手術により、発毛させられる場合もあります。非瘢痕性の場合は、脱毛の原因が取り除かれれば、毛は再生されます。
■環境を清潔にしよう
一般に、皮膚病の治療法は一定ではありません。獣医師は身体検査後にある程度の検査をし、考えられる原因のリストをつくって、最も当てはまると思われる原因を推定し、治療を進めていきます。

ノミやダニなど外部寄生虫に対するアレルギーが原因の皮膚病では、ノミやダニの駆除が治療や予防の対策として大切になります。飼い主の方は、犬の体と環境の清潔を心がける必要があります。また、ホルモンなどの異常を原因とする内因性の皮膚病でも、犬がかゆがって皮膚をひっかけば、二次的に細菌感染し、化膿する心配もあります。そういうことを防ぐには、適切な治療を施した上に、犬と環境を清潔にしておくことが大切です。皮膚病の治療と予防には、飼い主の方の心がけが特に重要であることを銘記しておいてください。