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all words by Dr.NORIHIRO KOMIYAMA

犬の飼い方と病気

最新の嘔吐/下痢対応法

                 ■嘔吐と吐き出しは原因が違う
                 ■食べ物を飲み込めないときも吐き戻す
                 ■嘔吐の原因となる胃拡張や胃捻転
                 ■幽門部の異常は短頭種に多い
                 ■嘔吐の一番多い原因は食べ過ぎ
                 ■代謝疾患や肝臓病でも嘔吐が起こる
                 ■古い血液が混じっていたら危険信号!
                 ■嘔吐の治療はまず絶食から
                 ■小腸性か大腸性かの鑑別が大切
                 ■便のチェックからわかる原因
                 ■環境の変化から下痢を起こすことも
                 ■恐い伝染病による下痢
                 ■元気がない場合は要注意
                 ■絶食で胃腸を休める
                 ■飼い主の心構えが動物を救う


■嘔吐と吐き出しは原因が違う
消化器の病気の2大症状は、嘔吐と下痢です。そこで、嘔吐と下痢の特徴を中心に説明しながら、消化器病について考えてみましょう。

嘔吐とは、食べた物を口から強く出すことです。同じように、口から食べ物を出す症状で「吐き出し」と呼ばれるものがあります。私たち獣医師は、嘔吐と吐き出しをはっきり区別しています。なぜなら、両者の原因は別のところにあるので、当然、治療法も違ってくるからです。

動物の嘔吐の原因は、主に胃と腸管にあります。これに対して、吐き出しの原因は食道にあります。吐いた内容物にも違いがあります。嘔吐の場合、吐物はある程度消化されています。食べ物が胃や胃に近い小腸にまで達し、それらの部位の何らかの異常が原因で、吐き戻されるからです。

吐き出しの場合は、食べ物が消化器に達する前に食道から吐き戻されるので、消化されていません。また、動物は嘔吐の吐物は食べませんが、吐き出しで戻した吐物はまた食べることがあります。動物が戻したものをまた食べようとしたときは、その吐物は吐き出しによるものと考えてよいでしょう。

吐き方にも違いが見られます。嘔吐の場合、動物は下を向いて吐きますが、吐き出しでは、力強く前に飛ばすように吐きます。
■食べ物を飲み込めないときも吐き戻す
嘔吐と吐き出し以外にも、食べたものを吐くことがあります。食べ物を飲み込むことができず、吐き戻してしまう場合で、これを「嚥下困難」といいます。嚥下困難の原因は、口腔か咽頭か食道にあります。この場合は、「ヨダレ」を伴うこともあります。ようするに、ゴクンと飲み込むことができず、吐いてしまうのです。動物が食べた物を吐いた場合は、嘔吐か吐き出しか嚥下困難かを鑑別することが重要です。
■嘔吐の原因となる胃拡張や胃捻転
胃の運動機能の異常が原因で、嘔吐が引き起こされることがよくあります。すなわち、胃の運動が正常時より速くなったり遅くなったり、あるいは運動機能が停止してしまうのです。

代表的な病気には、胃拡張や胃捻転があります。これは大型犬によく起こり、特に胸の深いドーベルマン、ジャーマン・シェパードなどが、この病気にかかります。このような病気を防ぐには、食事をできるだけゆっくり食べさせることが大事です。犬がどうしても速く食べてしまうときは、少しずつ何回かに分けて与えるとよいでしょう。一気に大量の食べ物を胃に送り込み、すぐに水を飲んで、その直後に運動すると、胃の中のガスが発酵し、胃捻転を起こす恐れがあります。胃捻転は命に関わる病気ですから、十分に注意してください。


また、この病気はカルシウムの過剰摂取とも関係があると考えられています。大型犬だからといって、カルシウムを余分に与えると、かえって悪い結果を招くことがありますので、注意してください。大型犬を飼っている方は、食事をゆっくり食べさせ、食後には休息させてください。大型犬、超大型犬の場合は、食後にどことなく元気がなくならないか(急にお腹のあたりがふくれてこないか)、注意してみてあげてください。
■幽門部の異常は短頭種に多い
胃と食道の接合部である噴門や、胃と小腸の接合部である幽門に障害がある場合も、動物は嘔吐することがあります。比較すると、幽門部の障害のほうが多く、特に短頭種のシーズーやパグなどに多く見られます。これら犬種で、食事をしてから20〜30分後に嘔吐が見られる場合は、この病気を疑うことができます。

治療法としては、薬物をほぼ生涯にわたって投与する内科療法があります。または 、外科的に手術をすれば、通常は治ります。また予防としては、食事を少量ずつ、回数を多くして与えることです。たとえば、通常1日に5〜6回に分けて食事を与えます。
■嘔吐の一番多い原因は食べ過ぎ
食べ過ぎたり、腐敗した物や刺激の強い物を食べた場合も、嘔吐が起こります。嘔吐の原因としては、これが最も多いといえます。動物が嘔吐した場合は、食べ過ぎなかったかどうか、古い食品や刺激の強い物を食べなかったかどうか、調べてみる必要があります。

また、中毒が原因で嘔吐する場合もありますが、これは説明がなかなかつかないことがあります。飼い主が実際に食べたところを見たというのであれば、簡単に診断できますが、そういう確定的な証拠がない場合は、特定の毒物を検出することがなかなか難しいことがあるからです。
■代謝疾患や肝臓病でも嘔吐が起こる
消化器疾患以外の病気が、嘔吐の原因になることもあります。主として代謝性の疾患であり、代表的なものに、副腎皮質機能低下症があります。また、肝臓や脾臓などの病気が原因で、嘔吐が引き起こされることもあります。動物が嘔吐をし、原因と考えられる消化器系の病気が見つからない場合、それらの消化器以外の病気を疑ってみる必要があります
■古い血液が混じっていたら危険信号!
動物が黄色い液体を吐いたとき、胃液だと思っている人が多いようです。しかし、胃液は白い泡のような液体です。黄色い液体は胆汁液です。ですから、犬が黄色い液体を吐いた場合、胃の内容物がなくなって、胆汁液が逆流したと考えてください。

嘔吐物に血液が混じっていれば、胃のびらん、潰瘍、腫瘍などの病気が疑われます。特に吐物がコーヒー色になっていたら、要注意です。これは血が古くなった色ですから、重篤な潰瘍や腫瘍が疑われます。すぐに動物病院へ連れて行き、検査や処置をしてもらう必要があります。

嘔吐した後の動物の様子を観察することも重要です。嘔吐後、いつもと変わらず元気であれば、通常は心配することはないでしょう。しかし、嘔吐の後、ぐったりして元気がない場合は、深刻な病気が考えられますので、動物病院で診察してもらいましょう。
■嘔吐の治療はまず絶食から
嘔吐の治療は、絶食と絶水が基本です。比較的元気な犬は24時間絶食し、12時間絶水し、様子を見ることも高齢でなければできます。少し元気がない場合は12時間絶食します。そして動物病院へ連れて行き、獣医師の指示に従う必要があるでしょう。

絶食、絶水中に動物が喉の渇きを訴えた場合、氷のかけらを数個与えるとよいでしょう。そうすれば、喉の渇きがおさまり、胃粘膜の炎症も少しは抑えられます。比較的元気な若い犬の場合は、1〜2日の間、完全に絶食し、24時間絶水するのが理想程度、3〜6回に分けて与え、様子を見てください。もし、絶食と絶水を行なっても嘔吐が止まらない場合は、動物病院へ連れて行く必要があります。

嘔吐が続くと、体内の水分が外へ出てしまい、体力が消耗します。ひどい場合は、急激な血圧低下を招き、ショック症状が起こることもあります。とにかく、動物に元気がない場合は、何らかの異常が疑われますから、早く原因を突き止め、治療を行なうことが大切です。
■小腸性か大腸性かの鑑別が大切
動物の下痢の原因は、小腸にある場合と大腸にある場合の2つに大きく分けられます。原因が小腸にあるか大腸にあるかを鑑別することは重要ですが、知識があればそれほど難しくありません。犬の場合、下痢の原因が小腸にあるときは、体重が減少します。これに対して、原因が大腸にあるときは、体重の減少はあまり見られません。

小腸は栄養を吸収するところですから、小腸に病気があると栄養が吸収されません。したがって、体重の減少が起こるわけです。また、同じ理由から、貧血やタンパク質の低下を招くこともあります。これに対して、大腸の主要な働きは水分を吸収することです。したがって、大腸の働きが低下し、水分が吸収されないで下痢が起こっても、栄養はすでに吸収されているわけでから、体重の減少はあまりみられないことになります。また、貧血やタンパク質の損失もあまり起こりません。
■便のチェックからわかる原因
便の状態を調べることも、下痢の原因部位の判定に役立ちます。便にゼラチン状の粘膜が付着していれば、大腸性の下痢です。鮮血が見られる場合も、大腸性です。これに対して、口臭があったり、腸管に空気がたまってお腹が膨らみ、抑えるとゴロゴロ音がしたり、おならが出る場合は、小腸性の下痢です。また、動物がよく水を飲む場合も、ほとんど小腸性が原因です。

ほかにも、確実性はいくぶん低くなりますが、次のような判定基準があります。便の量が多い場合は小腸性、便の回数が多いときは大腸性の可能性が高いといえます。また、嘔吐を伴う場合は、ほとんどが小腸性です。しかし、大腸の病気でも、
約30%は嘔吐を伴います。

便をこらえることができず、その場で出てしまう場合も、ほとんどが大腸性の下痢です。いずれにしても、下痢の原因部位が小腸か大腸かによって、治療法と処方する薬剤が違ってきますから、その鑑別は重要になります。両者の割合は、ほぼ半分ずつです。
■環境の変化から下痢を起こすことも
嘔吐の場合と同様、食べ過ぎや腐敗した物を食べたために、下痢が起こることもあります。ですから、犬が下痢をしたら、普段より食べ過ぎなかったか、散歩中などに拾い食いをした可能性はないかなどについても、飼い主の方は考えてみてください。

特に神経質な犬や仔犬、あるいは特別に激しい訓練を受けている犬は、環境の変化についていけない場合、ストレスが下痢の原因になることもたまにあります。しかし、下痢の原因をすべてストレスのせいにするのは危険です。原因をストレスとする診断が、安易に下されすぎている傾向があります。
■恐い伝染病による下痢
寄生虫がいるために、下痢を起こすこともあります。室内犬は年に2回、室外犬および散歩をする犬は年に4回、寄生虫の検査を受けるとよいでしょう。もし、検査を受けていない犬が下痢をした場合は、寄生虫を疑うこともできます。パルボウイルス腸炎などの伝染病が原因になることもありますが、1年以内に予防接種を受けていれば、心配はありません。とにかく、飼い主の方は、予防の可能な伝染病については、年に1回以上のワクチン接種を行ない、必ず予防するようにしてください。また、食事アレルギーが原因で下痢をするケースもあります。動物が食事アレルギーであることが分かった場合、アレルギーの原因となる食事を除去する必要があります。アレルギーの特別食については、獣医師の指導に従ってください。
■元気がない場合は要注意
下痢をしている動物が、元気がある場合とない場合があります。元気がある場合は、さほど心配する必要はありません。しかし、元気がなく、食欲も喪失している場合は、重篤な病気にかかっている可能性もありますから、速やかに動物病院で検査してもらってください。

動物病院では、血液検査、尿検査、X線検査のほかに、内視鏡検査、超音波検査などを利用して、徹底的に検査を行なうことができます。特に最近の獣医学の進歩に伴い、人間の医学と同じように、内視鏡(胃カメラ)検査が重要視されています。内視鏡を利用すれば、開腹手術をしなくても、約75%の異物は口から取り出すことができます。
■絶食で胃腸を休める
下痢の治療も、嘔吐の場合と同様、絶食療法が基本です。動物が比較的元気であれば、24時間絶食させます。元気がない場合は、動物病院で輸液を行ないながら、絶食させます。その後、消化のよい物(ドライフードをお湯に浸して、柔らかくしてもよい)を少しずつ与えます。量は健康なときの3分の1か4分の1程度とし、胃に負担をかけないように、何回かに分けて与えます。絶食中に水を飲みたがったら、嘔吐の場合と同じように、氷を与えてください。

下痢の治療で最も大事なのは、絶食を含めた食事の与え方です。絶食の目的は、消化器を休めることです。休めることによって消化器の働きが徐々に回復してきたら、消化のよい物を少しずつ与えるわけです。また、症状によっては、獣医師が薬剤を投与することもあります。消化のよいフードや低アレルギー食は、動物病院で販売されています。また、結腸の病気には高繊維食が有効であることが知られています。これも多くの動物病院にありますので、利用することができます。
■飼い主の心構えが動物を救う

嘔吐にしろ、下痢にしろ、消化器病に特徴的な症状が起こったら、飼い主の方はまず「何が原因だろうか」と、思い当たることがないかどうか考えてみましょう。もちろん、このことは消化器病に限ったことではなく、動物のほかのすべての病気についていえることです。

たとえば、中毒を起こしたり、何か異物を飲み込んだ疑いがある場合、飼い主の方の情報がないと、獣医師は原因を見つけるために、いろいろな検査を行わなければなりません。早く原因を発見して、対処しなければ、危険な場合もあります。もし、飼い主の方が原因について、まったく思い当たることがなければ、その動物はかなり重い病気にかかっている可能性もあります。いつもいうことですが、言葉を話せない動物に代わって、飼い主がの方が十分に観察する必要があります。