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all words by Dr.NORIHIRO KOMIYAMA

犬の飼い方と病気

眼の病気のいろいろ

                 ■犬は視力の弱い動物
                 ■眼の病気は外傷が一番多い
                 ■眼に入った異物が見えないこともある
                 ■痛みがあるときは眼をつむる
                 ■見えなくても潰瘍ができていることもある
                 ■眼病は眼が飛び出ている犬に多い
                 ■眼瞼内反症と外反症
                 ■涙やけが起こりやすい「涙管閉塞」
                 ■チェリーアイの治療は困難
                 ■高齢犬に多発する白内障
                 ■早期治療できれば回復は可能
                 ■手術による回復可能性の判定テスト
                 ■緑内障はすぐに治療しないと失明する
                 ■眼が赤くなったら要注意
                 ■視力を失った場合は眼球を摘出することもある

                 ■飼い主の方がふだんから注意すること

■犬は視力の弱い動物
人間に比較すると、犬は視力の弱い動物、すなわち近視です。近視の程度については諸説があり、1〜2メートル先の人間の顔もわからないという説や、10メートルくらい先まではわかるようだという説があります。

犬は嗅覚が非常にすぐれているので、視力が弱くても、さほど生活に支障はないようです。たとえ失明しても、慣れている場所では、家具の配置などを覚えているので、ぶつかることもなく、不自然な動作もあまり目立たないことも少なくありません。そのため、飼い主の方が犬の失明にしばらく気づかないこともあります。
■眼の病気は外傷が一番多い
動物の眼の病気では、外傷が最も多いようです。喧嘩をしたり、ふざけすぎて眼に外傷を負ってしまうのです。

通常は、眼に異物が入ろうとしたり、攻撃されそうになれば、反射的に眼をつむりますが、とっさのときには眼をつむるのが間に合わないことあり、けがをしてしまいます。眼に外傷を負ったときは、細菌による二次感染を防ぐことが重要です。
■眼に入った異物が見えないこともある
眼に異物が入ったときは、早く取り除かなければなりません。簡単な場合は、眼を洗うだけで取り除くことができます。しかし、異物が角膜などに突き刺さっている場合などは、麻酔をかけたり、超音波検査やレントゲン検査を行って、眼で見えない場所に異物がないかどうかを確認し、その上で手術を行うこともあります。異物が眼球の中に入ると、最終的には眼球を摘出しなければならない事態も起こり得ます。
■痛みがあるときは眼をつむる
眼の外傷では、特に眼瞼(まぶた)、すなわち眼の外側の障害や、眼の表面の膜(角膜)の障害が多く見られます。角膜に障害があると、痛みがあるので動物は眼をつむってしまいます。たとえば、角膜が破れて内容物が出てしまっている場合でも、犬が目をつむっているため、飼い主にはひどい状態であることがわからず、発見が遅れることもあります。

内容物が出ている状態でも、動物病院では手術や内科療法で治療することができる場合もあります。しかし、処置は早いほうがいいですから、動物がかなりのあいだ眼をつむっていたら、眼を痛がっていると判断し、動物病院で診察してもらいましょう 。
■見えなくても潰瘍ができていることもある
角膜が損傷されていても、一見したところ肉眼で見えないことがあります。そんな場合には、「フルオレス試験」という方法で、潰瘍など傷がないかどうかを調べることができます。これは角膜に染色液を垂らす方法で、潰瘍などがあると、その部分が染色液の色に染まるというものです。

潰瘍が発見されれば、内科や外科療法などで適切な処置を行うことができます。しかし、処置をしなければ、瞳孔が癒着してしまい、葡萄膜炎を起こすこともあり、特殊な治療法が必要になることもあります。

眼に外傷を負った可能性がある場合、見た目にはわからなくても、角膜などが傷ついていることもありますので、病院で診てもらうのがよいでしょう。時間がたってから、眼の表面の色が変わったりすることがあるからです。
■眼病は眼が飛び出ている犬に多い
一般的には、シー・ズーやペキニーズなどのように、眼が大きくて飛び出ている犬種ほど、眼の病気が多く見られます。眼の大きい犬は、瞬き(まばたき)の回数が少ないことがわかっています。瞬きはまぶたが開閉することであり、車のワイパーのような役割を果たしています。すなわち、眼の表面をきれいにするのです。

この瞬きの回数が少なければ、眼を清潔に保つ機能が十分に働かず、病気に対する抵抗力が低下します。また、眠っているときもまぶたが十分に閉じず、角膜が乾燥してしまうことも、眼病の原因となります。

最近では、眼が飛び出ている犬があまりに病気を繰り返すときは、眼を小さくする手術も可能になり、効果的な治療法として知られるようになってきました。
■眼瞼内反症と外反症
「眼瞼内反症」は、まぶたが眼球のほうに内側に反転してしまっている状態です。この場合、まぶたやまつげが角膜を刺激し、角膜炎や角膜潰瘍を引き起こすことがあります。

チャウチャウ、アイリッシュ・セッターなどの犬種に、特に多く見られます。逆にまぶたが外側にめくれ、結膜の一部が露出した状態が「眼瞼外反症」です。これは、ビーグル、ブルドッグ、コッカー・スパニエル、セント・バーナードなど、顔の皮膚がたるんでいる犬種に多発します。

これらの病気は、軽症の場合は眼軟膏である程度は治りますが、一般には自然に治らず、手術によって修復します。
■涙やけが起こりやすい「涙管閉塞」
「涙管閉塞」とは、文字通り涙管が閉塞している(詰まっている)病気です。いつも涙があふれ出て、眼の内側の下のほうが涙やけを起こすという症状が見られます。

これはマルチーズやプードルに多発します。よく眼の内側の下の部分が、茶色に変色している小型犬を見ることがあると思います。涙管の詰まりを治そうとしただけでは、すぐ再発してしまいます。涙管そのものがない場合があるからです。

しかし、かなり前からですが、「テトラサイクリン」という抗生物質をごく少量、長期間にわたって飲むと、効果があがることが判明しています。「睫毛重生」とは、逆さまつげのことです。まつげがいつも角膜に当たっているため、角膜潰瘍などを起こし、眼が痛いので、犬は眼をつむります。手術によって治します。
■チェリーアイの治療は困難
「チェリーアイ」は瞬膜が厚くなる病気で、通常は手術によって治しますが、なかなか手術が困難なこともあり、完治するのは難しいようです。バセット・ハウンド、ビーグル、ボストン・テリア、コッカー・スパニエルなどに見られます。

「小眼症」は生まれつき眼が小さい病気で、涙の分泌機能がうま働かないことがあります。手術によって、眼を少し大きくすることもできます。コリー、ダルメシアン、グレート・デン、プードル、シュナウザーなどに見られます。
■高齢犬に多発する白内障
犬が高齢になると、白内障にかかる確率が高くなります。いわゆる「老齢性白内障」ですが、今は「高齢性白内障」と呼ぶべきでしょうか。白内障は水晶体が白く濁って不透明になる病気で、進行すると最終的に失明します。

白内障の多くは後天的なものですが、先天的なものもあり、アフガン・ハウンド、シュナウザー、コッカー・スパニエル、プードルなどが好発犬種です。 糖尿病が原因で、白内障を併発することがあります。この場合は、もともとの病気をコントロールする必要があります。通常、白内障は両眼に発症しますが、外傷を原因とする場合は、片方だけに起こることもあります。
■早期治療できれば回復は可能
白内障の治療には、進行をある程度止める内服薬があります。しかし、薬によって、白内障を治すことはできません。手術による治療法もありますが、すべてのケースに手術が可能なわけではありません。一般的には、発症して半年以内であれば手術はかなり有効ですが、それ以上経過 している場合は、効果はあまり期待できません。白内障が進行して眼の網膜が冒されていると、手術をしても機能の回復ができないからです。

愛犬が6〜7歳になったら、年に1回は眼の検査を受け、早期発見に努めましょう。なお、眼の病気の診断や治療には、かなりの専門技術と医療機器が必要となりますから、眼の病気に詳しい動物病院を見つけておくことも大切です。
■手術による回復可能性の判定テスト
愛犬が白内障にかかった場合、手術の効果があるかどうかを簡単に判定できるテクニックがあります。もちろん、完全に正しい評価ができるわけではありませんが、手術をするかどうか迷っている場合は、試してみる価値は十分にあります。

まず、真っ暗な状態にできる部屋に犬を入れまず。そして、犬をテーブルの上に座らせるといいでしょう。そのとき、フラッシュ付きのカメラを持ってあなたも一緒に入り、暗いところに慣れさせるために、5分間待ちます。

5分経過したら、犬の片方の眼の約10センチくらい前からフラッシュをたきます。このとき、犬がフラッシュの光に驚いてぴくっと動けば、その眼は手術することによって見えるようになる可能性があります。なぜなら、光に反応すれば、網膜が正常であると判定できるからです。

もう片方の眼についても、同じことをしてください。このテストで犬がぴくりともしなければ、その犬の網膜は障害を受けていると思われ、手術をしても視力を回復することはできないと考えられます。

このテストで反応し、手術によって眼が見えるようになる可能性があることがわかったら、できるだけ眼に詳しい動物病院で手術をしてもらうといいでしょう。
■緑内障はすぐに治療しないと失明する
緑内障というと、眼が緑色に変化する病気だと思うかもしれません。しかし、肉眼で見た場合、むしろ眼は赤くなります。急性緑内障は不幸な病気で、すぐに治療しなければほとんどが失明し、視力を回復することは一生できません。

残念ながら、私たちの病院の経験でも、病院に連れてこられたときには、もうすでに70%以上の犬が視力を失っています。したがって、急性緑内障の治療は緊急を要します。しかも、その治療はかなり困難です。

眼が赤くなる病気では、緑内障のほかに、急性の結膜炎や葡萄膜炎が考えられます。これらの病気の治療法はまったく違いますので、鑑別が非常に重要になります。

アフガン・ハウンド、バセット・ハウンド、ビーグル、コッカー・スパニエル、プードル、ワイアー・ヘアード・フォックステリアなどが好発犬種です。
■眼が赤くなったら要注意
眼球内部には房水と呼ばれる液体がありますが、これが異常に増えて外に排出されないと、眼球内部の圧力、すなわち眼圧が高くなります。そのため、視神経が圧迫され、障害が引き起こされます。これが緑内障です。緑内障の検査では、眼圧の測定が最も重要となります。

症状としては、眼が赤くなることのほかに、眼全体がふくらんできたり、角膜の表面が雲がかかったようにもやもやして見えます。また、緑内障が発症すると、眼が痛むので、犬は眼をつむります。動物は眼が痛いとき、ほとんど眼をつむります。ですから、犬が眼をつむっていたら、痛みがあるサインと考えてください。
■視力を失った場合は眼球を摘出することもある
緑内障で視力を失ってしまった場合、痛みを取り除くために、眼球摘出術、すなわち手術によって眼球自体を摘出してしまう方法があります。

最近よく行われる方法には、義眼挿入術、すなわち義眼をはめ込む方法があります。前述のように、非常に残念なことですが、緑内障の犬が病院に連れてこられたとき、多くはすでに視力を失っています。

犬の眼が赤くなったり、眼球がふくれてきたり、眼をつむっていたら、すぐに動物病院で診察してもらいましょう。

残念ながら、すべての動物病院でこの病気の診断ができるわけではありません。動物病院は全科を扱うので、当然、得手、不得手があるのです。眼科の得意な病院かどうかわからないときは、「緑内障を心配しているのですが?」とはっきり聞いてもいいでしょう。返事があいまいであれば、すぐに別の病院に行くことが重要です。
飼い主の方がふだんから注意すること
飼い主の方は、ふだんから次のようなことに注意してください。

左右の眼が同じように開いているか、眼ヤニや涙が出ていないか、特別に隆起している部分がないかを調べます。 眼の端の結膜を見て、貧血、充血、色素沈着、出血、黄疸がないかどうかよく調べてください。眼をつむっていれば、痛みがあることが考えられます。

前述のように、眼が赤くなったら、急性緑内障、急性結膜炎や葡萄膜炎が疑われます。手遅れになると失明してしまう病気もありますので、注意を怠らず、早期発見を心がけることが大切です。