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all words by Dr.NORIHIRO KOMIYAMA

犬の飼い方と病気

癌が及ぼす影響

                 ■長く生きればガンも多くなる
                 ■犬の死亡率の第一位はガン
                 ■腫瘍のすべてガンとは限らない
                 ■症状を見逃さないように
                 ■避妊していないと乳腺腫瘍にかかりやすい
                 ■バイオプシーは不可欠な検査方法

                 ■高齢犬でも手術はできる
                 ■薬の副作用は人間ほど強くない
                 ■回復の見込みがないときの選択肢
                 ■十分に説明を聞くことが大切


■長く生きればガンも多くなる
人でも動物でも、高齢になるとガンにかかりやすくなります。寿命が長くなれば、ガンの発症率は高くなります。ですから、高齢化が進めばガンが増えます。最近、ガンにかかる犬が多くなったのも、犬も高齢まで生きられるようになったか らでしょう。10歳を過ぎれば、ほとんどの犬がガンの前段階にあるといってもいいでしょう。長寿犬が増えたことには、いくつかの理由が考えられます。

1つは、獣医学が進歩したことです。たとえば、予防医学の発達により、病気の早期発見が可能になったり、予防接種が普及したため、伝染病を防ぐことができるようになったことなどがあげられます。また、動物の栄養学の研究も進んできました。バランスのよい栄養の摂取という観 点からの研究が行われ、動物用のすぐれたフードが開発されています。さらに、飼い主が動物を家族の一員として扱うことが多くなり、健康管理をはじめ 、動物の生活全般に配慮するようになったことも、動物の高齢化に結びついているといえるでしょう。しかし、このように動物の高齢化が進むほど、ガンの発症率も高くなってきました 。
■犬の死亡率の第一位はガン
アメリカで行われたある調査報告によると、10歳以上の犬の死亡率の第1位はガンで、全体の約50%を占めているということです。また、全年齢の死因の25%がガンであるとされています。すなわち、4頭に1頭はガンで死ぬということです。また、ガンの発症率を人と犬で比較すると、ほとんど同じであるか、犬のほうがやや多いといわれています。ちなみに、猫のガンの発症率は、犬の半分以下とされています。治癒率、すなわちガンがどの程度治るかということについては、積極的に治療した場合、犬のガンは30〜40%とされています。人間の治癒率は、約50%といわれます。

このように見ると、ガンの半分以上は治すことができず、ガンに打ち勝つことは確かに容易ではないと思われます。しかし、ガンにかかったからといって、決して諦めてしまっていけません。獣医師と飼い主が協力し、正面から病気と取り組むことにより、愛犬をガンから救う方法はあるのです。
■腫瘍のすべてガンとは限らない
体にできる腫瘍が、すべてガンであるとは限りません。腫瘍には良性と悪性があり、一般に悪性の腫瘍がガンと呼ばれます。悪性腫瘍の中で最も性質が悪いのは、手術で除去しても再発したり、他の場所へ転移するものです。

ガンの種類については、いろいろ研究が進められていますが、犬の場合、皮膚にできた腫瘍の80%は良性であるという統計があります。猫の場合は、逆に80%が悪性だとされます。

ガンの治療法としては、手術によって除去する方法が一般的ですが、ガンのできている部位によっては。手術ができないケースもあります。この場合は、ほかの治療法を適用する必要があります。
■症状を見逃さないように
ガンができると、全身にさまざまな影響が及ぼされます。人間でも、ガンに気付くことが難しい場合があります。まして、動物はどこか具合が悪くても、飼い主に言葉で伝えることができません。ですから、飼い主が愛犬の健康状態をきちんと観察し、異変があったら、すぐに気付かなければなりません。

まず、体の表面に出来物ができた場合は、ガンを疑うこともできます。特に出来物が少しずつ大きくなってきたり、形が変化している場合は注意しましょう。何かができたことを見逃さないためには、愛犬の皮膚や被毛を定期的にチェックする必要があります。目と手を使って、異常がないかどうかを調べてください。

体の中のガンは目で見ることはできませんから、ほかに異常がないかどうか、注意する必要があります。 ガンの特徴的な症状としては、「痩せてくる」「発熱がある」「貧血の症状が表れる」「リンパ節が腫れる」などがあります。

これらの症状を見逃さないようにし、早期に発見できれば、治癒率は高まります。 早期に発見するには、日頃の健康管理と定期検診が重要となります。
■避妊していないと乳腺腫瘍にかかりやすい
メス犬が避妊していない場合、乳腺腫瘍にかかりやすくなります。乳腺腫瘍にかかると、お乳の部分が固くなって盛り上がります。乳腺腫瘍は、直径が1p以上になると転移の可能性が高くなりますので、1p以内の時点で手術をする必要があります。

一般に、乳腺腫瘍の50%は悪性で、残りの50%は良性です。悪性のうち25%は転移します。すなわち、乳腺腫瘍にかかる犬のうち、4頭に1頭は転移する悪性腫瘍に苦しむことになります。転移はさまざまな部位に起こります。もし脳に転移すれば、ケイレンが起こります。肺に転移すると、咳が出て、最終的に呼吸困難に陥ります。また、胃や骨にも転移します。

最近は、超音波検査が普及してきましたので、腹部の転移の状況をかなり正確に知ることができるようになりました。しかし、乳腺腫瘍は転移という悲惨な状態を招きやすい病気ですから、メス犬に子 どもを生ませない場合は、早めに避妊手術をするのがよいでしょう。また、子どもを生ませた後、次に生ませる予定がない場合も、手術をお勧めします。
■バイオプシーは不可欠な検査方法
ガンが疑われる場合、「もう少し様子を見ましょう」という態度が最も悪いといわれます。特に動物の場合は進行が早いので、できるだけ早期にガンであるかどうかを判定し、ガンであれば、速やかに病巣を取り除くのが治療の基本です。

ガンであるかどうかを調べるには、いくつかの検査方法があります。通常、獣医師が最初に行うのが、吸引バイオプシーです。これはその出来物に小さな針を刺して、中身を検査をする方法です。この検査により、獣医師はその出来物が腫瘍であるか、あるいは炎症によるものであるかを鑑別します。リンパ肉腫や肥満細胞腫などは、この検査だけで確定診断ができます。

しかし、一般的には、吸引バイオプシーは、あくまでも本来のバイオプシー(生検)の前に行う振り分けテストとして利用されます。すなわち、吸引バイオプシーで腫瘍であることが疑われた場合、バイオプシーによって病変組織の一部を取り、病理検査に回すことになります。この組織の病理検査によって、腫瘍であるかどうか、腫瘍ならば良性か悪性かを鑑別したり、腫瘍の種類を調べたりします。
高齢犬でも手術はできる
腫瘍の治療法には、外科療法、化学療法、放射線療法、免疫療法、凍結外科療法などがありますが、最も一般的なのは手術による外科療法です。手術によって治る見込みが高い場合、外科療法は最もすぐれた治療法でしょう。特に腫瘍が小さくても時間の経過につれて大きくなってきた場合とか、転移する可能性が少ない場合、 外科手術は、腫瘍が小さいほど成功率が高くなります。ですから、腫瘍が徐々に大きくなっていることがわかれば、少しでも早く手術したほうが治癒率は高くなるということです。

外科手術に関しては、「広く、深く、より早く切ること」がベストとされ、「腫瘍を残すより傷を残せ」といわれています。また、動物が老齢だから手術ができないという話を聞きますが、老齢でも手術が適切な場合もあります。ガンの手術経験の豊富な獣医師に診察してもらうことが重要でしょう。
薬の副作用は人間ほど強くない
外科療法の次に重要なのは、薬による化学療法です。現在では、抗ガン剤は100種類を超えるようですが、動物も人間用の抗ガン剤を利用しています。抗ガン剤といえば、すぐに副作用を連想しますが、動物では人間ほど強い副作用は表れず、半分以下といわれています。

主要な副作用としては、嘔吐、下痢、食欲不振、脱毛などがあげられますが、動物は人間ほど苦しまずに、化学療法を受けることができます。たとえば、脱毛についても、抗ガン剤の種類によって違いがありますが、人の場合よりかなり少ないようです。
■回復の見込みがないときの選択肢
もし、あなたの愛犬がガンにかかり、すでに肺などの他の場所へ転移しているなど、治せる見込みが少ない場合、次の3つの方法のうちいずれかを選ぶことができるでしょう。

1つ目は、回復の見込みがないことがわかり、心の整理がついたところで、安楽死を選びます。

2つ目は、ガンに対する特別な治療は行わず、痛みや苦痛を取り除く薬だけ投与したり、またはほとんど副作用のないと思われ薬を併用し、それらの薬の効果がなくなった時点で、安楽死させることです。

3つ目は、時間と費用はかかりますが、たとえ治る可能性は少なくても、徹底的にガンと立ち向かって、抗ガン療法を受けることです。

愛犬の苦痛ができるだけ少なくてすみ、飼い主やご家族が納得できる方法を選ぶことが大切です。
■十分に説明を聞くことが大切
ガンはその種類によって、予後も大きく変わってきます。ですから、担当の獣医師と十分に話し合い、愛犬にとって最もよい治療法を選ぶことが重要です。その際には、それぞれの治療法の長所および短所、予後、費用などの説明を十分に受け、あなた自身で治療法を選択してください。もし、愛犬の病気が治らないことがわかっても、死はいつか必ず訪れるものです。 その事実を受け止め、愛犬との最後のときを少しでも安らかに送れるようにしてください。