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all words by Dr.NORIHIRO KOMIYAMA

犬の飼い方と病気

呼吸困難について

                 ■呼吸困難の主要な原因は胸の病気
                 ■咽頭の病気による呼吸困難
                 ■気管の病気による呼吸困難
                 ■気管支の病気
                 ■咽頭と気管支の病気の検査
                 ■肺の病気

                 ■心臓病が原因となる場合
                 ■心臓肥大の判定法
                 ■その他の原因で起こる呼吸困難


■呼吸困難の主要な原因は胸の病気
呼吸困難とは、呼吸をするのが苦しくなる状態のことで、病的な状態です。これに対し、呼吸困難に似た状態で、呼吸速迫(頻呼吸)と呼ばれるものがあります。これは、たとえば暑さ、運動、不安、驚きなどが原因になり、呼吸の回数が単に増加する状態です。

病的な呼吸困難と呼吸速迫を、状態を見ただけで判別することはなかなか難しいことがありますが、その前後の状態を見れば、通常、どちらであるかの判断ができます。

もし、犬のいる環境が非常に暑かったり、あるいは激しい運動をした時や、何かに驚いたような時であれば、犬が苦しそうに呼吸しているのは、呼吸速迫であると考えることができます。しかし、その状態が長く続いたり、何か変わったところが認められれば、ほかの原因が考えられることもありますので、注意が必要です。

呼吸困難の原因としては、まず第一に胸部、すなわち胸の内部の働きの異常が考えられます。時々、お腹に原因がある場合もあります。たとえば、お腹に水(腹水)が大量にたまっているとか、お腹のなかのある臓器が大きくなって胸を圧迫しているために、呼吸が苦しくなる場合です。

このようなケースでは、お腹が張っていたり、大きくなっているので分かると思います。通常は、呼吸困難は胸の内部の病気が原因で起こります。そして、その胸のなかの病気は、心臓の病気と心臓以外の病気とに分けられます。
■咽頭の病気による呼吸困難
呼吸困難の原因となる心臓以外の病気は、喉頭、気管、気管支、肺(肺胞)の4つの部位の病気に分けることができます。

まず、咽頭の病気からお話します。これは短頭種の犬(頭の短い犬)、たとえば、チン、ボクサー、シー・ズー、ペキニーズなどによく起こります。これは、鼻腔の狭窄 (鼻の内部が狭くなっている状態)、喉頭の奥のヒダが伸びる(いつも呼吸が速いため刺激される)ことによって起こる軟口蓋伸長症 、扁桃腺の肥大、後述する気管虚脱、喉の奥の一部の反転(変形)など、いくつかの原因が複雑に絡み合って、呼吸困難となるものです。
■気管の病気による呼吸困難
次に、気管の病気ですが、これは特に小型犬、たとえばポメラニアン、ヨークシャー・テリア、シー・ズー、トイ・プードルなどの高齢犬によく起こります。気管の一部が狭くなって起こる気管虚脱の状態が、原因としてはもっとも多いものです。

その他、腫瘍ができて気管の一部が詰まり、呼吸困難を起こすこともあります。若い小型犬では、気管未形成と言って、生まれつき気管が小さく、そのため呼吸困難になることもあります。

また、食道に何か異物が詰まり、気管が圧迫されて、塞がってしまうために呼吸困難を起こすことがあり、これは全年齢において起こります。一般に、気管は触診ができます。前述のように、小型犬には、気管が押しつぶされたように変形する気管虚脱がよく見られ、これが呼吸困難の主な原因になります。

獣医師はこの病気の診断に当たって、まず外側(首の前)から気管に軽く触ってみます。これは発咳テスト(咳の出方を調べるテスト)と呼ばれます。通常、外側から喉に触って気管を刺激すると、1回か2回、「ゴホン」と咳をしま す。このような咳の出方が正常です。これに対して、4〜5回も続けて咳が出る場合は、異常です。

しかし、発咳テストによる異常がすべて、気管虚脱を原因とするわけではありません。気管の炎症、すなわち気管支炎でも、異常に咳が出ることがあります。

散歩中、犬が自分の好きな方へリードを引いて行こうとする時、喉に首輪が食い込み、ゲーゲーしている姿を見かけることがあります。これも、自然に発咳テストをしているようなものです。気管に炎症等がある場合は、喉に刺激を与えると咳がひどくなります。

首輪の刺激によって、咳の出方がひどい場合は、首輪をやめて胴輪(ハーネス)にするとよいでしょう。ただし、胴輪は中型犬、大型犬では危険ですので、十分にその使用を考える必要があります。胴輪は首輪に比べて、犬を制御するのが難しいからです。

十分に訓練され、飼い主が制御できる犬は別ですが、そうでないと、散歩中などに犬にどんどん引っ張られて事故に遭う危険性もあります。ですから、胴輪を使用する場合は、犬の訓練度や、犬の大きさおよび引く力などを考えてからにしてください。
■気管支の病気
気管支は気管より奥にあるので、その病気は触診等では分かりにくく、レントゲン検査や気管支鏡などの検査によって診断します。気管支鏡は胃カメラのようなごく小型のカメラで、これを気管のなかに入れ、直接に気管を調べるます。

最近では、気管支洗浄という方法が取り入れられるようになりました。動物に麻酔をかけ、気管のなかに無菌の液体を入れ、それを回収して、異常な成分を調べる方法です。

主な病気としては、気管支拡張症などがあります。これは高齢犬に多く、咳、呼吸困難の原因になります。また、気管支に異物が詰まっていると、やはり呼吸困難が起こります。レントゲン検査での診断が重要です。
■咽頭と気管支の病気の検査
通常、咽頭と気管の病気を調べるには、注意深い稟告(飼い主から犬の状態を聞くこと)と身体検査を行います。特に咽頭は口のなかですから、比較的おとなしい犬でないと、よく調べることは難しくなります。そして、聴診がもっとも重要となります。

レントゲン検査では、気管の大きさや形状を調べます。また、心電図でも気管の異常が分かることがあります。気管の炎症を調べる際に、前述の気管支洗浄を行うこともあります。

もし、回収した液体の成分のなかに、細菌があれば細菌性の炎症、カビがあればカビ性の炎症であることが分かります。同様に、腫瘍が見つかれば腫瘍性、好酸球 (白血球の一種で、アレルギー性疾患がある場合は数が増える)が多数見つかれば、アレルギー性というように、炎症の原因が判明します。

またできれば、気管支鏡の検査を行えば非常に有益です。これは特別な検査なので、行える動物病院は限られるでしょう。ほかに、透視装置(テレビ、レントゲン)の利用が役立つ場合もあります。
再発性、または治りにくい気管の病気をもっている犬の飼い主の方は、気管支洗浄、気管支鏡、透視装置の利用できる病院で診断してもらうとよいでしょう。
■肺の病気
呼吸困難の原因となる病気としては、肺炎が知られています。肺の3分の1以上が冒されると、呼吸困難が引き起こされます。しかし、肺炎にも細菌性やアレルギー性など、種類がありますので、その原因を突き止めることが重要です。

アレルギー性の肺炎は、血液採取によって推定することもできますが、やはり根本的には気管を洗浄して、肺の状態を推定することが重要でしょう。呼吸困難の原因となる肺の病気の中で最も危険なものは、肺の腫瘍です。特に避妊手術をしていない高齢のメス犬は、乳腺腫瘍 ができやすく、これが肺に転移することがあります。そして、肺全体が腫瘍に冒されるケースが見られます。

肺の病気の診断も、ほとんどはレントゲン検査によって行います。肺の転移性の腫瘍が疑われる場合は、腫瘍が最初に発生した部位が分かれば、その部位の腫瘍組織の一部をとり、調べる方法を利用することもできます。これは生検(バイオプシー)と呼ばれ、特殊な針で組織の一部をとる検査法で、この方法によって確定診断が得られる場合もありますが、すべての症例において可能なわけではありません。

その他、肺の病気には、肺気腫、気胸(肺のなかに空気が溜まる病気)、後述する肺水腫などが、呼吸困難の主な原因となります。
心臓病が原因となる場合
確率的には、心臓の病気によって呼吸困難が起こるケースが最も多いようです。心臓を右側(右心房、右心室)と左側(左心房、左心室)に分けると、特に左側の心臓の病気が呼吸困難ともっとも関係があります。

すなわち、左側の部分の僧帽弁(左心房と左心室の間にある弁)が大きくなり、その影響で肺の中に水がたまると(肺水腫)、呼吸困難が引き起こされます。この症状は、小型犬や中型犬の高齢犬によく見られます。また、大型犬においても、心不全の末期には肺水腫がよく起こります。
心臓肥大の判定法
心臓の病気であるかどうかは、心臓の大きさを調べることによって、多くは判定できます。これを調べるには、通常レントゲンが利用されますが、心電図も有効です。また、最近では、超音波検査を利用することにより、心臓の中の状態を克明に調べることができるようになりました。

これらの検査により、どのタイプの心臓病であるかを判定し、それに対してもっとも適切な処置をとれば、現在では、かなり重症の心臓病でも、動物を長生きさせることができるようになってきました。

獣医師は、呼吸困難の原因が心臓の病気であるかどうかを判定するに当たり、まず心臓の大きさを調べます。心臓が正常時より大きくなっていれば、心臓に病気があります。

これはレントゲン検査をすればすぐに分かるのですが、レントゲンを撮らなくてもある程度分かる方法があります。この方法は、飼い主の方も応用できるので、覚えておいてください。

まず、心臓のある部分、すなわち前肢の付け根の後ろの部分を、両手でそっと触ります。愛犬が若い時から、時々この方法で心臓に触り、健康な時の心臓の拍動(動きの強さ)の大きさを覚えておくとよいでしょう。

一般に、高齢になるにしたがって、両手で触ったときの拍動感が大きくなります。それは、心臓が大きくなっているという証拠です。心臓の部分に手を当てると、強い拍動が感じられる場合、心臓の機能がかなり異常だということです。

このように、ただ手で触るだけでも、心臓に異常があるかどうかが分かるのです。ですから、ふだんから時々、愛犬の心臓の部分に手で触ることをお勧めします。
■その他の原因で起こる呼吸困難
呼吸困難のその他の原因としては、重症の貧血があります。血液には、体の組織に酸素を運ぶ働きがありますが、貧血のために血液の量が少ない場合、組織に供給される酸素が不足し、少し動いただけで苦しくなります。

その他、熱射病や日射病、頭部の外傷、一部の中毒、たとえばエチレングリコール中毒なども呼吸困難の原因になります。また、特に頭部の外傷によって呼吸困難が引き起こされることがあります。頭部の外傷と同時に受けた頭部以外の外傷でも、胸に空気がたまる気胸という状態がおこっ た場合、呼吸困難になることもあります。その他、肋骨が骨折した場合なども、呼吸が制限され、呼吸困難が起こるケースもあります。

特に短頭種の犬が呼吸困難を起こす場合、鼻孔が狭い、軟口蓋の部分が過剰に長い、声帯の異常などの原因が考えられます。いずれにしても呼吸困難が起こったら、窓を開けて風通しをよくするなどし、換気のよい場所で犬を安静にさせ、動物病院に連絡するとよいでしょう。