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all words by Dr.NORIHIRO KOMIYAMA

Dr. 小宮山の健康相談室

高齢病対策
(99年2月「犬の老化を考えよう」Vol.75掲載 2000/8/13 第1回改訂)

人も犬も高齢化
高齢化の理由
老化のいろいろなサイン
行動面・性格面の変化
心臓と腎臓の衰え
性腺の機能低下
ガンが増える
特に小型犬の歯の病気
消化力
嘔吐と下痢と便秘
腎臓
前立腺
乳腺腫瘍
空気嚥下症
骨と筋肉
対策

Q&A1

人も犬も高齢化
人間の社会では高齢化が着々と進み、この問題は新しい世紀が取り組むべき最大のテーマの1つとなっています。

私たちと共に暮らす犬も長生きするようになりました。現在、犬の平均寿命は12-14歳くらいでしょう。これは人間に換算すると大体64-72歳にあたります。一般に小型犬の方が大型犬より長生きし、20歳近くまで生きる小型犬も珍しくありません。大型犬では15歳くらいまで生きる犬もいます。このようにかなり多くの犬が高齢期を迎えるようになっています。
高齢化の理由
犬が長命になった理由は、いくつか考えられます。まず、獣医学の進歩があげられるでしょう。医療機器や薬品の開発を含め、最近の獣医学の進歩には目覚ましいものがあり、病気の予防・早期発見・治療の方法が進歩してきました。

良質のフードが開発されたり、犬の食生活についての飼い主の意識が高まり、栄養バランスの良い食事を与えられるようになったことも理由にあげられるでしょう。さらに、食生活のみならず、健康管理全般に関心を持つ飼い主が増え、病気の発見や予防に注意するようになったことも、長寿犬が増えた理由でしょう。
老化のいろいろなサイン
人間は年齢が進むに従って行動や体の諸機能にさまざまな変化が表れます。すなわち、老化現象です。

飼い主から見ると犬はかわいく、いつまでも子どものような存在に思いがちですが、犬も人間と同じように老化します。老化は徐々に進行し、少しずつ変化が表れます。決して病気ではなく、あくまでも自然に起きる状態ですが、飼い主の皆さんの心がけ次第で、老化の進行を遅らせ、高齢になっても元気に過ごさせることはできます。そのためにも老化のサインを見逃さないようにすることが大切です。
行動面・性格面の変化
犬が高齢になると、日中に眠る時間が多くなり、夜間あまり眠らなくなることがあります。しつけがきちんとできていて、マテやオスワリなどの指示に従っていたのに、指示してもできなくなったりします。また、理由もなく吠えることもあります。排便排尿の回数が少なくなり、運動量も減ります。水分が必要なのに飲もうとしない犬もいます。そのような場合は、積極的に水を飲むような環境を作ってあげてください。

性格面では、何でもないことで驚いたり、飼い主に対する関心が薄れるなどの変化が起こることがあります。
心臓と腎臓の衰え
医学的観点から老化を見ると、まず心臓の機能が衰えます。そのため心臓から全身に送り出される血液の量が減ってきます。この症状はだいたい6-7歳くらいから始まり、徐々に進行して、10歳以上になるとほとんどの犬に起こります。

腎臓も衰え、若い頃に比べて25%程度も機能が低下します。 皮膚の色素沈着、すなわち皮膚の黒ずみも起こります。この状態はまだ1-2歳の若い頃から始まり、少しずつ進行していきます。
性腺の機能低下
性腺の機能も低下します。メスでは卵巣の変化が8-9歳で、オスでは精巣の変化が13歳くらいで起こります。

人間でも年齢が進むと、皮膚がかさつき弾力が失われてきます。犬も同じで、高齢になると皮膚の水分が減り、弾力性が乏しくなります。また、これも人間と同様、血圧も高くなる傾向にあります。甲状腺の機能低下も認められますので、高齢犬は甲状腺の値を調べておくと良いでしょう。
ガンが増える
人間は中年になるとお腹が出っ張ってくる人が目立ちます。いわゆる「中年太り」です。犬も年齢が進むと余分な脂肪がついてくることがあります。若い犬の体脂肪率は約15%ですが、高齢犬では30%以上に増えることが多いようです。悪性腫瘍、すなわちガンは、人間も中年以降に発生率が増加しますが、犬の場合も年齢とともにガンの自然発生率が増えます。

10-16歳の犬の死因の1位はガンで、死因の約45%を占めています。なかなか興味深いことですが、年間のガンの発生率は人間と犬でほとんど同じだといわれています。
特に小型犬の歯の病気
高齢になると歯の病気も多くなります。歯の病気の最大の原因は歯石です。歯石は非常に有害な物質です。歯石が付着しているということは、口の中に毒物があるのと同じことです。

口の中の問題としては、歯肉が細菌感染を起こしやすくなり、歯周病の原因になることがあります。その他、歯石の毒が全身に回り、心臓や腎臓などの機能に悪影響を与える怖れもあります。

予防には歯磨き
歯石は、大型犬より小型犬によく付着します。小型犬は、歯と歯の間が狭く、食べ物のカスが詰まりやすいからです。 歯の病気を予防するには、歯磨きの習慣をつけ、歯石がつかないようにすることが大切です。 仔犬のときから歯磨きの習慣をつけましょう。毎日、同じ時間に同じ場所で歯磨きをすると良いでしょう。歯磨きをしていても、歯石がつくことがあります。その場合動物病院で除去してもらうことができます。
消化力
高齢犬は消化力も衰えてきます。歯が弱くなり、唾液の分泌能力も低下し、食道の筋肉も衰えるからです。食物を飲み込む力が弱くなり、食べたものを食道に詰まらせることがあるので注意しましょう。

さらに、すい臓や腸管の機能が低下することも消化・分解能力の衰えにつながります。ですから高齢犬には食事を軟らかくしたり、少しずつ与えるという配慮が必要になります。 。
嘔吐と下痢と便秘
高齢犬が食事の2-3時間後に嘔吐することがあります。原因は、胃の後ろにある部分、すなわち幽門の機能不全、またはお腹にガスが発生することにありますが、これは小腸の働きが悪くなったために起こります。 お腹の中のガスの発生を防ぐには、脂肪やタンパク質の多い食品を必要以上に与えないことが大切です。ガスの発生しないフードを、動物病院で処方してもらうこともできます。

結腸の筋肉も衰えるので便秘を起こしやすくなります。食後しばらくたってから、体を動かさせることによって、便秘防止に効果があるでしょう。
腎臓
腎臓の機能が低下し、タンパク質を十分に処理できなくなります。高齢犬の食事は、タンパク質を控え目にする必要があります。

最近、テレビなどで高齢者用のオムツの宣伝が盛んに行われています。かなりの高齢や病気の場合、膀胱の締まりがなくなり、ふとしたはずみで失禁してしまうことがあります。

犬も老化すると、まれに失禁することがあります。ただし失禁は必ずしも老化のサインではありません。膀胱の病気や精神的な原因から失禁することもあります。高齢犬が失禁した場合、老化によるものか、あるいは病気によるものかを調べてもらう必要があります。
前立腺
去勢していないオス犬は、前立腺肥大を起こすことがあります。前立腺肥大には良性と悪性があり、多くは良性です。

良性の場合、去勢することによって前立腺を徐々に小さくすることができます。しかし、悪性の前立腺肥大もありますから注意が必要です。子どもをつくる予定のない場合は、若いうちに去勢手術をすると良いでしょう。手術は通常生後6カ月を過ぎた頃に行いますが、もう少し早い時期に行う場合もあります。
乳腺腫瘍
メス犬が避妊していない場合、乳腺腫瘍が発症しやすくなります。避妊手術をしていない10歳の犬の約半分近くに乳腺腫瘍が見られ、そのうち約半分は悪性です。15歳では約80%以上の犬にこの病気が見られます。悪性の乳腺腫瘍は転移の可能性が高く、非常に恐い病気です。

この腫瘍を予防するには避妊手術を行うことが有効です。遅くとも3歳半くらいまでに避妊手術をすれば、乳腺腫瘍の発生率が非常に低くなることが統計的に立証されています。子どもを生ませない場合は、できれば最初の発情前に卵巣と子宮を除去する避妊手術を行うことをお勧めします。
空気嚥下症
特に食事を勢いよく食べているとき、大量の空気を一緒に飲み込み、外に出てこないことがあります。これを空気嚥下症といいます。

大量の空気が胃の中に入ったまま出てこないと、毒素が発生し、病気の原因となります。特に高齢犬においては、空気嚥下症を防ぐことは大切な問題です。食事と一緒に飲み込む恐れがありますので、あわてて食べさせないように気をつけましょう。また、食事を1度に与えるのではなく、少しずつ分けて与えると良いでしょう。

興奮しているときにも空気を飲み込むことがありますから、興奮するような状況を作らないように注意してください。高齢犬でなくても、若い大型犬や短頭種の小型犬は、比較的この空気嚥下症を起こす傾向にあります。シェパードのような胸の深い大型犬は、胃に空気がたまり、胃捻転を起こすことがありますから十分に注意しましょう。
骨と筋肉
老化に伴い筋肉の量も減少します。四肢の筋肉だけではなく心臓の筋肉量も落ちます。ですから心臓に負担をかけないようにしなければなりません。

骨の量も減少します。特に中型犬や小型犬では、変性性関節炎といって関節が変形し、腫れや痛みを伴う関節炎を起こしやすくなります。変性性関節炎は、関節に一定以上の負担がかかると痛くなり、関節を休めると痛みが消えるのが特徴です。高齢犬をかなり長く散歩させ、翌日動きたがらないとしたら、関節が痛いからだと考えられます。通常、関節を休めれば痛みは消え、また歩けるようになります。
対策
高齢犬の健康管理では食事の与え方が非常に重要です。必要とされる栄養素やカロリー量は、年齢によって違ってきます。仔犬・成犬・高齢犬では、違う食事を与える必要があるのです。人間でも、子ども・成人・高齢者では食べ物の種類や量が違います。

高齢犬の食事で気をつけなければならないのは、タンパク質を与えすぎてはいけないことです。成犬用の食事はタンパク質が多すぎますから、必ず高齢犬用の食事を与えましょう。特に腎臓の機能が衰えている場合、タンパク質をとりすぎると症状が悪化する恐れがあります。


食事の与え方
食事の与え方にも配慮が必要です。飲み込む力が衰えていたり、先述の空気嚥下症を起こす危険もありますから、少量ずつ何度かに分けて与えるのが良いでしょう。歯が抜けたり弱くなっている場合は、硬い食品を与えると歯肉に傷がつく心配があります。歯がほとんどない場合は安全に飲み込める大きさにちぎって与えましょう。犬の食欲を刺激する工夫も大切です。食事を体温と同じ温度に温めたり、においや香りをつける方法があります。

塩分控え目
高齢になると心臓病の犬が多くなります。健康な犬でも心臓の機能が衰えてきます。心臓病の犬には塩分を控えなければなりません。人間用に味付けしたものは、犬にとって塩分が2.6倍も多すぎることになります。動物病院で心臓病用のフードを処方してもらうと良いでしょう。ホームメイド食を与える場合も塩分に十分注意してください。人間が食べるために調理した食べ物を与えてはいけません。食事以外にも、心臓病の犬は安静を保つことが大切です。無理な運動をさせないようにしましょう。

適度な運動
先述のように、高齢になると骨や筋肉の量が減少してきます。これは自然な老化現象ですが、減少の速度を遅らせることはできます。適度な運動をして、筋肉や骨にある程度の重みをかけるのです。そのような運動を無理にならないように続けると、筋肉や骨の衰えを防ぐことができます。ただし、心臓病の犬など、運動が悪影響を与える場合は、もちろん運動をさせてはいけません。

対策は若いときから
高齢になるといろいろな機能が衰えてきますが、これは病気ではなく自然な現象です。しかし、人間でも老化現象の表れる時期にはかなりの個人差があります。この老化現象の起こる時期に重要な影響を与えるのは、若い頃からの生活習慣であるといわれています。犬も同様です。仔犬のときから年齢に応じた食事を与え、適度な運動を続け、健康管理を怠らず、飼い主として犬との良い関係を保つようにしましょう。

Q1
3歳4カ月のメスのチワワです。生後6カ月頃から、硬直したような感じで、手足はつったように力が入り、爪は立ったままで、目は視点が合っていないという状態になります。1歳までは半年に1回くらい、2歳までは年に4-5回、3歳までは月に1-2回以上という具合に起こり、最近はまたひどくなりました。

以前は1回につき3分くらい症状が続き、また3分くらい元に戻るということを、多い場合は3回くらい繰り返す程度だったのですが、最近はかなり何度も繰り返し、その状態が1-2時間も続きます。発作が終わった後、抱かないで放すと、また症状が出ることもあります。

体力を消耗するらしく、放しても動けないようで、ひどいときは半日くらい動きません。でも、元気になればいつも通り食事を食べます。2歳くらいまでは獣医さんに「熱中症」と言われていたのですが、最近は「精神的なものでストレスから来ている。治す方法はない」と言われました。

今は「精神安定剤」を処方してもらい、症状が表れたら飲ませています。飲ませると、30分くらいで落ち着き、症状はなくなります。これまで脳の検査をしたことはありません。どのように思われるかご意見をお聞かせください。(愛媛県/N・M)
■A1
周期的に来る発作で、最近になってだんだん回数が増えてきたとのことですが、何であれその発作を早く止めることが原則です。それらの発作の3分の1は完全にコントロールでき、3分の1が大体コントロールでき、残りの3分の1が不完全ながら少しだけコントロールできるという状態です。

お話によると、現在のかかりつけの獣医師は神経病に対してあまり得意ではないようです。別の病院を探すことをお勧めします。何カ所かまず電話をして状況を話し、よく話を聞いてくれるところを数カ所選びます。そして、あらかじめできるだけ多くの状況を紙に書いておき、病院に行ってまず診察だけをお願いするのです。その際に、過去の記録などデータをすべて見せるとよいでしょう。

最低3カ所以上の病院へ行き、何か考えられるか?どんな治療をするのか?検査は?料金はいくらかかるか?などを質問し、どの病院が良いか自身の人生経験を生かして判断してください。