■意識を失ったときは呼吸を確かめる |
動物が意識を失うと飼い主は動転すると思いますが、努めて冷静になってください。そして動物が呼吸しているかどうかを確かめます。これはきわめて重要なことです。胸が動いていれば呼吸していますから、動物の胸などを持たないように(負担がかからないように)して病院に運びます。
もし、胸が動いておらず、呼吸していないときには、呼吸できる状態にしなければなりません。呼吸が止まっているのは、空気の通る道、すなわち「気道」がふさがっていることが考えられますから、その気道を確保する必要があります。それには犬の舌を引っぱり出してください。少しでも呼吸がしやすくなります。その方法で呼吸を回復してから病院に運びます。
自発呼吸ができない場合は人工呼吸を行う必要があります。自発的に呼吸ができないのは通常より重症だということですから、一刻も早く病院に運ばなければなりません。しかし安全運転がより重要です。できれば、車の中などで人工呼吸をしながら運ぶと良いでしょう。
動物の体温が下がっている場合は体を暖める必要があります。体にさわってみて体温が低下していることが分かったら、頭以外を毛布などでおおい、暖めてください。
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■けいれん発作のときはあわてない |
犬がけいれん発作を起こして倒れた場合、飼い主はびっくりするでしょう。けいれん発作の原因は大きく分けて2つあります。1つはてんかんでもう1つは心臓病です。通常、てんかん発作や心臓発作を起こしても、犬が突然死亡することはありません。しかし、発作の原因を突き止め、原因に応じた治療を行う必要があります。
犬がけいれん発作を起こしたときは、何かにぶつかってケガをしないよう注意してください。周囲に危険なものがあれば取り除き、取り除けない場合は安全な場所へ犬をそっと移動しましょう。発作を起こしているときに、人間がそばについていることを教えようとして、犬に話しかけたり体にさわるのは避けましょう。かえってその状態を刺激して悪化させることがあります。
心臓を原因とする発作の場合、発作の続く時間は10-20秒程度、長くても1-2分で治まり、最初はすぐにもとの正常な状態に戻ります。てんかん発作の場合も、初期であれば通常1-2分程度で治まります。発作が治まってから病院で原因を調べてもらいましょう。その他のけいれん発作の原因は、頭部外傷・中毒・腎不全・肝臓の奇形等があります。 |
■出血は止めてから |
出血がひどいときは病院へ運ぶ前に止血する必要があります。出血している部分より少し心臓に近い部分を包帯や手拭いで強くしばってください。包帯や手拭いを巻いたら、内側に棒を入れてねじると効果的にしばることができ、通常は出血が止まります。このような止血処置をしてから、そっと病院に運んでください。 |
■骨折部分にはさわらない |
骨折の可能性があるときは、骨折したと思われる部分にさわらないのが原則です。
脚を骨折し、骨が外から見える状態であれば、救急処置をします。傷口を消毒液(3%の過酸化水素など)で消毒し、殺菌したガーゼで傷口をおおいます。できれば添え木を当てて軽くしばって病院へ連れていきます。適当な添え木がなければ、新聞紙・雑誌・段ボール紙などを利用してください。
動物を運ぶときは、平らな板や段ボールなどの上にのせ、担架のようにして移動します。 |
■火傷のときは冷やす |
直火や熱いものにさわって火傷をした場合、真っ先に行うことは火傷の部分を冷やすことです。まず水をかけて冷やしますが、通常いやがりますので、汚れを落とす程度で良いでしょう。できればビニール袋に氷水を入れ、患部に当てて冷やしながら病院へ運んでください。
火傷が広範囲にわたるときは、もしあれば滅菌した清潔なガーゼで患部をおおいます。脱脂綿のように線維がはがれやすいものは避けてください。このようなガーゼは救急箱に常備しておくと良いでしょう。飼い主が自分の判断で薬品を塗ったりすると悪化することがありますので、そのようなことは絶対にやめてください。
ガソリンや殺虫剤のような化学物質を浴びて火傷をした場合、通常は皮膚が真っ赤になり痛みを伴います。この場合、もし犬があまり痛がらなければ、化学物質を落としてしまうと良いでしょう。それには水と石鹸または動物用シャンプーで繰り返し患部を洗います。犬が痛がるようなら無理にこの処置をするのはやめましょう。 |
■異物を飲む |
小型犬の仔犬に特に多いのですが、異物を飲んでしまうことがあります。仔犬は何にでも興味をもち、すぐに口に入れることがあるからです。飲み込むと危険なものは犬の周囲に置かないことが大切です。そして犬が何かを口に入れようとしたら、飼い主の指示によってそれをやめさせるようにしつけをする必要もあります。
しかし、もし飲み込んでしまった場合の処置も知っておきましょう。犬が異物を飲み込んでしまったとき、何でもただ吐かせれば良いというものではありません。吐かせて良いものと悪いものがありますから注意しましょう。吐かせても大丈夫なものは、パチンコの玉やコインのように形が比較的丸いものです。尖った部分があるものは、無理に吐かせると食道を傷つける怖れがあります。
異物を吐かせるとき |
もし異物を飲み込んでも苦しそうにしていない場合(すんなり胃の中に入った場合)、飲み込んだ異物が吐かせても大丈夫なものであれば、食塩を与えると吐き出すことがあります。
体重10kgくらいの犬の場合、5-20gの食塩をティースプーンで舌の上に置きます。そうすると、5-10分以内に飲み込んだものを吐き出すことがあります。
ただし、この方法で吐き出すのは異物が胃の中にある場合で、腸にまで達しているときは難しいでしょう。したがって犬が異物を飲み込んだ直後であれば、比較的有効な方法といえるでしょう。
異物を吐き出させることができない場合、レントゲン検査で異物を確認し、開腹手術が必要となるかもしれません。しかし、最近では胃の中か十二指腸の近くにある場合は開腹せず、胃カメラを使って異物を取り出すこともできるようになりました。大体異物の75%は取り出すことができます。
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異物が気道に詰まったとき |
異物が食道から胃に入った場合は、とりあえずすぐには呼吸困難になりませんが、喉つまり食道(すぐ真下に空気が通る気道がある)に詰まった場合、緊急を要します。食道が膨らみ、その下の気道が圧迫されます。この状態では呼吸ができませんから、非常に苦しがり、舌が真っ白になることもあります。
応急処置としては、まず異物が吐き出せる物質であれば、吐き出させます。その方法は、犬が比較的小さければ後脚を両手でもってぶら下げ、何回か上下させます。この処置によって異物を吐き出すことがあります。人間が2人いれば、1人が犬をぶら下げ、もう1人が背中を平手で比較的強く叩くと、刺激されて異物が出てくることもあります。
大型犬の場合、固い床の上に横向きに寝かせ、手のひらを胸の後方に当て、前方に向かって急激にぐっと力を入れて押してください。うまくいけば異物を吐き出すことがあります。 |
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■食べ物をつまらせたら |
食事の途中で大きめの食べ物やパンのような軟らかいものを連続して食べると、喉(食道)につまることがあります。食べ物がつまった場合は、吐き出させるより奥に押し込むほうが効果的です。先の丸いキャップとかボールペンの後方の丸い部分で喉の奥へ押し込みましょう。
特に幼齢や高齢の小型犬に起こりやすいので十分に気を付ける必要があります。応急処置の方法を知らなかったばかりに、大切な犬を亡くし、嘆き悲しむ飼い主さんが日本中にいます。ぜひぜひ気を付けてください! |
■毒物を飲んだら病院に連絡 |
動物が毒物を飲んだときは、できればすぐに動物病院に電話連絡し、獣医師に何を飲んだかを報告してください。ただちに応急処置の指示をしてもらえる場合があります。そのときは指示に従って処置をし、病院に運びます。例えばカエルを噛んで中毒になったら、まずホースを使用して口に水をかけよく洗うことなどです。
犬を病院に連れていくときには、できれば飲んだ毒物を容器ごと持参しましょう。あるいは毒物の一部を持参し、分かる場合は毒物の名前をメモしてもって行きましょう。毒物の種類によって解毒法が違いますから、種類が分かれば早急に対応できます。 |
■犬は暑さに弱い |
私たち人間が暑いときに汗をかくのは、そうすることによって体を冷やし、体温を調節しているのです。
皆さんは犬が汗をかかないのをご存じだと思います。確かに犬は汗をかきません。なぜなら汗腺がないからです。汗腺がないのは、犬がもともと寒冷地で生息しており、体を暖める必要はあっても、冷やす必要がなかったからだと言われています。
このことを知れば、暑い時期に炎天下や風通しの悪い場所に放置することが、犬にとっていかに酷なことであるかが分かるでしょう。実際、暑い場所や車の中に放置されて、日射病や熱射病で命を落とす犬があとを絶ちません。そのよう場所に犬を放置することは、絶対にやめなければなりません。また、暑い時期には日中の散歩をやめましょう。散歩は早朝や夜の涼しい時間帯にしてください。
日射病にはすぐに体を冷やす |
日射病や熱射病にかかったときには、緊急に処置をしないと脳障害を起こし、死亡することがあります。
飼い主にできる応急処置法を覚えておきましょう。まず、ぐったりしている動物を一刻も早く涼しい場所に移してください。そして、冷たい水を入れた浴槽に頭以外の全身を浸すか、ホースで体に直接水をかけます。この処置を20-30分くらい続けます。その後に動物病院へ運んでください。 |
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■24時間受付の病院を確保しておこう |
愛犬が危険な状態に陥ったとき、飼い主は落ち着いて判断し行動することが非常に重要です。まずかかりつけの動物病院に連絡し、動物の状態を報告してください。獣医師が緊急措置を指示できる場合もありますので、そのときはその指示に従ってください。
休日や夜間の場合、連絡がとれないこともあります。そのときは、電話帳などで調べて、ほかの動物病院に当たってみましょう。電話帳に「24時間救急受付」と記載してあれば、その病院に連絡すると良いでしょう。
愛犬のかかりつけの病院が24時間救急受付を行っていない場合は、緊急事態に備えて救急受付をするほかの病院を調べておくべきでしょう。 |
■往診は期待しないで |
動物が危険な状態にあるとき、飼い主は獣医師の往診を望むかもしれません。
しかし、獣医師が現場に駆けつけても、往診の器具や設備しかないので、往々にして適切な処置ができません。また、獣医師の往診を待ってから病院に連れていくと時間も2倍かかってしまいます。
したがってまず動物病院に連絡し、そこで指示が与えられればそれに従った処置をし、あるいはここで説明した救急処置をし、飼い主が動物を病院へ連れていくほうが良いでしょう。 |
■病院へ運ぶとき |
動物病院へ犬を運ぶとき、犬が咬みつく可能性があれば口輪をしてください。息苦しそうにしているときは、犬を抱くと圧迫することになり、よけいに苦しくなるでしょう。大きなタオルや平たい板などの上にのせ、担架のようにして静かに運んでください。
小型犬はバスケットや段ボール箱に入れて運ぶこともできますが、箱類は必ず換気の良い状態にしてください。動物を抱いて運べる場合も、胸や腹部を圧迫せず、水平の状態で抱きます。 |
■犬の救急箱をつくろう |
緊急の場合に備えて「犬の救急箱」をつくり、救急処置の際に役立つ用品を入れておくことをお勧めします。これらの用品には人間と兼用できるものもありますが、犬用のものはそれとしてまとめておくほうが良いでしょう。救急箱は家族全員がわかる場所に保管しておき、用品を使ってしまった場合はすぐに補充しておきましょう。
救急箱の内容は、ガーゼ(できれば消毒済)・包帯・綿棒・絆創膏・消毒のためのアルコール液やイソジン液(アルコールで消毒した後イソジン液を塗る)・脱脂綿(以上はすべて人間用のもので薬局で入手可能)・止血剤(クイックストップ等。ペットショップ等にあります)・ハサミ等です。 |
■しつけも同じように重要です |
緊急の場合の救急処置を知った上で愛犬を危険な目に遭わせないようにするのが飼い主の責任です。
ここで述べたことを参考に、飼い主は犬の周りにどのような危険が潜んでいるか理解する必要があります。それらの多くは飼い主の心がけ次第で防ぐことができます。
例えば、毒物による中毒については、それらの毒物を犬の生活環境に置かないことによって防ぐことができます。熱射病や日射病は、犬を炎天下に放置したりせず、涼しく風通しの良い環境で生活させるように気を付ければ防げるでしょう。
また、飼い主の指示に従うように犬をしつけることも非常に重要です。交通量の多い場所を歩くときなど、飼い主のマテやスワレの指示に従えれば、交通事故の危険は減少するでしょう。いくら予防接種や健康診断をうけても、強暴な犬でしつけができていないと、いざという時に事故に遭う確率が高くなります。 |