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all words by Dr.NORIHIRO KOMIYAMA

犬の飼い方と病気

犬の胃捻転・拡張症候群(特に大型犬)について
―Canine Gastric Ditation Vuluvs (GDV)―


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大型犬を飼育している方が、なぜこの病気(胃が捻転して拡張する病気)のことを知るべきなのか?
この病気になりやすい犬種は?
胃捻転・拡張症候群を予防するためには、どんなことに注意すべきですか?
この病気の注意事項で食事に関係した内容はありますか?
この病気の死亡率はどのくらいですか?
この病気が他の病気と異なる点は何ですか?
高齢になるとなぜ、起こり易くなるのですか?
この病気の手術についてお聞かせください。
胃捻転・拡張症候群と似た病気、間違いやすい病気はありますか?
胃捻転・拡張症候群の治療は、手術しかありませんか?
「あらかじめ予防の手術を受けておくこと」について、もう少し説明してください。
この病気の治療にあたって、動物病院を選ぶ際の基準はありますか?


■大型犬を飼育している方が、なぜこの病気(胃が捻転して拡張する病気)のことを知るべきなのか?

この病気は食べた直後でなく数時間して起こります。症状が出るのは夜の食事をして数時間後の深夜または早朝が半分以上を占めます。ですから日頃より、夜間に救急・救命処置ができる動物病院を紹介してもらっておくか、予め自身で探しておくことをお勧めします。

大型犬に起こるこの病気について、なぜ知っておいてほしいのかというと、発見が遅くなると、命を助けることができなくなるからです。一刻も早く動物病院に行き、お腹の溜まったガスを抜き、大量に輸液をして、手術を受ける必要があります。この病気の診断は比較的簡単(特に難しい場合もある)ですが、治療するには、実に大変な病気なのです。

その程度にもよりますが、まずは、ガスを抜き、静脈に点滴をし、酸素を投与して安定させて、早い内に捻転した胃を元の位置に戻してから、胃を固定 (また捻転しないように)し手術します。動けなくなって動物病院に連れて行った場合の死亡率は40-50%程にもなりうる恐ろしい病気です。ついさっきまで、元気で食事をしていたのに、なぜ急にこうなったのか皆が自問自答します。知らないと信じがたい病気です。以前に大型犬を飼育して経験のある方のみ、この病気を知っている現状があります。この病気を、あらかじめ知っておくことで、多少なりともその発見を早めたり、発症を抑えることが可能な場合があります。

しかし重症例は、手術前の数時間は常に1-2人のスタッフの付き添いの管理、監視、手術中は3-6人のスタッフが必要となります。さらに問題なのは手術後の1-3日間で、1-3人のスタッフの24時間付き添う治療、看護が必要となり、その総額の費用の負担も多大となります。ある意味ではこの病気は、手術のむずかしさより、手術後の管理の方がむずかしいともいえます。このことも知っておいていただきたいのです。

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■この病気になりやすい犬種は?

まずこの病気になりやすい犬種についてですが、それはガスを吐き出すことが、難しい大型犬で深い胸を持つ犬です。

例えば、グレートデン、ジャーマンシェパード、ドーベルマン、アイリッシュセツター・、セント・バーナード、ワイマラナー、シャーペイ、ラボラドールレトリバー、ゴールデン・レトリーバー、コリー、秋田犬、ロットワイラー、バーニーズ・マウンテン・ドッグ、スタンダードプードル等まれに猫。小型犬(比較的まれ)ダックスフンド、トイプードル、中型犬(比較的まれ)はコッカースパニエル・バセット・ハウンド等です。エキゾチックペットでは、モルモットが起こります。

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■胃捻転・拡張症候群を予防するためには、どんなことに注意すべきですか?

以下の点に気をつけ、できることから始めてください。また動物病院で、あなたの犬の性格に合った予防法もお尋ねください。この病気はどんなに気をつけても起こる時には起こります。しかしこの病気の究極の予防法があります。それはあらかじめ「胃の固定」の手術を受けておくことです。たとえ胃拡張は起こっても、胃が固定してあるので捻転が起こりにくくなります。この病気のことをよく知っている動物病院で、麻酔をする時、例えば不妊手術等の際に受けておくことをお勧めします。

気をつけること、できることからはじめよう!

●一度に大量の食事を食べさせないこと。
●早く食べる(他の犬と競い合って早く食べる)ことを
 やめさせる。
●1日1回の食事を1日2回に、できれば1日3回以上にする。
●6-7歳以上の高齢の大型犬は、特に少量頻回にする。
●不安・ストレス・興奮時には特に起こり易いので、
 食事制限する等注意する。
●兄弟の犬が起こっていたら、より注意が必要である。
 遺伝的素因も疑いあり。
●起こる季節は冬季に多いので、特に冬場に注意する。
●普段より元気で活発ではなく、どことなく大人しく、
 怖がりの犬に起こりやすい。
●動物病院で何らかの手術した後に起こりやすいとの
 情報もあるので、注意する。
●食後にすぐに運動をさせ、多量の水分を取ること?
(現在では不明)
●食前、食後の2時間は、水を飲ませないか、制限する。
(それ以外はいつでも飲ませてください)
●究極の予防法は、起こる前にあらかじめ予防の手術を
 受けておくこと。

食後の数時間(5-6時間以降が多い)で以下のような症状が、あれば、すぐにでも動物病院に連れて行く必要があります。多くは夜中か明け方です。ゆえに発見しにくいのが、この病気の特徴です。

<注意>すぐにでも動物病院へ!

●なんとなく元気がなく、そわそわしている、
 うろうろしている状態。  
●お腹が異常に、何か膨れている、触ると嫌がることもある。
●今日は食欲あり、よく食べ、水もよく飲んだが、
 その後元気なく落ち着かない。    
●吐こうとする動作をするが、吐けない、
 だんだん元気がなくなってきた。    
●よだれがみられ、吐こうとするが吐けない、
 背中を丸め、横になる。    
●どこかが痛そうで、お腹を丸めて休むが、立ち上がる。   
●両方の前足を伸ばして、腰を上げ伏せのポーズをする。   
●最後は、倒れて動かなくなる、急にお腹が膨らんできた。
 →救急救命が必要。

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■この病気の注意事項で食事に関係した内容はありますか?

前記した、少量頻回が一大原則ですが、食事の内容においては、特に起こりやすい食事も起こりにくい食事というのも判明していません。ただ文献では、油性、脂 肪が多い食事は起こりやすいと指摘されています。また、消化のよさそうな食事の方がよさそうに思われますが、それについてもいまだ不明です。ドライフード と缶詰フードのどちらがよいのかも不明ですが、1:1を推奨する人もいるようです。食事の与え方について、以前は食事を高い位置で食べさせるとよいと盛ん にいわれたこともありましたが、これは逆で空気を嚥下するので発症要因となることが、最近判明しています。

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■この病気の死亡率はどのくらいですか?

この病気は死亡率が高いことで有名です。比較的早く発見した場合でも20−30%の死亡率、発見が遅れた場合は40-50%の死亡率となります。

救命処置は病気が起こってから2-3時間以内が理想的ですが、5-6時間以上経過すると難しくなります。しかし時間が短くても、症状が重篤な場合があります。不整脈などの症状が出ずに時間が経過し、胃が捻転して胃の壊死や脾臓の機能麻痺が、深く静かに進行している場合です。

大人しい性格で我慢するタイプの犬は、病気があってもじっと耐え発見が遅れる傾向にあります。よい性格ほど耐えてしまい残念な結果になるなどといったことが起こってしまいます。この病気は大型犬の死亡原因の第2位を占めています。

臨床症状以外の、予後の判定には、血液検査の乳酸値の値が利用されます。この数値が高く6mmol/L以上になるとかなり危険となります。数回の検査で値が下がってきたら良い傾向を示します。

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■この病気が他の病気と異なる点は何ですか?

この病気が他の病気とは違い、特別な点は、緊急疾患(すぐに治療が必要)であることです。また内科疾患と外科疾患の両方の治療に精通していないと、重篤な例では助けるのが難しくなる点です。

程度が軽ければ普通の医療でも対応が可能な場合があるかもしれませんが、重篤な例では、手術前は内科の重篤な病気ですが、その後、外科の重篤な病気となり、手術後は、さらにまた内科の重篤な病気に関する、術後管理の重要な病気となります。ゆえに、この病気は獣医学の総合戦力が必要な疾患といえます。多くの症例が24時間の管理体制の動物病院にて治療されています。ゆえに夜間にこの病気を疑ったら、すぐに設備の整った救急・救命処置ができる動物病院に、入院する必要があります。

高齢になるとなぜ、起こり易くなるのですか?

その理由は、胃の周辺の靭帯が伸びて張りがなくなるので、胃の後ろの部分の、右側にある、幽門がお腹の中心へ移動します。するとどうなるかというと、胃はお腹の真ん中の下の方へ移動します。すると深い胸、深いお腹を持つ犬は、食事が留まって、ガスが発酵しやすくなるのです。ゆえに大型犬を飼育している方は、3歳を過ぎたころから、少しずつ起こりやすくなるので、食事の与え方を変え、たとえこの胃捻転・拡張症候群が起きても、軽い症状で治まるように気をつけてください。そして、出来うれば、かかりつけの動物病院で、起こった時の対処法を、あらかじめ聞いておきましょう。しかし多くの動物病院ではこの病気に関してはあまり経験がないので、関心が低いことも問題のひとつです。多くの症例は5-6歳以上で、半分以上は夜中、明け方に起こりますので発見がむずかしくなります。それだけに予防の手術が重要となります。

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この病気の手術についてお聞かせください。

この胃捻転・拡張症候群の手術は、何と言っても合併症が多くなかなか大変な手術となることが多いのが特徴です。総体的に76%で合併症が起こります。まずは 心臓が原因の不整脈(心電図で確認する)が約50%に起こります。次に胃の捻転による壊死(すでに食事がお腹に漏れ出ている)が20%起こっています。脾の機能が悪くなり摘出が必要な場合が16%、DIC(播種性血管内凝固症候群)が8%で起こるなどいろいろな症状が重なった場合はさらに大変です。それゆえ大量の輸液後に手術をしますが、手術中のモニターが重要で、最低でも3種類、できれば5種類以上(心電図、酸素飽和濃度、血圧、呼気中の炭酸ガス濃度、呼吸、体温、血液ガス等)ゆえに手術に関係する、人数も3-6人は必要になります。術者、手術助士、麻酔係りが、動物の容態の確認から始まり、各種の計器の測定値の確認等を麻酔記録帳にて確認しながら、尚且つ、抗不整脈剤の点滴等行います。さらに手術中にお腹を洗う輸液剤を用意したり、数台の吸引機を用意したりするなどの外回りの仕事する助士も必要となります。鎮痛剤の投与も術前、 術中、術後を通じて重要となります。この手術は普通の動物病院では、なかなか行うのが困難な状況です。

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■胃捻転・拡張症候群と似た病気、間違いやすい病気はありますか?

比較的に若い犬に多いようですが、胃拡張がまず挙げられます。また小腸の捻転(不幸にもこの病気は殆ど死亡)、脾臓の捻転(腹水あり)、横隔膜ヘルニア、その他いろいろな急性腹症が鑑別する病気にリストされます。また重要と思われることは、過去に胃拡張が起こった場合は、その後に胃捻転・拡張症候群が起こる 確率が高い(報告では1年以内に起こる確率は75%)ことから、胃拡張の治療後に胃捻転・拡張症候群の手術である「胃固定」を予防的に行う必要があるといわれています。実際に起こってからでは危険な手術となることが予想されるからです。一方、胃固定なら、比較にならないほど安全に行える手術といえます。

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■胃捻転・拡張症候群の治療は、手術しかありませんか?

はい、すべてが原則、手術が必要となります。大型犬では特にそうです。

例外として、まれに起こる小型犬の例(ダックスフンドやトイプードル)では、概して胃捻転・拡張症候群が軽い程度が多いので、胃拡張のように、鎮静した後 (重篤例は鎮静なしに)に、口から比較的に太いチューブを入れることにより、捻転が一時的にも解消する場合があるようです。しかし、残念ながらほとんどが いずれまた胃捻転を起こし手術が必要となります。ゆえに実際に胃捻転・拡張症候群が起こってからではなく、胃拡張が治まった時に手術を行うことをお勧めします。

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■「あらかじめ予防の手術を受けておくこと」について、もう少し説明してください。

この方法は、 米国の軍用犬に対し最初に行われました。あまりにも効果があったので、民間の犬にも応用されたのです。湾岸戦争の当時、派遣された軍用犬が、過酷なストレス下にうまく対応できなかったためか、胃捻転・拡張症候群を起こしたため、多大の犠牲を強いられました。軍用犬を育てるには多くの苦労と費用が伴うため、予防策が必要ということから、ある陸軍将校の獣医師が思いついたのが「あらかじめ元気な内に、治療の手術(胃固定)をしておく方法」でした。その後、施術した犬にはほとんど 起こらなかった(90-95%以上)ことから、民間の犬にも広まりました。

あらかじめ予防的な手術である胃の固定の手術を受けておくと、たとえ胃拡張は起こっても、通常は捻転までには至りません。特に何か全身麻酔を掛ける場合、 歯石除去、不妊手術等の際に是非同時に受けておくことをお勧めします。しかし、残念ながら完璧とはいかず、固定後も5-10%は起こりうると言われています。

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■この病気の治療にあたって、動物病院を選ぶ際の基準はありますか?

普通の動物病院では、この病気は2-3年に1度あるかないか、または5-6年に一度の症例です。あまり症状のない、胃捻転・拡張症候群疑いの大型犬を、「口から管を入れてガスを抜いておきました、または胃に針を刺してガスを抜いておきました。安静にして様子をみてください」と返された場合に、その後、数時間、数日で、重度となり夜中に緊急病院に担ぎこまれる 例があるのです。

この胃捻転・拡張症候群の病気は、特にどこの病院でも、同じように診断、治療できる病気ではありません。特に働き手が2-3人の動物病院では例え一時処置はできても、手術や入院は、夜間管理等の点や人手の点で難しそうです。

夜間の時間以外でしたら、まずは「大型犬で、食事した後にお腹が張って、苦しそうです」と相談してみてください。「それは胃捻転・拡張症候群の疑いがあります。私たちの動物病院では無理ですので対応できる病院を紹介します」と言われるかもしれません。

またこの病気は往診等で、たとえ一時的に処置をしても、通常は収まるものではありません。24時間の入院、看護が必要な病気です。

とにかく重要なことは、大型犬を飼育している方は、日頃よりかかり付けの病院でこの病気のアドバイスを受けておくことです。しかし現状は、特に日本では大型犬を飼育している方が少ないので例が少なく、動物病院自体があまりこの病気に関心がないというか、経験がないという状況であり、この病気は大型犬に起こる有名な病気ですが、その実態に触れていないというのが現状です。

動物病院の利用で重要なことは、複数(2-3)の動物病院に関わるということです。予防医療中心のかかり付け病院、専門医療を行える病院、夜間の病院、普通でもこの2-3箇所は必要となります。くわしくは一般医療専門医療の違いをご覧ください。

この病気の不幸なことは人々が寝静まった、夜中、明け方によく起こります。 私たちの病院の典型例は、11月から2月の寒い時期の夜中、明け方に、来院されるケースであり、最も多くみられます。夜間に起きた場合は、簡単に症状を述べた後、予約のみして直ちに病院に駆けつけてください。

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※こちらもお読みください→大型犬の特徴と病気


文責:小宮山典寛(三鷹獣医科グループ院長) 2015.1.20