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all words by Dr.NORIHIRO KOMIYAMA

犬の飼い方と病気

中毒について


           ■あなたの愛犬の環境は安全ですか
           ■中毒の症状とは
           ■中毒の起こる状況
           ■飼い主ができる中毒に対する処置法
           ■食べ物による中毒
           ■化学薬品による中毒
           ■殺鼠剤による中毒
           ■除草剤による中毒
           ■重金属による中毒
           ■その他の中毒
■あなたの愛犬の環境は安全ですか
愛犬がいろいろな中毒によって具合が悪くなることは、まずないだろうと思っているかもしれませんが、中毒の発生率はかなり高いと言えます。たとえば、あなたの家の庭とか犬の散歩コース、および周りの環境などを思い出してください。そういう場所でさえも、犬にとって危険が一杯ある場所なのです。特に成長期の動物においては、まだしつけが十分にできていないので、より危険なのです。

これは推定ですが、動物が成長する過程において、まずいろいろなものを口にしてみる。そのとき、食べたものの毒性がある程度強いと、動物はお腹が痛くなります。すると、こういうものを食べたらお腹が痛くなるんだなということを覚え(これを学習と呼びます)、そのような過程をへて仔犬はだんだんと成長していくのです。

運が悪くて、その学習の過程で許容量以上の毒物に冒されると、中毒の症状が出ることになります。したがって、愛犬のいる場所は安全か、周りに食べたり飲んだりすると危険なものはないかどうかを、飼い主が一度考え直してみることが重要です。

中毒は通常、化学薬品とか食べ物とか、その他の物質を食べたり飲んだりすることから起こります。とくに化学薬品などで注意しなければいけないのは、毒性はないと記されていても、蓄積性の問題があるので、長時間にわたって使用すると、毒性を発揮する場合があることです。
■中毒の症状とは
一般的は、突然激しい嘔吐や下痢、ケイレン発作が起こり、虚脱や昏睡の状態になって、動けなくなってしまうことがあります。また、口から泡を吹いたりすることもありますが、これらの症状はすべて中毒に限らず、ほかの病気でも起こることがあるので、注意が必要です。

中毒の診断は最も難しいものです。飼い主が明らかに中毒と思われる根拠をもたらす場合以外は、中毒の診断は非常に難しいと考えてください。ですから、中毒を疑う根拠が何もない場合、通常、獣医師はあらゆる状況を考え、それらの状況に当てはまる病気がないかを調べ、もし無い場合はいろいろな中毒を疑います。

もし飼い主に愛犬の状態は中毒が原因ではないかという心当たりがある場合、最も重要なことは、愛犬を動物病院に連れていくときに、その原因と思われる物質を持参することです。たとえば、殺虫剤や殺鼠剤、あるいはそれに類する化学薬品であれば、それらの成分を見ることにより、解毒剤の決定に非常に役立ちます。

解毒剤が決定され、速やかに対応できるかどうかで、愛犬の生死が左右されることもあるので、冷静に対処することが重要です。
■中毒の起こる状況
庭で除草剤や殺虫剤を使用した場合、あるいは近所でそれらの薬剤を使用した場合、犬を外に出すと中毒を起こす可能性があります。また、アセビ(馬酔木:ツツジ科)の木を犬が食べると中毒を起こします。日本ではあまり起こりそうにない状況ですが、アメリカなどの諸外国では、自動車のラジエーターの冷却液として使用される不凍液を犬が飲んで中毒を起こすことがあります。この不凍液の成分はエチレングリコールで、犬が好む甘い味がします。古い車からラジエーターが漏れたり、自分でラジエーターを取り替えようとする場合(日本では通常ガソリンスタンドで行なう)、ちょっとしたスキに動物がそのラジエーターを飲んでしまうことがあるのです。

家のなかでは、洗剤、石鹸、消毒剤、タバコ、観葉植物(キョウチクトウ、ポインセチアなど)に注意してください。また、人間用、動物用の各種の薬を誤って飲んだり、心臓病などの薬を服用量の数倍も投与してしまったという場合も中毒を起こすことがあります。
■飼い主ができる中毒に対する処置法
医学的処置はすべて病院でないとできないというわけではありません。飼い主が知っていれば、咄嗟の場合に役立つこともたくさんあります。以下にいろいろな対処法を紹介します。

まず、毒性があると思われる物質に皮膚あるいは眼などがふれた場合には、大量の水で洗います。通常はホースで、それらの毒物をどんどん洗い流してください。できれば、ぬるめのお風呂に入れるのもよいでしょう。できれば飼い主も手袋やエプロンをし、毒性物質にふれないように保護しましょう。

そして、もし動物が飲めば、水を多く飲ませるのがよいでしょう。ただし、飲まないケースも多いようです。次に大切なことは、動物をおとなしくさせることです。興奮しない環境下においてあげてください。

動物を新鮮な空気に当てることも大事です。暑すぎず、寒すぎず、過ごしやすい新鮮な空気の多いところに動物を休ませることです。もちろん、間違って食べたと思われる物質を、動物と一緒に病院に持っていくことを忘れてはいけません。

そして、何よりも動物が食べた毒物がそれ以上吸収されるのを防ぐ努力をすることです。それには、嘔吐させることも有効です。食べた後2時間以内なら、嘔吐がかなり有効なケースが多いようです。

嘔吐させるには、健康な犬であれば、犬の大きさに応じて、食塩をスプーン1〜7杯くらいまで、舌の上にのせて飲ませる方法があります。そうすると、お水を飲み、その後で嘔吐することが期待されます。
■食べ物による中毒
元来、人間が食べて中毒を起こすようなものは、犬が食べても中毒を起こすと考えてよいでしょう。しかし、問題なのは人間が食べても中毒を起こさないけれども、犬が食べると中毒を起こすものです。最も有名なものはタマネギ中毒で、これはタマネギ、ネギ、ニンニクなどを一定量以上摂取することによって起こります。また、あらかじめ素因をもっている動物は少量でも中毒を起こします。

実際によくみられるのは、ハンバーガーに入っているタマネギを食べたケースで、すき焼きや天ぷらを食べて中毒を起こすことも多いようです。このタマネギ中毒の場合、煮ても焼いても毒性は変わらず、それらの汁でも中毒を起こすので注意が必要です。タマネギ中毒を医学的に説明すると、タマネギを食べることによって犬が溶血性貧血(赤血球が壊される貧血)を起こし、さまざまな状態が引き起こされるのです。

だいたい犬の体重1キロ当たり15〜20グラムのタマネギで中毒を起こすとされていますが、症状が出ない犬や、これ以下の少量でも症状を出す犬もいます。 また、チョコレートも大量に摂取すると中毒を起こします。いわゆる「チョコレート中毒」です。また、サケ、川魚を焼かないで食べた場合も、中毒を起こすことが知られています。
■化学薬品による中毒
まず、殺虫剤による中毒で、よく見られるのがノミとりまたはノミ除けの首輪によるものです。通常の使用ではノミとり首輪による中毒は起こらないのですが、薬品に多量にふれる状況で使用すると、中毒症状が現れることがあります。 安全に使うには、ノミとり首輪を入れ物から出し、使用する前に24時間放置しておくとよいでしょう。また、愛犬の首の太さに合わせてバンドを切り、けっして二重に巻いたりしないことも大切です。さらに、なるべく雨とか水分にバンドが当たらないようにしてください。

最近のノミとり首輪は水分などにも強く、毒性を発揮しにくいものもありますが、やはり注意する方がよいでしょう。また、ノミとり首輪を動物同士が嘗めあうと危険なこともあります。複数の犬がいる場合は、ノミとり首輪の上に通常の首輪をして固定し、危険を避けるようにします。

できれば、ノミとり首輪に使用されている薬品の主成分を覚えておいてください。その主成分を含む薬品をほかにも使えば、それだけ中毒を起こしやすくなります。ノミとり首輪の薬品の主成分としてよく使われるのは、有機リン系の薬品です。もし、首輪以外に、ノミとり粉や薬浴液も有機リン系のものを使用すれば、毒性が2倍にも3倍にもなると考えてください。

また、ダニ、ハエ、アリ、毛虫などを殺虫するために殺虫剤が使われます。これらの主成分は、トリクロロフォン、ナラチオン、ロンネルなどです。このような殺虫剤を犬がもし口にすれば、中毒を起こすことがあるので、それらの使用にも注意しなければなりません。

これらの中毒が起こると、先述のようないろいろな症状が出ることがあります。ですから、たとえばノミ取り首輪を付けたとか、何か変わった状況があった場合は、特にその後1週間程度は、注意して愛犬の様態を観察しなければなりません。

また最近、殺虫剤としてホウ酸(90%以上の高濃度)が、ゴキブリ、アリ、ハエの駆除に用いられていますが、これを食べることによって中毒が起こることがあります。主な症状としては胃腸系の障害が見られ、緑青色の吐物や下痢が多いようです。しかし、傷のない皮膚からは吸収されないと言われています。

■殺鼠剤による中毒
主にネズミの駆除に使われる薬品です。よく使用される殺鼠剤の主成分はワルファリン、タリウム、メタアルデヒド(ナメクジ駆除剤)などです。そのなかでも、ワルファリンが最もよく使用されているようです。ワルファリンは犬の場合、だいたい5〜50g/kg(体重1kg当たり5〜50g)以上摂取されると中毒が起こります。また、1日に1〜5gのワルファリンが5〜15日間継続的に摂取されると、中毒症状を起こします。

中毒の主な症状はさまざまな部位の出血で、鼻血、吐血、血便、血尿などが見られ、貧血を起こし、衰弱状態になります。そしてほとんどの場合、脳あるいは胸の出血を伴って動物が死んで発見されることが多いようです。

ワルファリンが動物の体内にはいると、血液の凝固機能が妨げられます。通常はネズミが少量ずつ何回も食べると、血液の凝固が抑えられ、眼底出血を起こして死にます。そのため、ネズミは明るいところに出てきて死亡するのが特徴です。

犬が直接この薬物を食べる場合もありますが、以前はこれらの薬物を食べたネズミを食べて中毒を起こすこともありました。治療には、ビタミンKなどの止血剤を中心に投与します。しかし、この中毒症状は急性の経過をたどるので、程度によっては助けることが難しくなります。メタアルデヒドは、カタツムリとかナメクジなどの殺虫剤としてよく用いられています。園芸店にて液体、散剤、顆粒の状態で販売され、植物に直接散布して使用します。

この薬剤によって死んだナメクジやカタツムリが葉の裏によくついていることがあり、それに気がつかずに葉を食べたり、薬剤をかけられたナメクジやカタツムリが死ぬ直前に犬の食べ物に入り込み、それを犬が食べることによって中毒が起こります。

症状としては、ヨダレを流したり、興奮状態になります。1〜2時間すると、運動失調を起こし、立ち上がることができなくなって、意識を失い、呼吸困難に陥ります。そして最終的には、酸素が不足して死亡するケースが多いようです。
■除草剤による中毒
除草剤は農薬の一種で、フェニール系、尿素系、トリアジン系などがあります。除草剤は概して皮膚を通してよく吸収されます。また、足の裏についた農薬を嘗めることによって、中毒を起こすことも少なくないようです。ですから、除草剤が付着した疑いのある場合は、足の中心によく洗うことが大切です。症状としては運動失調、ケイレン発作が起こります。そして腎不全が起こり、3日以上経過すると呼吸器系が障害を受けて呼吸困難となり、肺に水が溜まったり、出血が起こります。ダイコートも同じようにケイレン発作があり、胃腸炎と腎不全の症状が現れ、最終的には水分の喪失と電解質の障害により、死亡することが多いようです。トリアジン系は、多くの穀物やトウモロコシに使われる除草剤です。
■重金属による中毒
問題となる重金属には、鉛、水銀、ヒ素、リンなどがあります。これらのうちヒ素やリンなどは、殺鼠剤、殺虫剤、除草剤にも含まれています。現在ではこれらの製造はだんだん少なくなってきていますが、まだある程度は使われています。

重金属中毒で最も有名なのは鉛中毒でしょう。現在のペンキは大丈夫ですが、古いペンキで塗ったものとか、ハンダ、バッテリー、リノリウムなどは鉛中毒の原因となります。また、我が国では少ないのですが、狩猟用の散弾銃の弾も、動物の体内に入ると鉛中毒を引き起こします。

鉛中毒の症状は消化器系と神経系に現れます。嘔吐、下痢が主なサインで、最終的には神経系、すなわちケイレン発作を起こします。特にこれらの中毒は成長過程の犬、つまり仔犬に多く見られます。よく問題となるのですが、この鉛中毒とジステンパーの症状が似ているので、これらの鑑別が非常に重要となります。通常は、慎重な血液検査とレントゲン検査を行なうことにより、鑑別は可能と言われています。鉛中毒もできるだけ早く治療する必要があります。
■その他の中毒
よく見られるものにヒキガエルによる中毒があります。犬がヒキガエルと遊んでくわえているところを見たら、すぐにカエルを引き離し、犬の口のなかを水で十分に洗うことが重要です。そして、すぐ動物病院へ連れていかないと、ひどい場合は2〜3時間以内で死亡することがあります。

ヒキガエルの毒素は心臓に異常を起こします。ヒキガエルの耳下腺(耳の鼓膜の盛り上がっているところ)からは、強力な毒素が分泌されます。この部分を犬が嘗めたりくわえたりすると、毒素が口の粘膜から吸収されます。これはかなり多い例で、よく動物病院へ連れてこられますが、ひどい場合は死亡します。

蛇による咬傷も場所によっては見られるので、すこし説明しましょう。無毒の蛇と有毒の蛇がいますが、咬まれた痕によって判定が可能です。もし2本の咬み痕があればそれは、有毒の蛇と考えてください。咬まれた後がU字型で多数の歯の形をしていれば、無毒の蛇なので、反応はほとんどないと考えてよいでしょう。有毒の場合は咬まれた場所に激しい疼痛がただちに起こり、動物はさわられると非常に痛がります。そして、出血したり、浮腫が起こって、周辺が急速に盛り上がってきます。嘔吐したり、鼻から出血したりし、最後にはケイレン、昏睡し、死亡することが多いものです。

処置としては毛を刈って、傷を注意深く洗い、包帯を施します。動物が咬まれてから4時間以内に治療されなかった場合には、ほとんど死亡すると言われています。応急処置としては、咬まれた場所の心臓に近い方に止血帯をし、毒が心臓に行かないようにします。止血帯は治療が行なわれるまでそのままにしておきます。そして、動物をおとなしくさせて、まり動き回らないようにさせ、速やかに動物病院に移動して治療してもらうことが重要です。