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all words by Dr.NORIHIRO KOMIYAMA


犬の飼い方と病気

生殖器系の病気について


          ■死亡率の高い病気に注意
          ■子宮蓄膿症
          ■膣炎
          ■偽妊娠
          ■乳腺炎
          ■前立腺肥大
          ■前立腺炎
          ■前立腺膿瘍
          ■亀頭包皮炎
          ■睾丸の腫瘍
          ■陰嚢
■死亡率の高い病気に注意
生殖器の病気と言えば、人間では一般に不妊症などの生殖機能の障害が話題となりますが、普通に犬を飼っている場合は、主として健康に害を与える生殖器自体の病気を指します。もちろん、動物にも不妊症の問題はありますが、生殖器の病気には命に関わるものもありますので、今回はそれらの病気について解説します。

メスの生殖器とは、卵巣、子宮、膣、乳腺を指します。オスでは、精巣、ペニス、前立腺を指します。それぞれの生殖器の構造は図解を参考にしてください。犬は一般的に6カ月周期で発情しますが、個体差がかなりあります。発情の周期が長くても、通常はそれほど気にする必要はありません。しかし、8〜10歳以上になって発情の周期が延びたとか、発情しないとか、異常な出血があるとか、発情がすぐに終わってしまうとか、そのような変化があった場合は、生殖器の病気が疑われますので診察を受けた方がよいでしょう。

■子宮蓄膿症
まず、メスの生殖器の代表的な病気である子宮蓄膿症についてお話しします。これは避妊手術をしていない中年以上のメス犬によく見られます。

簡単に言うと、子宮に膿がたまり、お腹が膨らんでくる病気です。子宮に炎症が起こり、だんだんと大きくなって膿をもつようになります。犬は水をたくさん飲むようになり、尿量も増えます。症状としては、お腹が大きく膨らんできますが、犬種によってはわからないこともあります。また、後ろ脚がフラフラするような症状も出てきます。あるタイプの蓄膿症は膣から膿が少しずつ出てきますので(開放性の子宮蓄膿症)、ある程度診断は簡単です。しかし、膿が出てこないタイプの蓄膿症(閉鎖性)もあり、この場合は診断が遅れて命取りになることもあります。

この病気を予防する有効な手段は、卵巣・子宮摘出術です。メス犬は子供をとらない場合、早めにその手術を受けておくことが重要です。子宮蓄膿症に限らず、犬が高齢になると乳腺部に腫瘍ができることがあります。この乳腺腫瘍の約50%はガンです。この病気も、早めに手術することによってほとんど予防することができます。

避妊手術を受けていない高齢のメス犬が、だんだん元気がなくなり、お水をたくさん飲み、お腹が脹れてきて、脚がフラフラし、ひどくなって嘔吐も見られるという場合、まず子宮蓄膿症が疑われますが、これらの症状は他の病気でもよく見られるので、その鑑別が必要です。

子宮蓄膿症は非常に後期に診断されるとかなり命に影響しますので、できるだけ早く診断することが必要となります。通常、獣医師は身体検査をはじめ、血液検査、エックス線検査などで診断しますが、設備のある病院では超音波検査などによって、子宮が膨らんでいることを早期に診断できます。

治療は原則として外科手術によります。手術に耐えられないほど状態が悪化している動物に対しても、現代の医療においては手術をしないで助かるという公式の記録はありません。ですから、特に重症のケースでは麻酔技術などに精通した獣医師のいる、設備のある病院で手術を行なわないと、かなり死亡率が高くなるでしょう。

最近では開放性(膣から膿の出るタイプ)の子宮蓄膿症であれば、外科手術をしなくても、ホルモン剤などを使ってある程度治すこともできます。しかし、閉鎖性の子宮蓄膿症、すなわ膿が出ないタイプでは、ホルモン剤などを投与してもほとんど成功しないと言われています。
■膣炎
膣炎もメス犬の代表的な病気の1つです。前述の子宮蓄膿量と同様、不妊症の原因としてよく見られる病気です。膣炎は局所的な病気なので、子宮蓄膿症のように放置しておくと全身的な影響が現れるというものではありません。しかし、それでも経過によっては細菌感染が進行し、命取りになる場合があります。

一般的な症状としては、おりものが多くなることです。その他にも、陰部をよく嘗めるとか、何回もトイレに行くとか、座るときに不快そうにするなどの症状が出てきます。しかし、軽い膣炎の場合は、無症状のことも多いようです。

通常、獣医師は膣からのおりものを採取し、顕微鏡でその成分を調べます。そして、細菌感染があれば抗生物質などで治療します。この時、他の原因が認められれば、別の治療が必要になります。性成熟前の犬の膣炎は、治療しなくても治ることがしばしばあります。

局所療法としては、洗浄(イソジン溶液などを使用)とか座薬などを投与する場合もあります。感染性膣炎の治療後の最初の発情期には、交配しない方がよいでしょう。

犬の不妊症の原因は、若い犬の場合、子宮内の細菌感染などいろいろですが、高齢犬の不妊症は、甲状腺機能低下症が一番の原因となります。一部の犬ではヘルペスウイルスの感染による膣炎が見られますが、これにはまだよい治療法がありません。しかし、最近では抗ヘルペス剤による治療法も期待されています。特に感染性の場合は、本当に治ったのか治らないのかの見極めが重要です。一見治ったように見えてもなかなか治らず、一般には再発が起こりやすい病気として知られています。
■偽妊娠
この病気は、小型犬で、人間と同化し、比較的神経質な動物に特に多いようです。読んで字のごとく「偽りの妊娠」で「仮性妊娠」とも言われています。最近では「想像妊娠」と言われることもあります。

外見的には、本当に胎児がいるようにお腹がどんどん大きくなり、乳腺なども発達し、お乳も出てきます。もちろん交配歴はありません。そして、実際に生まれそうになるのですが、急にお腹の膨らみがとれ、正常になります。

このような病気があることをまったく知らないと、何が起こったかわからずに、飼い主が驚くことがあります。問題なのは、お腹がへこんだ後に、乳腺の処置などで飼い主が悩むことですが、乳腺の炎症は薬以外でもある程度治すことができます。

また、乳腺炎がひどくなり、感染症を起こして、発熱したり、しこりや痛みが生じることもあります。時間がたつと乳汁が黄色く変色し、細菌感染が起こる場合もあります。このような場合には、積極的な治療が必要となります。

想像妊娠を防ぐ有効な手だては、子供をとらないのなら、やはり卵巣・子宮摘出術を受けることです。特にこの病気は1度起こったら何度か起こる可能性があるので、卵巣・子宮摘出術をお勧めします。

あまりひどい場合は、妊娠を抑えるホルモンを使用することもできます。しかし、ホルモン剤などを使わずに、その病気が治まるのを待ち、乳腺の炎症が起こらないように処置して様子を見ることもあります。


また、乳腺に関する問題では、乳汁が出る場合、絞った方がよいのか絞らない方がよいのかということが話題になります。これはなかなか難しい問題ですが、簡単に言えば、軽く絞るだけで簡単に出る場合(つまり乳汁がたまっていれば)は絞って出した方がよいでしょう。通常は無理に絞って出す必要はありません。無理に絞って出すと、刺激することによって、乳汁がどんどん生産されることになると思われているからです。

また、もう一つ、乳腺に異常が認められるとき、冷やした方がよいのか温めた方がよいのかということもよく話題となります。これも本来は難しい問題ですが、簡単に言えば、熱感がある場合はある程度冷やした方がよいでしょう。また、乳汁が出にくくなっているときは、温めて少し刺激し、乳汁が出やすくなる処置をすることもできます。
■乳腺炎
この病気には、乳腺にしこりができたり、熱を帯びたり、腫れたりする症状があります。先ほど説明したように、想像妊娠の後に起こることもあります。急性の乳腺炎は、乳腺だけでなく全身が熱をもちます。そして、痛みやしこりが生じ、ひどい場合には食欲がなくなったり、いらいらした症状を示します。

乳腺炎の主な原因は、仔犬の授乳期に乳汁が過剰に分泌されたりし、乳汁が乳腺に長く留まったりすることです。乳汁の過剰分泌は、仔犬が出産直後に死んでしまったり、出産した仔犬の数が少なかった場合などに起こることがあります。

乳腺の炎症に細菌感染が重なると、症状がさらに悪化することがあります。その場合は抗生物質を使用しなければならないケースもありますが、通常は消炎酵素剤などで治療し、ある場合には、少量のホルモン剤を投与することもあります。

軽い乳腺炎の場合には、授乳中の仔犬がいれば、授乳を中止し、乳腺に熱感があるときは少し冷やし、乳汁が分泌しない場合は少し温めるという処置をします。要するに、乳汁が乳腺に滞らないようにすることが大切です。
■前立腺肥大
オスの生殖器の病気で最も多く、また命取りになる可能性が高いのは、前立腺肥大という病気です。これは去勢をしていない高齢犬(通常8〜10歳以上)によく起こる病気です。去勢していない老犬の前立腺は肥大するものです。前立腺が肥大すると、尿道が狭くなりオシッコが出にくくなります。そこで、犬は何回もトイレに行きますが、オシッコは少しずつしか出ません。

特に毎日のように散歩している犬が、冬などに雨や雪の日が続き、散歩の機会が少なくなった場合、オシッコが出にくくなって、この病気が起こりやすくなります。

この病気は放置しておくとかなり致命的となります。すなわち、オシッコが出ないため膀胱炎が起こり、膀胱炎から腎臓炎が起こり、腎臓炎が進行して尿毒症を起こすと、嘔吐や下痢の症状が表れます。このような場合、かなり緊急に処置をしないと、致死率が非常に高くなります。

オシッコが出なくなるのは、大変なことです。人間も含めて、動物のオシッコが1滴も出なくなれば、2〜3日もすれば確実に死亡することになります。これ予防する手だては、やはり去勢です。去勢すれば前立腺肥大は防げます。ですから、前立腺肥大の治療は去勢することから始めます。

しかし、去勢してもすぐに前立腺が小さくなることはないので、その間にもいろいろほかの処置をしなければなりません。通常、獣医師は尿道に細い管、すなわちカテーテルを入れて、オシッコを出すようにします。特に去勢をしていない大型犬の場合は、愛犬が10歳以上になったら、オシッコが出なくなり、前立腺肥大にならないかどうか、いつも気を付けていなければなりません。

健康診断のときなどに「前立腺がかなり大きいです」と言われたら(通常は直腸検査を行なえば分かります)、元気なうちに去勢をしておくとよいでしょう。また前立腺が肥大するのは、いまお話しした前立腺肥大という病気のほかに、前立腺のガンや膿瘍が原因になることもあります。この原因の鑑別も重要です。通常の肥大であれば、去勢をすると治るのですが、その他の場合は去勢してもあまり反応しません。
■前立腺炎
これもよく老犬には見られ、前立腺に細菌が感染して炎症を起こす病気です。症状は初期から中期の前立腺肥大とよく似ています。前立腺に感染が起こって膀胱に広がり、膀胱炎の症状が出ることもあります。

この病気にかかると、尿をするときに痛みが伴ったり、尿の色が濁ったり血が混じったりすることがあります。ひどい場合には、発熱、嘔吐、食欲減退などの症状も見られます。診断は前立腺の細菌感染を発見することから始めます。しかし、慢性で前立腺があまり肥大していない場合、診断が難しくなることもあります。

主として抗生物質で治療しますが、慢性の場合は感染がかなりひどく、一時的に治っても、しばらくすると再発することがよくあるようです。
■前立腺膿瘍
前立腺に膿瘍ができること、すなわち前立腺の部分が細菌感染して化膿する病気です。主要な症状は、尿に膿が出て、尿の色が濁ることです。ほとんどは膀胱炎の症状と同じで、尿の回数が多くなり、尿が出にくくな留こともあります。ある場合は、発熱し、食欲も元気もなくなり、お腹に痛みも出てきます。

この病気は診断も治療もなかなか難しく、死亡率はかなり高くなります。治った場合でも、前立腺が細菌感染を起こし、再発を繰り返すことになります。初期に発見することが比較的難しいので、かなり積極的に診断と治療を行なわないと、ほとんどの症例は助かりません。
■亀頭包皮炎
これはおそらく生殖器の病気では最も多いものでしょう。しかし、通常あまり命取りになるという病気ではありません。そのため、軽視される傾向がありますが、犬には不快なはずでなの、きちんと治療することが必要でしょう。

この病気にかかると、犬は自分のペニスの先をペロペロなめるのが普通です。ペニスを包む包皮をめくってみると、先端に黄色い膿が付着しています。細菌感染を起こしているからです。あまり病原性のない細菌もあり、通常は痛みを伴いません。

治療としては、包皮を洗浄したり、抗生物質を投与して、感染を抑える方法があります。オス犬を飼っている方は、ときどき包皮をめくって、ペニスの先に黄色い分泌物がつているかどうか、膿があるかどうかを調べ、それらのものが認められれば、動物病 院で治療してもらうことが必要でしょう。

この病気は、ペニスの先に比較的長い毛があり、その毛がオシッコするときに地面につく場合など、少し不潔な環境下にいる動物に発症しやすいようです。局所的な病気ですから、全身に広がることはあまりないのですが、やはり膿をもっていれば害があるので、病気が見つかったときは積極的に治療しましょう。
■睾丸の腫瘍
これは精巣の腫瘍のことで、犬では人間よりも多く見られます。犬の睾丸の腫瘍は比較的よく知られており、主に3つの種類のものが有名です。すなわち、セルトリー性細胞腫、間質細胞腫、精巣上皮腫と言われるものです。いずれも左右両方の精巣にできることがあります。

この病気が悪化すると、オスでも乳腺が発達することがあります。この病気を防ぐにも、去勢をすることが最も有効な方法です。

また、睾丸が正しい位置になくお腹のなかにある(すなわち陰睾丸)と、この睾丸の腫瘍が起こりやすいと信じられていますが、最近では陰睾丸を原因とする腫瘍はそれほど発症していないとの報告が多いようです。

いずれにしても、動物が自分の睾丸をよく嘗めている場合は、左右の睾丸の大きさや形を調べたり、触ってみて痛みや熱感がないかどうかを確かめ、異常があれば、去勢をすることがよい方法です。そして、睾丸の組織病理検査に出し、どんな腫瘍か調べてもらうことがよいでしょう。この病気も、去勢していない比較的高齢のオスに多く見られます。
■陰嚢
これには2種類あります。多くは片睾丸、すなわち片方の睾丸がお腹のなかに残り、片方だけが下りているものです。これに対し、両方の睾丸がお腹のなかに残り、下りてこないものもあります。この場合、原則として去勢手術をすることが必要です。

両方の睾丸が下りてこない陰嚢の場合、動物の性格が悪くなり、咬癖などが目立つことがあります。

陰嚢は将来腫瘍化する可能性があるという理由で、以前はよく去勢が勧められましたが、現代医学では腫瘍化するケースはそれほど多くないと考えられています。最近ではむしろ、犬の性格上の問題や咬む犬の矯正のために、去勢が勧められるようです。

もちろん、そうすることが腫瘍の発生を防ぐことにもなります。片睾丸の場合も、できれば両方の睾丸を摘出する方がよいでしょう。通常、陰嚢は遺伝的な素因による病気なので、その面からも去勢が大事です。