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all words by Dr.NORIHIRO KOMIYAMA

犬の飼い方と病気

主に短頭種に多い病気

          ■呼吸器系の病気にかかりやすい
          ■ブルドッグの鼻はなぜぺちゃんこか
          ■鼻の穴が狭い鼻腔狭窄
          ■軟口蓋伸長症は高齢犬に多い
          ■重症ケースは切除手術で治す
          ■気管虚脱は乾いた咳が出る
          ■気管の未形成は生まれつきの病気
          ■呼吸困難も起こす咽頭の反転
          ■比較的多い消化器系の病気
          ■緊急処置が必要な咽頭麻痺
          ■開発されてきた呼吸器病の治療法
■呼吸器系の病気にかかりやすい
短頭種とは、文字通り、比較的頭の短い犬のことをいいます。代表的な犬種には、ブルドッグ、ボストン・テリア、パグ、シー・ズー、チン、ボクサー、キャバリアなどがあります。これらの犬は、その頭の特徴から特に呼吸器の病気が多発しますので、注意が必要です。専門的には、短頭種に多発する呼吸器系の病気を総称して、「短頭種症候群」と呼んでいます。

短頭種がかかりやすい病気は、喉から上の呼吸器、すなわち気道の病気で、上部気道症候群ともいわれます。短頭種の犬が、夏の暑い日に炎天下にいると、呼吸がハーハーと速くなり、口から泡を吐きながら、失神してしまうことがあります。このような状態が、上部気道の病気の典型的な症状です。

■ブルドッグの鼻はなぜぺちゃんこか
短頭種の犬は、鼻がぺちゃんこで、呼吸がしずらそうです。ブルドッグは代表的な短頭種の犬ですが、ぺちゃんこの鼻には理由があります。この犬種は、古くから英国で飼われていましたが、もともとはブルファイターと呼ばれ、牛と闘う犬として作出されました。数頭のブルドッグが牛の顔やお尻に咬み付いて、牛と闘ったのです。体の前のほうに重心がある体型も、その目的に適しています。ブルドッグに咬み付かれた牛は、振り払おうとしますが、優秀なブルドッグほど咬み付いたまま離れず、牛が弱るのをじっと待ちます。

その際、咬み付いたままずっと我慢しているわけですから、当然、咬んでいるところと顔の間に隙間がないと息が苦しくなり、口を開けてしまうことになります。そうすると、咬み付くことができず、牛から離れてしまいます。この場合、鼻の位置が後退していれば、牛に咬み付いていても、隙間ができるので楽に呼吸ができます。この目的のためにつくられた犬が、ブルドッグです。
■鼻の穴が狭い鼻腔狭窄
短頭種の犬は、ブルドッグのようにだいたい鼻がぺちゃんこです。解剖学的に見れば、このような犬の鼻は穴が狭くなっています。鼻の穴が狭いことを、専門的には鼻腔狭窄といいます。

短頭種の犬をよく見ると、鼻だけでは呼吸が苦しそうで、口を開けてハーハーと空気を取り入れているのがわかります。鼻の穴が狭いということは、私たち獣医師が治療する際、たいへん重要な問題です。以前は獣医師の間で、短頭種の犬に麻酔をかけると、死亡することがあるという話が交わされていました。麻酔をかけることはそれなりにうまくできても、麻酔から覚めるときに鼻で呼吸ができず、合併症を起こしてしまったからです。

医学が進歩した現在では、全身麻酔をかけたとき、気管チューブ(気管の中に入れるチューブ)を使って気道を確保しますので、ほとんど問題はありません。しかし、鼻腔狭窄の程度がひどい場合、麻酔が覚めたと思って気管チューブを外したあとに、呼吸ができなくなり、再び麻酔をかけて気管チューブを入れなければならないケースもまれにあります。

鼻腔狭窄がひどい場合、手術が必要になります。鼻から空気を吸い込もうとしても、穴が狭すぎてうまく呼吸できない状態の場合、私たちは手術をお勧めしています。しかし、手術をすると、鼻の形が少し変わってしまいます。ぺちゃんこの鼻がかわいいのに、手術によって人相(犬相?)が変わってしまうことがありますから、その点を忘れないようにしましょう。
■軟口蓋伸長症は高齢犬に多い
以前は情報量が少なく、あまり気にとめられなかった病気ですが、最近は多く見つかっています。これは、短頭種に限らず、超小型犬でもある程度の高齢(8〜10歳以上)になると、起こることがあります。口の奥の軟口蓋と呼ばれる部分が伸びてくる病気です。短頭種の犬は呼吸の回数が多いため、軟口蓋が空気の刺激をよけいに受けて、ヒダが伸びてくるわけです。

次のたとえを聞くと、わかりやすいかもしれません。古い家の庭石のある部分に、雨が降るといつも滴が当たるとします。たとえ雨の滴のようなわずかな力でも、いつも同じ部分に当たっていると、長い間には固い石でさえへこんでしまいます。これと原理は同じで、空気による弱い刺激でも、ある程度長い期間、同じ場所に受けていると、ヒダが伸びてしまうのです。

ヒダが伸びている犬は、イビキをかきます。長いヒダが空気の通路をふさぐため、イビキになるのです。短頭種の犬は、軟口蓋のヒダがもともと長くなっています。ですから、ほとんどの短頭種の犬は、一定の年齢になるとイビキをかきます。一般には、短頭種はある程度イビキをかいても正常ですが、短頭種以外の犬がイビキをかくと異常だといえます。

しかし、イビキをかくといってもその程度の問題です。短頭種を飼っている人は、それぞれの年齢で、犬がどれくらいの強さのイビキをかくかを覚えておくとよいでしょう。年齢が進むにつれて、イビキが強くなれば、ヒダが伸びている証拠です。
■重症ケースは切除手術で治す
軟口蓋のヒダが長くなり、呼吸が苦しくなったときは、切除手術が必要です。特殊な手術ですが、最近ではこの手術のできる病院が多くなってきていると思います。この手術の場合も、麻酔には注意が必要です。麻酔がかかって意識が失われているとき、ヒダによって気管がふさがれてしまい、息ができなくなってしまうこともあるからです。

前述のように、短頭種の犬に麻酔をかけたときには、必ず気管チューブが必要となります。現在わが国では、ほとんどの病院で麻酔のとき気管チューブを入れていると思われますが、一部ではまだ使用していない病院があるようです。
■気管虚脱は乾いた咳が出る
遺伝性のなかなかやっかな病気で、動物が咳をする原因のひとつにあげられています。これは短頭種のみならず、小型犬で比較的多い病気です。

気管の一部が細くなっているのものですが、気管の狭窄とは違います。気管虚脱では、気管の一部の軟骨が変形していて、気管の上下が簡単にいえばくっついてしまう、つまり扁平化されています。

この病気があると咳をします。その咳は乾いた(乾性の)咳といわれます。ちょうど喉の奥に骨か何かが刺さっていて、その異物を体の奥から吐き出そうとするように、ゴホッゴホッと苦しそうな咳をします。しかし、そのような咳をするからといって、必ずしも気管虚脱とは限りません。鑑別はなかなかやっかいですが、通常、レントゲン検査で推定します。

気管虚脱がある場合、常に感染が起きやすくなっていますので、一般的には抗生物質や気管支拡張剤で治療しますが、あまり治療効果はありません。最近では、症状の程度によって、手術で治すことも多くなってきました。一般に、喉の部分を手で押してみると、咳が出やすくなります。散歩中にリードが張って首輪が引っ張られると、どの犬でもある程度は咳をします。このとき咳の程度がひどければ、気管虚脱が疑われますから、動物病院で診察してもらってください。
■気管の未形成は生まれつきの病気
生まれつき気管が発達せず、気管が全体的に細くなっている病気です。先天的な奇形で、気管が細いために、空気の出入りがうまくできません。短頭種だけではなく、小型犬のポメラニアン、ヨーキー、マルチーズなどにもときどき見られます。有効な治療法はなく、薬で二次的な感染を抑えることくらいしかできず、不幸な病気といえるでしょう。
■呼吸困難も起こす咽頭の反転
短頭種は頭の形が短くなっているため、気道も圧迫され、いわば周辺の組織が余っている状態です。その余った部分が気道の抵抗となり、余分な圧力によって引っ張られため、咽頭の一部の反転が起こります。こうなると呼吸困難が起こり、息がゼイゼイしてきます。この病気の場合、反転した部分を外科的に切除する治療法があります。この手術により、呼吸は少し楽になります。
■比較的多い消化器系の病気
呼吸器系の病気以外に、消化器系の病気も見られます。特に、胃の後ろ側の幽門の病気が多いといわれています。以前から短頭種の犬はよく吐くことがあるといわれますが、その原因としてこの幽門の病気が推定されます。簡単にいうと、胃の後ろ側の幽門部が肥大したり、狭窄したりして、機能がマヒしてくる病気です。機能のマヒした幽門部に食物が入ると、長くそこにとどまることになり、それを吐き出そうとして嘔吐が起こります。

最近では、薬物療法も発達してきましたが、根本的には、幽門の部分の一部を切って広げる手術をして解決します。しかし、すべてのケースが治るとは限りません。
■緊急処置が必要な咽頭麻痺
これは短頭種にも起こりますが、ゴールデンやラブラドールなどの大型犬によく見られる病気です。何らかの処置をしないとすぐに死亡してしまいますので、ここで取り上げておきます。

以前から、大型犬が突然、呼吸困難に陥り、死亡してしまうことがありましたが、そのような場合はこの病気が疑われます。特に息を吸うときに悪くなり、少しでも運動をするとすぐに苦しくなります。何らかの興奮状態が引き金になるようです。症状だけからは、すぐこの病気と確定診断することはできません。
■開発されてきた呼吸器病の治療法
治療法はあるのですが、かなり専門的な手術が必要です。主として「タイバック」といわれ、喉の部分を少し広げる手術が行われます。しかし、この手術はかなり難しく、よほど専門的な獣医師でないと行えないでしょう。また、手術をしても、すべての症例においてよくなるとは限りません。

最近では、タイバック法が難しいので、他の方法も考えられています。たとえば、声帯と扁桃腺をとってしまう手術です。もちろん声帯をとってしまえば、犬は鳴けなくなりますが、何らかの理由でタイバック法の手術ができない場合、病気の程度によっては、代用の手術で間に合うこともあります。

要するに、咽頭の部分を空気が出入りする際に、声帯と扁桃腺がかなり邪魔をする場合があるので、その障害物をとってしまい、空気の出入りをよくする方法です。この手術では、ほとんど同時に扁桃腺もとってしまいます。そうすると、空気の通路は2〜3割は広くなり、タイバックを行わなくても、呼吸がしやすくなって、症状は改善されます。

最近では、動物の微妙な呼吸器の病気の治療法も、いろいろ開発されてきましたので、以前より動物を救えるケースが多くなっています。