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all words by Dr.NORIHIRO KOMIYAMA

犬の飼い方と病気

内分泌疾患(特に糖尿病)について

          ■糖尿病はホルモンが原因で起こる
          ■犬の糖尿病はインスリンの補給が必要
          ■症状の度合いによる糖尿病の種類
          ■糖尿病は他の病気を併発する
          ■糖尿病になると血糖値が高くなる
          ■インスリン注射後の変化を見逃さないで
          その他の内分泌病
          ■副腎皮質機能亢進症は中年以上に多い
          ■食欲が急に増したら要注意
          ■メスに多い副腎皮質機能低下症(アジソン病)
          ■最も多いのは甲状腺機能低下症
          ■低血糖は原因の鑑別が重要
■糖尿病はホルモンが原因で起こる
犬の病気として、糖尿病や甲状腺機能低下症などの名前は比較的よく知られていると思います。これらは内分泌の病気といわれます。

内分泌の病気というと難しく聞こえますが、要するにホルモンの働きが悪くなって起こる病気です。動物のさまざまな作用の大部分は、ホルモンや神経の働きによって調節されています。ホルモンとは、体内のいくつかの部分でつくられて、血液やリンパ液によって体内の他の場所に運ばれ、そこにある組織の活動に一定の変化を与える物質のことです。ホルモンをつくる部分は、内分泌腺と呼ばれます。

代表的な犬の内分泌病としては、すい臓の病気(糖尿病など)、副腎の病気(副腎の機能が低下する病気)、甲状腺の病気(脱毛を伴う皮膚病である甲状腺機能低下症など)、上皮小体 (副甲状腺)の病気、下垂体の病気、生殖に関する病気などがります。

一般的な症状としては、多飲・多尿(たくさん水を飲み、オシッコをする)、脱毛、お腹が膨れてくる、肥満する、または急激な衰弱、失神などがあります。
■犬の糖尿病はインスリンの補給が必要
まず、糖尿病から説明しましょう。糖尿病は人間にもよく起こる病気ですから、病名は誰でも聞いたことがあると思います。糖尿病は膵臓から分泌されるインスリンというホルモンが不足することによって引き起こされる病気です。この病気には、2つのタイプがあります。

ひとつは「インスリン依存性糖尿病」といわれ、外からインスリンを注射によって補給する必要のあるタイプです。もうひとつは「インスリン非依存性糖尿病」で、インスリンの補給を必要としないタイプです。

人間の場合、糖尿病は中年以降に発症することが多く、一般的にこれらの糖尿病はインスリン非依存性がほとんどです。しかし、犬の糖尿病はほとんどがインスリン依存性、すなわちインスリンの補給を必要とする糖尿病です。もし、愛犬がプードル、ダックスフンド、、ビーグル、ミニチュア・シュナウザー、テリアなどの犬種で、比較的高齢であれば(だいたい8歳以上)、糖尿病にかかりやすい体質をもっていると考えてください。犬の糖尿病の発生率はだいたい200頭に1頭の割合です。

一般的には小型犬に多く発症しますが、大型犬でもまれに起こることがあります。また、メスのほうがオスより約2倍も多く発症します。症状としては多飲・多尿・多食が特徴的です。また、腹部が膨張する、肥満している犬が急激に体重減少を引き起こす場合も、糖尿病が疑われます。
■症状の度合いによる糖尿病の種類
犬の糖尿病は、症状の度合いにより、大きく3つの種類に分けられます。

1つめは、合併症のない糖尿病で、普段は比較的に元気ですが、病理学的に明らかに糖尿病が認められるものです。

2つめは合併症のある糖尿病で、「ケトアシドージス性糖尿病」といいます。これは普通の糖尿病の徴候のほかに、下痢や嘔吐の症状を伴うものです。

3つめはまれですが、昏睡のある糖尿病で、犬はほとんど眠った状態になります。これが最も症状の重い糖尿病です。
■糖尿病は他の病気を併発する
人間の場合と同じように、犬の糖尿病も初めのうちはなかなか気がつかないことが 多いものです。何らかの症状があっても、糖尿病の症状として特定できないことがあるからです。

たとえば、糖尿病にかかるとお腹が膨れてくることがありますが、メスの場合は、妊娠と間違えることも考えられます。また、多飲、すなわち水をたくさん飲むようになりますが、これについても、高齢になったからだろうと思ってすませるかもしれません。したがって、糖尿病をある程度早く見つけるには、普段から定期的に健康診断を受けることが重要となります。
■糖尿病になると血糖値が高くなる
糖尿病にかかると血糖値が高くなります。正常な犬の血糖値は50〜100mg/dl(血 液1デシリットル中、糖分の重量が50〜100ミリグラム)ですが、糖尿病の犬では150〜200mg/dl以上となります。したがって、糖尿病が疑われる場合、まず血糖値の測定を行います。また、尿にもよく糖が含まれますので、尿検査も重要です。

特に合併症のあるケトアシドージス性の糖尿病では、尿に「ケトン体」と呼ばれる化学物質が認められます。このケトン体が蓄積されると、症状が悪化します。ケトアシドージスは比較的急性の糖尿病ですので、直ちにインスリンを注射しなければなりません。このように、犬の糖尿病の場合、診断は比較的に簡単なのですが、治療が難 しいのです。

糖尿病の犬は、人間のように食事療法だけではほとんどコントロールできませんので、インスリンの注射が必要となります。通常この注射は飼い主が毎日行ないます。もちろん、食事も重要です。糖尿病の犬の食事で特に大事なことは、いつも一定のカロリーの食事を与えることです。そして、炭水化物(糖分)を控えめにし、線維を多くして(やせた犬以外)、良質のタンパク質に富んだ食事にします。毎日の運動量も、できるだけ規則的に行うように心がけます。食事のカロリーと運動量の兼ね合いで、適切なインスリンの量が決定されるからです。
■インスリン注射後の変化を見逃さないで
糖尿病を治療中の犬はもちろんのこと、愛犬が疑われる場合、すぐに動物病院へ連絡することが大切です。愛犬のためにインスリンを毎日注射している飼い主の方は、うまく打つことができるでしょうか。注射の打ち方によっては、低血糖の症状が現れたり、震えが起こったり、元気がなくなることがあります。最悪の場合は、ケイレン発作を起こすこともあります。

特にインスリン注射を打って、3〜6時間後に元気がなくなるときは、インスリンの量が多いために低血糖を起こしていることが疑われます。そのような場合は、ブドウ糖、砂糖、蜂蜜などを与えてから、病院に直行してください。心配な人は、ときどき(できれば毎日)尿の検査を自分でするとよいでしょう。病院で尿の検査用紙を分けてもらってもよいし、薬局でも入手できます。以前は、尿検査の結果を見て、インスリンの量を調節したこともありましたが、その後あまり信頼性がないことがわかりました。したがって、現在では、低血糖の検査の指標としてのみ、利用される傾向にあります。

とにかく、わからないことは必ず病院で相談することが重要です。糖尿病は完治する病気ではありませんので、飼い主の方が特に気をつけて、いかにコントロールするかがとても大切となります。
その他の内分泌病
■副腎皮質機能亢進症は中年以上に多い
副腎は腎臓のすぐそばにある器官で、皮質と髄質に分けられます。動物の場合は、髄質の病気は少なく、ほとんどが皮質の病気です。

そのなかでも最も起こりやすいのは、副腎皮質機能亢進症(クッシング病)といれる病気です。副腎皮質機能低下症(アジソン病)という病気もありますが、これは比較的まれな病気です。副腎皮質機能亢進症も、中年すなわち8歳以上の犬が冒されやすい病気です。特に起こりやすい犬種はプードル、ダックスフンド、ヨークシャー・テリア、ポメラニアンなどです。
■食欲が急に増したら要注意
副腎皮質機能亢進症の特徴的な症状は、多食・多尿が特徴的です。いつでも水をほしがり、たくさん飲みます。食事もいくら食べてもほしがります。食欲が旺盛なのは健康の証拠と思いたくなるかもしれませんが、それまでは比較的に少食だった犬が急にたくさん食べるようになったら、やはり要注意です。

また、お腹が出てくるのも特徴です。しかし、背中の方はやせていて、筋肉が落ちています。皮膚も弾力性が失われます。糖尿病と症状が似ていることに気がつくと思いますが、実際この病気の10%は糖尿病と合併して起こります。ですから、鑑別が必要となります。内分泌の病気は、どれも症状が似ていることが多いのです。

典型的な症状としは、かゆみを伴わない左右対称性の脱毛が見られます。これらの症状があると、通常、副腎皮質機能亢進症を疑いますが、詳しい検査はホルモン検査、血液生化学検査、尿検査などによって行ないます。

治療は通常、化学療法によって行ないます。すなわち、副腎の皮質を一時的に破壊する抗腫瘍剤を生涯与えることによって、この病気はかなりコントロールできることもあります。また、原因が副腎の腫瘍の場合は、手術で摘出できる場合もあります。また、この病気は、副腎皮質ホルモン、すなわちステロイド剤の過剰投与によって起こることもあります。
■メスに多い副腎皮質機能低下症(アジソン病)
この病気はまれにしか見られませんが、4〜5歳という比較的に若い年齢から発症します。犬種ではプードルに発症しやすく、遺伝的な要因があると考えられています。ほかにコリーも発症しやすいといわれています。この病気にかかる犬の約70%はメスです。

食欲減退、元気喪失、周期的な嘔吐や下痢、落ち着きがなく震えや失神が認められるなどの症状がありますが、これらはほかのいろいろな病気でも認められる症状です。つまり、この病気の特徴的な症状はあまりないといえ、診断が難しい場合あります。しかし、最近の獣医学の発達により、この病気も徐々に発見できるようになってきました。診断はホルモン検査が中心となります。治療法としては、副腎の働きを強くする薬などを生涯にわたって投与する方法があります。

■最も多いのは甲状腺機能低下症
甲状腺は、気管にくっついて位置している器官です。甲状腺機能低下症は、内分泌の病気で最も多いものです。この病気にも、特徴的な症状もあまりありません。どことなく元気がなく、落ち着きもなくなり、毛の艶が失われ、左右対称性の脱毛を起こすという症状が認められますが、高齢の犬はだいたいこのような変化を示します。そのため、症状があっても、高齢のせいとしてすまされ、見逃されることが多い病気です。

しかし、最近では甲状腺ホルモンを測定することによって、かなりこの病気も発見できるようになってきました。この病気も犬が8歳以上になるとかかりやすくなります。また大型犬に多いのが特徴ですが、中型犬、小型犬でもときどき見られます。かかりやすい犬種としてはボクサー、アイリッシュ・セッター、ドーベルマンなどですが、すべての犬種が15歳以上になると甲状腺機能低下症にかかると考えていいでしょう。

通常、左右対称性の脱毛が起こり、これがなかなか治りにくい場合、この病気が疑われます。脱毛し、皮膚に傷があるので、抗生物質を投与するとすぐに治るのですが、その治療をやめるとまたすぐに皮膚病が再発するというのがこの病気の特徴です。つまり、根本の原因を治していないので、そのようなことが起こるわけです。

内分泌障害の治療法の特徴は、生涯にわたって薬剤を投与することですが、この病気もその方法で治療します。すなわち、甲状腺ホルモンを生涯与え続けます。
■低血糖は原因の鑑別が重要
血糖値が70mg/dl以下になると、低血糖と診断されます。一般的に知られているのは、幼犬の低血糖症です。若い動物は成犬の2〜3倍のエネルギーが必要となります。しかし、幼犬はエネルギー源である糖分の蓄積があまりありませんので、すぐに低血糖症を引き起こしてしまうわけです。低血糖症を起こした犬は、疲れやすくなり、運動失調を起こしたり、ある場合には昏睡状態に陥ります。

仔犬以外では、猟犬などの運動量の多い犬が成犬でも低血糖症を起こすことがあります。また、前述の副腎皮質機能低下症によって、低血糖症が引き起こされることがあります。死にかかっている動物が敗血症を起こした場合も、血糖値が下がることがあります。ほかに、肝臓の病気や奇形によって低血糖症が発症する場合もあります。このように、低血糖の原因はいろいろありますから、その鑑別が重要になります。

治療としては低下した血糖値を上げるために、糖を補う方法があります。たとえば、仔犬が低血糖症となり、急に元気がなくなったら、ブドウ糖などを口に ゆっくり含ませるのがよいでしょう。その際、無理に口のなかに入れて、気管に詰まらせないように注意してください。ブドウ糖1に対して4〜5倍の湯で薄めればよいでしょう。もしブドウ糖がない場合は、蜂蜜とか砂糖でもある程度は代用できます。

また、インスリノーマ(島腺腫)と呼ばれる病気も、血糖値の低下が認められます。この病気は通常、5歳以下の犬に発症し、犬種ではプードル、ボクサー、ジャーマン・シェパード、アイリッシュ・セッターなどに起こることがあります。この病気は治療が困難であり、だいたいが1年以内に死亡します。