http://www.pet-hospital.org/

all words by Dr.NORIHIRO KOMIYAMA

猿(霊長類)の飼い方と病気
(2001/8/8 第1回改訂)

猿の輸入について
猿の分類について
ケージ(収容設備)について
環境最適温度について
首輪について
食事について
遊びについて
ワクチンについて
健康診断について
飼い主の健康上の問題等について
ブラッシングについて
入浴・シャンプーについて
犬歯の処置について
去勢手術について
避妊手術について
声帯除去手術について
猿の病気について

霊長類に関するホームページ紹介

猿の輸入について
我が国では年間約4000-5000頭輸入されている。その輸入先の60-70%がアジア地域で、その他は20-30%は南米産(主にペット用と医学実験用)残りの10%はアフリカ産であろうと思われる。
猿の分類について
霊長類には人間を含むと約200前後の種があり、大きく4つのグループに分類されている。猿は人間と同様霊長類に属し、万物の霊長たる存在である。

(1)大型類人猿―チンパンジー・ゴリラ・オランウータン

(2)旧世界猿(鼻の狭い猿群・狭鼻猿)
  ―アカゲザル・カニクイザル・ニホンザル・ヒヒ属
我々の動物病院に来院する多くの猿は旧世界猿(アジア・アフリカ大陸・南太平洋諸島の原産)である。旧世界猿の特徴は鼻にあり、鼻の狭いことである。これが狭鼻猿と呼ばれる所以である。これらはアジアに住んでいるため、当然診る機会が多くなるようである。

頬袋を頬の両側に持ち、そこに食料を貯めて少しずつ食べることができる。また、お尻に角化した皮膚、俗に言う尾タコを持つのも特徴である(肛門の後ろ左右に、座るのにちょうど良さそうな少し硬い部分を持つ)。また多くの成獣は、臀部と外部生殖器に赤い皮膚を持つ。

(3)新世界猿(鼻の広い猿群・広鼻猿)―リスザル・マーモセット・タマリン属
新世界猿(中央アメリカ・南アメリカの原産)は鼻の広いのが特徴である。広鼻猿と呼ばれる。一般にこの種の猿は小型が多いのも特徴である。また特徴として尾が長く巻きつけることができるようである。
アカゲザル インド原産
成体重4-12kg・体高45-65cm・尾長15-35cm
カニクイザル インドシナ原産
成体重2.5-8.5kg・体高35-65cm・尾長40-66cm
ニホンザル 日本産
成体重10-20kg・体高60cm・尾長2-3cm
コモン
リスザル
南アフリカ産
成体重0.38-1.2kg・体高30cm・尾長40cm
コモン
マーモセット
南アフリカ産
成体重230-453g・体高18-30cm・尾長17.3-40.5cm
(4)人間
ケージ(収容設備)について
猿用に特別に作られたケージ(実験飼育業者で発売)で飼育することが重要である。鳥用などのケージは大きくても強度の面で不足なので、間違っても使用しない。

飼い主が不在の際は必ずケージに収容する必要がある。大きさについては、なるべく大きいものが理想的だが、最低限猿が立っても窮屈さがない程度の大きさが必要である。各々のケージの大きさは、猿の種類に応じたものがNIH(National Institutes of Health 合衆国公衆衛生局所属の国立衛生院)によって定められている。

参考
ケージ販売会社
 →http://www.ishihala.co.jp/index.html
動物のケージ飼育:大きいことは本当に良いことなのか?
 →http://group.lin.go.jp/jsla/kaigai-tehc/af16-2.html


ケージの清掃について
猿にトイレの躾をすることは事実上無理である。できれば手袋を装着し、次亜塩素酸ソーダ(市販のものではハイターでOK)を使用して清潔な環境を保つ。
環境最適温度について
多くの霊長類における最適温度は18-27度の間であり、急激な温度の変化は好ましくない。湿度の理想値は約55-70%である。
首輪について
飼育者と飼育動物の安全のためには、首輪とそのリード(ロープ)がぜひとも必要である。特にケージから出る場合や入れる場合に必要なものである。首輪が正しく装着されているかどうか、努めて確かめる必要がある。小型の場合は胴輪も使用できる。
食事について
猿の健康の維持と長寿のためには、正しい食事が不可欠であることは言うまでもない。

猿と人間とビタミンCの関係は有名な話である。猿・人間・モルモットは、体内でビタミンCを合成できず、ビタミンC(アスコルビン酸の必要量1-5mg/kg)が含まれている食物で摂取しなければならない。

卵はサルモネラを避けるために必ず茹でたものを与える。甘いものや果物を多く与えていると、歯の病気(歯周病や虫歯)になりやすくなる。できれば歯磨きもしたいものである。

旧世界猿は果物や野菜を多く食べるが、新世界猿は本来昆虫類などを多く食べる(より高い動物性蛋白が必要だから)。ペットとして飼育されている猿の食事の問題点は、現在市販されている猿用のフードやビスケットをあまり食べずに、人間と同じものをやりすぎるあまり、特定の好きなものばかり食べる猿が多いことである。そんな場合は、犬猫用のフードを与えてみるのも(猿用のものを食べないよりは)良いだろう。また、砕いて何かに混ぜたものを与え、食べるかどうか試してみるのも良いだろう。

食事の回数は、小型の猿では2回、大型の猿では1回が良いだろう。しかし、状態によってはその数を変化させることも可能である。できれば、食事は午前中に与えると良いだろう。できるだけ夜の食事をさけ、食後3-6時間は猿の様子を見たいものである。特に大型の猿では、夜の食事の後だと胃拡張が起こる可能性があるからである。できるだけ規則正しい生活として、食事はいつも同じ時間帯に与えたい。

特定の好きなものばかり食べる(例えば果物を食事代わりにする)猿は、病気の際、また回復期において、普通の食事を食べなくなる傾向がある。したがって、できれば通常はそれなりの食事を与え、食欲不振の時などに好きな物を与えて、回復を期待すると良いだろう。私達の病院では、病気の猿で食欲不振の場合は、よく暖めたバナナを与えると食べるときがあることを経験している。その他、暖めた流動食を使用している。

霊長類は、毎日彼らの体重のおよそ4%の食事をするが、こぼすこともあるだろう。理想的な猿の食事は、蛋白質15-25%・脂肪3-5%・炭水化物50-60%・灰分7%である。

常に新鮮な水が飲めるようにして(多くは給水瓶を使用)、切らさないようにする。給水瓶使用の際は、常に8分目ほどに矢印を付けて毎日どのくらい飲んだかをチェックするのが好ましい。給水瓶がうまく働かず、水が出ないことがまれにあるからである。
遊びについて
ペットとして飼育している猿のストレス発散のためには、遊びを積極的に取り入れることが望ましい。人間と慣れ親しむためにも、おおいに時間をかけて語りかけ、コミュニケーションを図るべきである。

いつも同じケージの中にいると、単調なストレスサイン(例えば威嚇・歯軋り・ゆする動作・毛引き)が出やすくなる。輪投げ・ブランコ・玩具・ぬいぐるみ等が望ましく、棒回し等(安全な空気入りバット等)の遊びは、猿の野生本能を引き出すことにもなりかねない。「西遊記」の孫悟空のごとく如意棒を振りまわすことは、本来好きなようだが、訓練された猿はあまり好まないようである。

猿は他の動物と違って、つかむ・取る・引っ張る・握る・摘む動作(近くにいる人間の持っているもの・身に着けているものを取りに行く)・投げる動作(適当な物がない場合は自分の糞便さえも投げる)を行える動物なので、遊びの際や飼育の際には理解しておく必要がある。

霊長類の飼育と使用に関するガイドライン(大阪大学医学部附属動物実験施設)
 →http://hayato.med.osaka-u.ac.jp/index/guide/inform/regulation/primate2-j.html
ワクチンについて
破傷風の発生地域にいる猿は、ワクチンの接種が望ましいだろう。猿用のワクチン等はないので、使用するすべてのワクチンは人間用のものである。ワクチンの必要性は、その病気の流行性・地域・年齢・飼育環境・猿の種類・飼育者の持つ病気との関係によって大きく変わってくる。その都度、獣医師に相談するのが良いだろう。
健康診断について
身体検査の重要性
定期的(できれば毎年)に検診を受けることが望ましい。幼若な時から検診を受けておくと、慣れの問題もあり将来的にも有効である。猿は本来検診等を好まないため、早くから行って慣らしておく必要がある。特に何か移動や環境の変化があった場合(ストレスを罹った後)はそうである。健康と思えるときにこそ検診を受け、飼い方の助言(医学的な内容も含めて)も受けるべきである。


糞便検査の重要性
人畜共通伝染病の立場からも重要である。その回数・形・色・臭気・出血の有無を検査する。寄生虫等の有無の検査はもちろんのこと、できれば培養検査にてサルモネラ・赤痢・腸炎ビブリオ・病原性大腸菌の検査も行うべきである。


血液検査の重要性
検診の際に血液等のデータがあれば後々までその比較ができるので、病気の変化や推移の判定に便利である。これらの検査は、現時点での状態の把握・病気になった時点で過去(健康な時)の値との比較・その病気の程度や進行度の判定・合併症の有無の判定に有効であることが多いからである。


ツベリクリン反応検査
猿と結核は重要な関係にある。できるだけツベリクリン反応検査は行っておきたい検査である。特に何らかの理由(犬歯の処置・去勢等)で麻酔をかける際には、ぜひ同時にツベリクリン反応検査を行うことをお奨めする。
飼い主の健康上の問題等について
猿を飼育する上にあたり、何も猿が危険な動物というわけではない。むしろ人間から猿に伝染する病気のほうが多いだろう。また、猿は系統発生的に人間と近縁だが、猿でよく見られる病原体が人間では致命的とも言える疾患であることがある。ゆえにこれらの注意点は双方に言えることである。健康管理については、猿を飼育する上で必要最低限の知識を持つべきである。

まず最も重要なことは、猿の入手先と検疫の問題である。十分に検疫を済ませた上で、なおかつ一定期間、最低6週間隔離して(その間にツベリクリン反応を行う)様子を見た猿であることが好ましい。


飼育者は結核に関心を持とう
猿を飼育する人は健康に関心を持ち、さらに結核に対しても関心を持たなければならない。猿は結核菌に対して感受性が非常に高いからである。猿の飼育者は年に1回結核の検査を受けるべきである。

「結核緊急事態宣言」について(1999/7/26厚生省報道発表資料)
 →http://www.mhw.go.jp/houdou/1107/h0726-2_11.html

健康に気をつけるということは、暴飲暴食を慎み、自分に合う一定のペースで生活することである(猿も人間も同じです。私の好きな考え方は――冗談と思って聞いてください――各々の動物が生涯食べる量はあらかじめ決まっていて、その一定量を食べつくした動物が寿命を終えるというものです。早く食べつくすと、細胞が早く傷つき寿命を終えるのです)。


人間が風邪をひいたら
風邪をひいたら猿に伝染することがあるので、極力猿との接触は避ける。少しでも風邪気味なら早めにマスクを使用することが賢明である。風邪をひかないためにも十分な睡眠が重要となる。また、医師と同様、生活習慣としてこまめに手を洗うくせをつけると良いだろう。前述したように病気の多くは人間から猿への伝播である。

なお猿に限ったことではないが、動物に触ったその手で食事をしたりしてはならない。ついそのままの手でお菓子をつまんだり、煙草を吸ったりする行為も同じである。物を持つのも手を洗った後が好ましい。掃除等も普段より気をくばって行うと良い。とくにドアのノブ等にも気をくばる。


猿に噛まれたり引っかかれたりしたら
猿に噛まれたり、引っかかれたり、唾液・涙・その他体液が人間の傷口・眼・粘膜に触れたりしたら、傷口の場合はその部分を石鹸や消毒液(イソジン液・消毒用アルコール等併用も可能。薬局で入手可能)で15分以上良く洗う。眼や粘膜は流水でよく洗う。そしてうがい(イソジンうがい液)をするとさらに良い。もし傷が既にある場合は、絆創膏等であらかじめ防御しておくことが望ましい。→Bウイルス

また猿が病気をしたら特にその状態に気をつける必要がある。病気の猿には十分に休息を与えるべきである。

以上の事柄に気をつけることにより、かなり病気を防ぐことが可能だろう。これらの実践は、人間自身の健康管理にも良い影響をもたらすことが多いようである。
ブラッシングについて
ペットとして飼育している猿は、ブラッシングをまめにすると良いであろう。若齢の時から慣らしておくと、(健康診断の際などに)身体を触られること自体嫌がることが少なくなるので良い。これはグルーミング(毛づくろい)の一環として、また代わり(同種間の毛づくろいとして)にもなりうる。またブラッシングすることによって、皮膚や血流に刺激を与えることができ、体表の観察もできるので早期の皮膚病を始めとしていろいろな病気の予防・発見に役立つことがある。
入浴・シャンプーについて
猿は本来水を怖がらないはずであるが、個体差があるので、入浴は少しづつ慣らすようにすれば可能だろう。最初の頃はお湯を少なめにして始めると良いと思われる。また、入浴に慣れることによってシャンプーも行えるだろう。定期的(2-3ヶ月)にシャンプー(犬猫用を使用)をすることで、皮膚の清潔さを保つことが可能である。

猿と一緒に風呂に入ることは論議のある問題である。少なくとも、健康でツベリクリン反応検査や定期的な検診を受けていることが最低限必要だが、どうしても問題となるのが入浴中の糞便である。もしどうしてもと言うなら人間は水着を着用すべきである。また興奮してすぐに便をする猿とは入浴すべきではない。
犬歯の処置について
強暴な猿や大型の猿(特にオス)は、安全のため噛まれても被害が最小限ですむように、犬歯の処置を考えるべきである。特に猿が人間に慣れていない間は重要である。犬歯を途中で切断し歯髄のための処置をするか、一定の年齢が来れば(永久歯が生え揃ったら)抜歯も可能である。これらの処置をしても特に大型の猿は危険なことがある。しかし対策を取らない場合、より多くの危険な状況となりうる。特に旧世界猿の犬歯の大きさは性的二次成長(強力な武器として)の意味を持ち、自身を奮いたたせることになるからである。
去勢手術について
オスの猿で、特にホルモンに関係すると思われる行動(周期的に強暴となり顔を真っ赤にする)のため、非常に扱いにくくなることがある。そんな場合は、去勢手術を受けると扱い易くなることがある。これはパイプカットではなく睾丸そのものを取り去る手術である。もし何か大きな外傷を受け、その傷の修復のため全身麻酔の手術を受けることになったら、同時に去勢手術を行うと良いだろう。
避妊手術について
メスの猿で、神経質な猿、特に旧世界の猿(繁殖の特徴は季節性だが通年発情兆候を持つ)は、避妊手術も考慮すべきである。高齢になると子宮内膜炎が起こることがあるが、避妊手術をすればそれらの病気になることはないからである。全身麻酔をする機会があった時には手術を考えるべきである。
声帯除去手術について
特にペットで飼育されている猿は、その鳴き声で近所迷惑になることがある。その場合は声帯除去手術も考慮すべきである。
猿の病気について
私達の病院で、猿の3大病といえば寄生虫疾患・腸炎・外傷であり、5大病といえば以上に加えて呼吸器疾患・皮膚疾患だろう。したがって症状からいえば、食欲不振・下痢・打撲(切り傷)・元気消失等がほとんどである。これらの症状が猿の病気で最も多いものである。

寄生虫疾患について
猿を宿主とする主な腸内原虫は、大腸バランチジウム・アメーバ赤痢・ジアルジア症(ランブル鞭毛虫)である。猿の内部寄生虫の多くは人間にも伝播する可能性があるので、定期的に検査する必要がある。

大腸バランチジウム
アメーバ赤痢
ジアルジア症
血液内の原虫
線虫類
鞭虫
外部寄生虫
大腸バランチジウム
ほとんどすべての霊長類の盲腸・結腸に寄生する原虫である。ほとんど無症状だが(人間以外の霊長類にはあまり影響がない)、時に下痢を起こすことがある。人間に感染すると重度の赤痢の症状を示す。

アメーバ赤痢
盲腸・結腸に寄生する原虫である。無症状のこともあるが、下痢時に血便の潰瘍性大腸炎で死亡することがある。また消化管の潰瘍や肝膿瘍についてはこの病気を疑う。病原性は人間より少ないと言われている。通常の感染は、糞便から経口経路にての伝播と思われ、糞便に触れないように管理するのが最も重要である。

ジアルジア症
ランブル鞭毛虫とも呼ばれる原虫である。小腸に寄生する。少量では無症状だが多量では下痢を起こす。まれに胆管や胆嚢を侵すことがある。

血液内の原虫
マラリア・トリパノゾーマ・リーシュマニア等が知られている。また、原虫ではないが、主に旧世界猿について蚊によって媒介されると考えられているミクロフィラリアが診られる場合がある。

線虫類
腸結節虫(旧世界猿では結腸に半分以上寄生しているとの報告がある。犬の鉤虫に似た虫卵である)・糞線虫(病的な状態はあまり認められないが下痢を起こすことがある。通常幼虫が糞便内に認められる)・ジペタロネーマ(新世界猿の腹腔内に寄生する)が主である。

鞭虫
旧世界猿でよく見られる。

外部寄生虫
ヒゼンダニが主である。その他まれにダニやシラミの寄生を認める。


寄生虫以外のその他の病気
腸炎
外傷
気管支炎・肺炎
皮膚疾患
破行
骨の病気
壊血病
口腔内の疾患
心臓疾患
その他
腸炎
猿は下痢をおこし易いようである。特にこの胃腸系疾患(寄生虫疾患を含めて)は猿の病気で1番多いだろう。赤痢やサルモネラ(共に人畜共通伝染病)、その他病原性のある細菌(例えば大腸菌・緑膿菌・変形菌)も原因となりうる。また、細菌やウイルスと共存した原虫が腸炎をより悪化させることがある。

また、まれに胃の誇張症、すなわち急性胃拡張が起こることがある。犬などのように胃捻転は起こらないようである。腹部の腫れが特徴だが、結腸の捻転もこの症状に似ていることがあるので気をつける。直ちに穿刺して圧を下げる必要がある。

外傷
主に、躾の際や遊びに夢中になった等の際に起こる。特に幼若で好奇心旺盛な時にいろいろな事故に遭いやすくなる。指に何かが刺さる・絡む・熱湯の中に指を入れる等である。しかし落下などで打撲や損傷を受ける場合も多い。あらゆるタイプの傷があり、これらにはクラシュ症候群(押しつぶし)も含まれる。

気管支炎・肺炎
特に若い猿の場合は罹り易いので注意が必要である。多くが細菌性である。何かのストレスの後に発症し易いようである。鼻汁が認められ、少しでも呼吸がしずらそうなら、疑うことができる。詳細な聴診・白血球数の増加確認・胸部のX線撮影(できるだけ立たせた体位で撮影すると空気が肺に入り易くなるので良い)にて診断する。状態がきわめて悪くても症状がなかなか出ず、急に衰弱して死亡してしまう例もある。

また、慢性的な上部の気道感染症として、なかなか治らずに再発をくりかえすこともある。その場合、咽頭炎や鼻腔炎なども併発し、最終的には喘息に発展することがある。人間に存在する鼻腔・気管支のウイルスやインフルエンザのウイルスもその原因となることがある。

皮膚疾患
外傷に起因するものを除くと皮膚糸状菌症が主である。簡単に言うとカビによって起こる感染と考えて良い。脱毛やフケのような感じの症状がでる。

破行
四肢を引きずる場合、外傷を始めとして打撲・骨折・脱臼・関節炎・腫瘍(高齢な猿の場合)・ビタミンCの不足・ビタミンDの不足・栄養障害・結核等いろいろな原因が考えられる。

骨の病気
これは以前猿の「ケージ麻痺」とよく言われていた。現在では猿用の食事にビタミンDが添加してあるためほとんど認められないが、まだ発症し続けている病気である。特に新世界猿で頭蓋冠が侵され易い。長くケージで暮らしていると日光(紫外線)が不足し、食事にビタミンD3をより強く要求するからだろう。

特に幼若時の食事に問題があると、代謝性骨疾患(栄養性二次性上皮小体機能亢進症)が新世界猿(ビタミンD3の要求量が高い)に発症し易い。これはカルシウムとリンのバランスの不均衡から生じる結果である。中年-高齢になると、脊椎の病気(椎間板ヘルニア等)が認められる場合もある。

壊血病
ビタミンCの不足によって起こる病気である。通常、骨端のはれと破行(四肢を引きずる)を伴う。最も典型的には頭部の腫れを伴い、特に新世界猿が罹りやすい。本来市販の猿用フードには、体重1kgあたり300-500mgのビタミンCが含有されているべきである。しかし保管場所(涼しく乾燥した所)に注意する必要がある。また、ビタミンCは原則として製造日より90日以内が有効との報告があり、輸入フードの場合すでに90日を過ぎている可能性が高く、ビタミンC不足が予想される。その場合は食事(やむをえない場合は錠剤)のビタミンC量を考えて与える。

口腔内の疾患
外傷による歯牙の損傷・歯髄の露出・歯根部の感染・虫歯等があり、最近の食事事情だと歯周病も認められる。できれば飼い主は歯磨きを行うと良いだろう。食欲不振の猿は一度口腔内を調べたいものである。

心臓疾患
先天的な奇形もあるが、多くは高齢になって発症する冠動脈の疾患で、アテローム性動脈硬化症・心筋症・解離性大動脈動脈瘤等が報告されている。高齢になるとコレステロールや脂肪酸をときどき調べれば良いだろう。

その他
口腔内の乳頭腫・鼠径や臍帯のヘルニア・膣脱(出産を経験した高齢の妊娠猿)・直腸脱(激しい下痢の際)・腸重積(腸の詰まり。異物や寄生虫で起こりうる)等がある。


ウイルス性の伝染病
インフルエンザ
A型肝炎(伝染性肝炎)
B型肝炎(伝染性肝炎)
結核
風疹
Bウイルス
マールブルグ病
エボラ出血熱
インフルエンザ
その臨床症状から推定する。ウイルス検査が可能(人間の臨床検査所)である。十分休息を取らせる。ストレスをできるだけ避けるようにする。快適と思われる飼育環境にて休む時間を多くする。飼育者はマスクをした方が良い。

A型肝炎(伝染性肝炎)
類人類・マーモセットに感受性が高い。一般に猿では無症状又は軽微な症状しかないようである。人間に感染すると重度の肝炎の症状が出る。このウイルスの排泄は短期間であり、最低6週間の検疫期間を設けることによつて通常は予防できると言われている。また、人間の臨床検査所にてウイルス検査が可能である(HA-抗体を調べる)。

A型肝炎についての情報
 →http://www.kushiro-ishikai.or.jp/Byouin/kango/kanzou/wils.html
 →http://www.nara.med.or.jp/kenkou/14-12.html
 →http://ux01.so-net.ne.jp/~twhc/A-kan.htm

B型肝炎(伝染性肝炎)
人間の臨床検査所にてウイルス検査が可能である。検査はいろいろあるが、とりあえず初回はHBs抗原(RPHA)とHBs抗体(PHA)を調べる。

B型肝炎についての情報
 →http://www.asahi-net.or.jp/~dp8t-wtnb/yotyuu/b_gata.htm
 →http://www4.justnet.ne.jp/~pino/issho/issho_4.htm
 →http://www.hokendohjin.or.jp/lib/anser/shoka/lans_bk.htm


肝炎の総合情報
 →http://fish.miracle.ne.jp/n-kgym/HepatitisC.HTM
 →http://ha2.seikyou.ne.jp/home/shimizuf/text30023.htm
 →http://honda.or.jp/acute.html
 →http://www.ngy.3web.ne.jp/~gohda/kannsen2.0/hv.html

結核
病原体である結核菌は、ヒト型・牛型・鳥型(猿にはまれ)の3種である。忘れ去られた病気のようだが、最近その動向が注目されつつある。適切な管理のためには、結核をたえず警戒し検査することである。通常初期では症状を表さず、表れたときには既に病状が進行しており、突然の死亡・行動の変化・昏睡となることがある。また、説明がつかない後肢の麻痺などの場合も結核を疑うべきである。

風疹
人間から猿に伝染した報告はあるが、猿から人間に伝染した例はない。これらのほとんどは輸入直後の猿に発症する。症状は結膜炎や顔面の浮腫であり、新世界猿では死亡率が高い。

Bウイルス
猿では軽症の経過とされるが、人間が感染し発症すると致死的(最近では中枢神経系の症状が出る前に治療すると良い結果になるとの報告あり)と言われ、昔から恐れられている人畜共通伝染病である。ニホンザルの抗体保有率は低いようだが、東南アジア産のマカカ属の猿(特にアカゲザルとカニクイザル)の抗体保有率は高く、通常で40-50%以上、80-90%との報告もある。このウイルスは唾液・尿・涙によって感染するため、主な感染経路は咬傷である。

人間が咬傷後、皮膚に水疱(すいほう)・しびれ・発熱・頭痛・神経麻痺等が認められたら疑う。→猿に噛まれたり引っかかれたりしたら

人間にあらかじめ傷がある場合は感染しやすくなる。理論的には、保護メガネの装着が眼からの感染防止に役立つ。このウイルスは人間の単純ヘルペスウイルスと似ており、共通抗原性を有する。ストレス後にできる口唇部や舌の炎症・潰瘍は本症例を疑うことができる。人間に見られる症状は中枢神経系の障害であり、上行性の脊髄炎となる。診断した獣医師は、保健所長を経由して都道府県知事に届け出る義務(7日以内)がある。

皮膚粘膜暴露に伴う致死性Bウイルス病と作業従事者防護のための暫定勧告(感染症情報センター)
 →http://idsc.nih.go.jp/index-j.html
山内先生の人獣共通感染症(Zoonosis)連続講座Bウイルス感染
 →http://www.nih.go.jp/yoken/tpc/yamanouchi/2.html
長崎大学医学部附属動物実験施設
 →http://www.med.nagasaki-u.ac.jp/lac/
長崎大学医学部附属動物実験施設Bウイルス関係参考資料
 →http://www.med.nagasaki-u.ac.jp/lac/B-virus.html
平成8年国動協配布資料「Bウイルス関係」
 →http://www.med.nagasaki-u.ac.jp/lac/macaque_B.html

マールブルグ病
ミドリザルでの感染が知られている。症状は発熱・皮膚の発疹・出血しやすい等の状態と言われているが、まったく症状を出さずに死亡しているようである。人間では、突然の発汗・激しい頭痛・筋肉痛・発熱・下痢・嘔吐等である。現在我が国には発生していないが、検疫後の猿には注意すべきである。

三重大学医学部から届出のあった伝染病(マールブルグ病・エボラ出血熱を含む)
 →http://www.medic.mie-u.ac.jp/ict/frame.html

エボラ出血熱
ミドリザル・カニクイザルでの感染が知られている。症状は、持続性の発熱・各部に出血を伴う発疹・下痢・体重の減少等の状態と言われている。人間では、風邪の症状・頭痛・発熱・筋肉痛・下痢・嘔吐等である。現在我が国には発生していないが、検疫後の猿には注意すべきである。

山内先生の人獣共通感染症連続講座第3回―ザイールでのエボラ出血熱についての情報
 →http://www.nih.go.jp/yoken/tpc/yamanouchi/3.html
山内先生の人獣共通感染症連続講座第4回と第3回(ランセットの報告)をもとにした解説(サイエンス5/19号)の全訳
 →http://www.nih.go.jp/yoken/tpc/yamanouchi/4.html

フィロウイルス(エボラ出血熱とマールブルグ病)に罹った(疑いがある)と診断した獣医師は、保健所長を経由して都道府県知事に届け出る義務がある。現在これらの診断についての依頼先は、社団法人である予防衛生協会が米国から供給される抗原を用いたELISAによる抗原検査を行っている。または直接米国の機関に送って検査を依頼することも可能だろう。

霊長類に関するホームページ紹介
日本霊長類学会
 →http://wwwsoc.nacsis.ac.jp/psj2/index.html
京都大学霊長類研究所
 →http://kupri.pri.kyoto-u.ac.jp/index-j.html
国立感染症研究所筑波医学実験用霊長類センター
 →http://www.nih.go.jp/yoken/tpc/main-j.html
日本モンキーセンター
 →http://www.meitetsu.co.jp/japan-monkeycentre/
予防衛生協会
 →http://www3.vc-net.ne.jp/~cprlpso/index.html
山内先生の人獣共通感染症(Zoonosis)連続講座
 →http://www.primate.gr.jp/yamanouchi/index.html
長崎大学動物実験施設
 →http://www.med.nagasaki-u.ac.jp/lac/
徳島大学医学部附属動物実験施設
 →http://www.anex.med.tokushima-u.ac.jp/index-j.html
霊長類の飼育と使用に関するガイドライン1995年8月(全35p)大阪大学医学部霊長類ユーザー会
 →http://hayato.med.osaka-u.ac.jp/index/guide/inform/regulation/primate.txt