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all words by Dr.NORIHIRO KOMIYAMA

- 小鳥の外科学 - 

麻酔について

■麻酔について
 小鳥において麻酔は外科技術より重要で、治療や検査を行なうためにも必要なときには、恐れずに行なえなければならない。より重要な原則として、麻酔がなしでも手術が桁なえれば、もちろん麻酔は不必要となるが、腹部の開腹術などの場合に必ず必要となる。小鳥の特異性で、元来、鳥はホ乳類に比べて麻酔に対し抵抗性がないので、できるだけ麻酔は必要最小限に行なうことが重要である。
■実際の麻酔の重要点
a. そ嚢の手術を除いて、絶食はしない。鳥は血糖値が高いので、そのため代謝率が高く、絶食をすれば肝のグリコーゲンや解毒の作用が低下するからである。
b. 麻酔中も回復期も鳥を暖かくしてやる。ヒーティングバックパットまたは補助ライト等を使用して、体温の低下を防ぐ。鳥は高体温下のみで正常な代謝が営まれるので、体温の低下は死を意味する。
c. 麻酔はできるだけ軽い麻酔、すなわちナルコーシスの状態に保つことを心がけるが、これはしばしば困難を伴うことがある。そのため手術の覆い布は透明なものを使用したりして、常に呼吸やその動きが観察できるようにする。
d. 麻酔の前または術中にできうれば、血液のデータを得ることが重要である。鳥は貧血や脱水に対して判定することが困難な場合があるが、PCVが55%以上であれば、脱水を示しており、20%以下であれば重度な貧血を示している。血糖値が200r/100ml以下であれば5%ブドウ糖を投与してやる。
e. 手術をする前に、あらかじめ輸液などをすることは、循環器障害や脱水を防止するためにも行なうべきである。また術中においてもセキセイインコなどの場合に、15分おきに0.1mlずつ乳酸化リンゲルを場所を変えて筋注することも有効と思われる。
f. できればアトロピンを導入5分前に、原液10倍希釈液を正確に、0.03mlの割合で投与し、分泌液の流出を減少させるとよいであろう。またそ嚢の液体はできるかぎり、綿棒などで除去しておく。
g. 局所麻酔は感覚の鋭い部位、頭部、脚、関節、肛門(これらの部分は刺激に対して、反応がよいので麻酔のモニターに使用される)などの部位に用いられるが、鳥類は特にブロカインに対して毒性があるので、もし使用するとしても希釈した0.20%プロカインを用いるべきである。通常大型鳥に用いられ、小型鳥においてはプロカインは禁忌とされている。
h. 吸入麻酔剤のフローセンが最も安全と思われる。通常マスクなどで導入されるが、大型鳥などは籠ごとビニール袋などで覆い導入することもできるが、そのような閉鎮した方法は危険でもある。我々はシャーウッドのディスポーサブルシリンジの外筒を改良して使用し、よい結果を得ている。大型の鳥なら気管内挿管はやさしいが、小型鳥にはちょっとした改良が必要である。しかしながらこの操作で鳥が輿奮するようなら有害である。特に小型な鳥などにおいては、挿管時の麻酔の濃度の変化には注意を保ち、酸素の量と共に、正確な液量がコントロールできる気化器を使用する必要がある。もし可能であれば大型の鳥の場合はできるだけ挿管することがよい結果を生むと思われる。
i. 回復期には、鳥が傷つかない環境が必要で、鳥を暖かくし明るくしておくと回復は早い。我々は回復しにくい小鳥に対しては、ストッキネット(東京衛材)を使用して、頭を除いて全身をその中に入れて保定している。
j. 鳥は絶食させないので麻酔中、麻酔後に嘔吐、逆流など誤嚥性肺炎の原因となりうることがおこるようであれば、柔軟なチューブを導入後に食道に挿入してやればよい。液体の逆流はこの管の内腔を通って外に出る。またこれらのチューブは麻酔中にも応用できるものである。

■実際の外科の重要点
 鳥類の外科においても、一般外科の原理は十分に応用されなければならない。多くの鳥は、症状が進んだ状態で手術しなければならないので、不幸な結果が出ても、以後の手術に対して悲観的な見方はすべきではない。

 通常、鳥類の外科手術は眼科用の器具が用いられる。その大きさ、組織に対する扱いは同じように、注意を有するからである。止血はもっとも重要で、35gのセキセイインコを例に取ると、血液量は体重の約10%であり、すなわち35gの鳥は約3.5g(3.5cc)である。このことは血液の1ccが約15〜20滴であるから、全部の血液量は約53〜70滴である。ゆえに約6滴の血液を失うことは約10%の血液を失ったことになり、12〜13滴は20%、17〜20滴は約1/3の血液を失ったことになる。それゆえに失血を最小限にくいとめる技術が最も重要である。そのためには、鈍性剥離および圧迫止血には消毒した綿棒を用いたり小さい鉗子を用いたり、血管は細い糸(3-0)で2重に結紮することなどがポイントとなる。

 鳥は体温が高いから、感染に対して抵抗性があるとはいえども、手術は全て無菌的でなければならない。そのためには術野の羽を麻酔後に全部引き抜いて(普通5〜6週で羽毛が生える)、綿棒にイソジンにて術野が消毒される。もし消毒が不完全だと、鳥はその術野を手術後に突ついてしまうことがある。

 鳥類の外科には通常、外傷、出血、腹部膨満の原因療法、骨折、あらゆるタイプの腫瘍、眼球摘出術、断脚、断翼、そ嚢切開などが挙げられる。手術は時間との戦いでもあり、できるだけ早く行う。そのためには、止血をかねた電気メスの使用や、縫合などの場合も一層縫合で、連続縫合を行なうことなどで時間の節約となる。

 糸と針は一緒に付いたものを選び、できるだけ組織に対して損傷を与えないようにすることが重要である。我々は眼科用の6-0、7-0を使用している。我々の経験では、抜糸を鳥類に行なうことは、きわめてまれである。鳥自身がついばんでしまうと思われる。外科手術を受ける鳥すべては24時間前には入院されてインキュベーターに入れておくのがよい。

 術前の鳥はできるだけストレスを与えないようにしなければならない。鳥にガーゼ等を使用するときは、不必要にこすったりしてはならない。また不必要に多く消毒液を用いて鳥を濡らすと低体温の原因ともなる。覆い布には我々は、滅菌したセロファンを使用している。これら術野及び鳥の動きがよく見えるからである。これらを使用する場合はヒーティングバットの上に、古いフィルムを置き、その上に鳥をテープで保定してさらにその上にセロファンの覆い布をかけている。すると鳥は上下にはさまった状態となり暖かさが保てる。

 術中はいかなる場合も酸素を切らさないことが重要である。電気メスは組織への損傷をできるだけ避けて、決して黒こげにしないこと。また頸部の手術、例えば頸静脈、頸動脈、気管、食道などの部位には使用しないこと。

 止血には圧迫法以外においては硝酸銀棒やクイックストップ(止血剤)などが表面の止血には応用される。術後には保温に気を付けながら、鳥が術野をついばまないように鏡など自分が写し出される環境を避け、必要ならばエリザベスカラーを付ける。

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<獣医師の皆様へ>の項より
◇  飼鳥の検査と治療の考え方
◇ 飼鳥の病気
◇ 飼鳥の臨床

<三鷹獣医科グループ専門医療詳細>の項より
◇ 飼鳥の専門医療とオウム科の鳥の飼い方と病気