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学術マニュアル(疾患)

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犬のアジソン病(副腎皮質機能低下症) -その診断と治療法-

アジソン病とは?

他の病気のまねをするのがうまい病気として有名です。つまり似た病気が多くあるため、どのように診断するかが問われます。

あるようでない病気です。比較的まれな病気ですが(特に猫はまれ)、確実にこの病気は存在します。思ったよりは多いはずです!

病因は?
一次性 副腎皮質の萎縮か破壊
下垂体は正常
二次性 下垂体不全のため内因性
ACTHの生産低下
医原性 ステロイド治療
op-DDD治療
副腎摘出
その特徴は?

発症個体の約70%が若齢(3-6ヶ月)から中年にいたるまでの犬や猫で、特にメス(70-85%)に発症するのが特徴。

参考(好発犬種)

  • スタンダードプードル(特に黒色)
  • ベアデットコリー
  • ウエストハイランド
  • ホワイトテリア
  • グレートデン
  • バセットハウンド
  • スプリンガースパニエル
  • ウィトンテリア
Dr. Petersonによる発表(犬225頭)
    その症状は?

  • 嗜眠:94%
  • 食欲不振:92%
  • 嘔吐:76%
  • 衰弱:76%
  • 下痢:59%
  • 体重減少:48%
  • 良くなったり悪くなったりの繰り返し:43%
    身体検査の所見は?

  • 沈鬱:94%
  • 脱水:46%
  • 虚脱:35%
  • 低体温:34%
  • CRTの延長:31%
  • 黒色便:20%
  • 弱い脈拍:14%
  • 徐脈:14%
心電図の特徴は?
高カリウム血症の特徴 P波の消失
T波の先鋭化(テントT)
幅広いQRS
徐脈ぎみ?
X線検査の特徴は?
  • 循環血流量の低下(約1/3)
  • 小さい心臓(約1/3)
  • まれに小肝症

これらは治療後に回復します。

血液検査の結果は?
  • 死に至る程なのにストレスパターンの欠如
  • 好酸球増加症
  • リンパ球増加症
  • Na/K比<20:1(約10%正常)
  • 肝酵素の上昇
  • BUN↑・P↑・Ca↑・K↑・Na↓・Cl↓・BS↓
  • 軽い貧血?
アジソン病の際よく言われるNa/K比とは?
  • 正常なNa/K比は27:1-40:1ぐらいです。
  • Na/K比<25:1で発症を疑い、<20:1で診断?
  • しかしアジソン病発症個体のうち約10%はNa/K比が正常です。
高カリウム血症やNa/K比低下の別の病気は?
  • 急性腎不全
  • 尿閉(腎後性の腎不全)
  • 重症の腸内寄生虫感染(特に鞭虫)
  • 体腔内の液体の貯留(胸水や腹水)
  • 低アルデステロン血症(低レニン血症)

例外→秋田犬(赤血球が壊れやすいので高血症になりやすい)の場合

アジソン病発見のため覚えるべき事柄
  • ストレスで悪化する(手術・旅行・預かり等)
  • 良くなったり悪くなったりの繰り返しの経過あり
  • ショックや脱水があるのに徐脈ぎみ
  • 過去に輸液やステロイドで元気になった
  • 死に至る程なのに血検でストレスパターンの欠如
診断法は?|ACTH刺激試験

前置とACTH刺激試験後の血清コルチゾール値比較(正常より低い)

その2大最重要治療法とは?|輸液療法(0.9%の生理的食塩水)通常はⅣ投与

グルココルチコイドの投与

  • Ⅳできるデキサメサゾンを、ゆっくり2-4mg/kgをⅣします。
  • 必要なら2-6時間後もう1度投与。
    →デキサメサゾンはACTH刺激試験に干渉しません。
    →プレドニゾロンは干渉します。症状が落ち着いたらプレドニゾロンに変えます。
その他の治療法は?
  • 高カリウム血症の治療
    →通常は輸液療法で下がる(EKGでモニタ-)が重度の場合は、インスリン(0.5U/kg)と低血糖予防のためブドウ糖(インスリン1U当り2-3g)を投与するとカリウムが細胞内に戻されます。
  • もし2大療法後でも低血糖が存在すれば?
    通常はグルココルチコイドの投与で改善しますが、まだ存在する場合は、輸液に50%ブドウ糖を使用して、2.5-5.0%になるよう希釈し投与します。
  • もし2大療法後でもアシドーシスが存在すれば?
    もし血液ガスでphが測定でき、その値が7.1以下の場合、また重炭酸濃度が14mEg/L以下の場合、そのアシドーシスの程度により、7%重炭酸ナトリウムを0.5-1.0ml/kgの1/4量をⅣ、その残りをⅣの輸液で投与します。
  • もし2大療法後でも低血圧が存在すれば?
    もし血圧の測定ができ、その値が低い場合、より輸液等の処置をしないと急性腎不全を誘発する可能性が高くなります。
  • もし2大療法後でも胃腸からの出血が存在すれば?
    胃腸の保護剤(H2ブロッカー・スクラルファート・オメプラゾール等)を用います。原因不明の貧血はアジソン病を疑うこともできます。
急性期における治療の目安は?

嘔吐や下痢が止まり自分で飲水できるようになったら点滴を止めても良いです。その後は経口投与にてグルココルチコイドを投与します。

急性期から回復した場合維持療法は?
  • ミネラルコルチコイド製剤の投与
    →酢酸フルドロコーチゾン(フロリネフ)0.1mgが1錠。
    犬は2.5-5.0kgに1錠が必要。
    初回は症状によって上記の量を1日1回、できれば1日2回に分割して投与します。
  • グルココルチコイドの投与(約50%で必要となる)
    →プレドニゾロン0.22mg/kgを1日1回投与。
    手術・旅行・預かり等のストレス時は増量(2倍)にします。
    食塩の投与(フードに軽く添加する)が必要かはまだ不明で論争中。
  • ピバル酸デゾキシコルチゾン
    (DOCP, Desoxycorticosterone pivalate (percorten-v))の投与
    →これはフロリネフを使用しない場合の療法です。
    通常3-4週間間隔で注射(IM又はSQ)します。
酢酸フルドロコーチゾン(フロリネフ)の投与法
  • 初回は電解質が正常になるまで1日ごとに1/2-1錠ずつ増加します。
  • 安定しても最初の6ヶ月までは毎月調べます。
  • また生涯において3-6ヶ月ごとに必ず電解質(Na/K比)・BUN・Cre等を調べます。

これをしないと突然死の可能性もあり、投与を少しずつ増加しなければならない傾向があります。初回の量で2-3年持つのはまれです。

ピバル酸デゾキシコルチゾン(DOCP)の投与
  • DOCP投与の場合はグルココルチコイドの投与が必要です。
  • DOCPにはグルココルチコイドの作用は全くないからです。
フロリネフ?DOCP?どちらを使用するの?
  • フロリネフを使用する場合→小型犬(25kg以下)
  • DOCPを使用する場合→大型犬(25kg以上)

フロリネフは高価なので大型犬には不向きです。
また、フロリネフの副作用の発現(多飲多尿が25%。重度の場合で、グルココルチコイドも投与しているときはこの影響も考慮。その他多食・体重増加・医原性のクッシング症候群)のために投与を中止する場合、DOCPに変更します(ある報告では約30%がそうでした)。

猫のアジソン病(まれです)の治療は?

デポメデロール(10mg/cat、3-4週間毎)、またはDOCP(12.5mg/cat、3-4週間毎)を投与します。

犬のアジソン病の5%(以下の確率)でシュミット症候群が起こります。

これは内分泌の不全症で多腺性内分泌不全(Polyendocrine Gland Failare)と呼ばれ、若いメス犬に多く発症します。

アジソン病に甲状腺機能低下症・インスリン依存性糖尿病(IDDM)・上皮小体(副甲状腺)機能低下症などを同一個体で伴う場合(つまり同じ犬に2個以上の免疫介在性内分泌疾患が存在する場合)、この病気になります。

予後について

ある調査によると治療後生存期間は5年とあり、アジソン病の関連で死亡することは少ないとされます。
重要なことは、ストレス時にグルココルチコイドを増量(2倍)することと定期的に検査を繰り返すことです。