飼鳥の検査と治療の考え方
これから述べる飼鳥、特に断わらない限りセキセイインコについての記述である。
飼鳥をいかに検査するかは、その鳥の生命を左右するほど重要な問題であり、いかにストレスを少なく行うかが、カギとなる。もちろん昏睡状態にある鳥に対しては検査を後まわしにしてただちに治療を始めなければならない。このように鳥類の臨床においては、その時の状態によってなにがベストであるかを考えて行うことが重要である。
近年においては、飼鳥の診療が増加し、飼主病院に来院することも多くなってきているが、いまだに大多数は買った所、すなわち小鳥屋へ相談するが、直接病院に飼主に来させるためには、個々の獣医師の飼鳥に対する姿勢が大きく影響するであろう。そのための方法の一つとして、病院にて飼鳥の飼い方や病気についての解説書を作るなどして、より飼主に実用的であることをしらしめなければならない。
実際鳥の診療をしていて、多くの考えさせられる問題に多数直面することがあるが、最も多いのは飼育、管理、給餌の問題で、これらは鳥を飼い始めたら獣医師のところに行って、診察を受ければ問題の起こらなかったはずである。その他、公衆衛生上の問題などもそうで、飼鳥の健康を守ることは、飼主の健康をも守ることであり、これらは獣医師の社会的向上と共に社会から要求される事柄の一つでもある。
飼鳥の治療にあたっては、単に学問的な面だけでは割り切れない問題があるが、そんな時にはどうしたら飼鳥と飼主と社会にとってペストであるかを考えて行動するのがよい方法であろう。検査をするに当たっても、検査のための検査であってはならないし、治療にも同じことが言える。治療より予防へ、予防より建設へという態度が必要であろう。
鳥は検査されることをどう思うか?
病院に来院された飼鳥は検査を望んでいるであろうか?鳥に聞いたことがないからわからないが、彼らはたぶん望んでいないはずである。鳥は我々が日常診療を行っている犬・猫より野性味が残っており、自分を弱く見せることは死を意味することを知っているので、必要以上に元気にみせ、死の直前まで抵抗するであろう。検査に当たっては、これらのことを常に考えて、病鳥に余力を持たせながら、死するまでのストレスを与えぬように、少しずつ行うことが重要である。ストレスのかかる検査は、必要最小限にとどめて行うが、その鳥がこれから生きていくために必要と思われる検査には恐れずに十分行う勇気もまた必要である。
検査をするための情報の集め方
もちろんいきなり検査をするわけではないので、その前にその検査や治療が有効に生かされるように十分基礎となるデータを集める必要がある。これがいかにうまくできるかによって、検査や治療がうまくいくかを決定してしまうほどである。
病院に来院された鳥は、通常来るまでにかなりのストレスを受けているはずであり、休息を与えなければならないので、飼主が稟告用紙に書き込んでいる最中は、鳥を休ませることができる。以下の書式が、我々の病院で使用している稟告用紙でカルテとともに保存する。
小烏の稟告用紙
| 【1】 | あなたの鳥の種類はなんですか? | 
| 【2】 | その鳥の愛称(呼び名)は何ですか? | 
| 【3】 | あなたの鳥の年齢はどのくらいですか? | 
| 【4】 | その鳥はいつから飼い始めましたか? | 
| 【5】 | あなたの鳥の性別はわかりますか? | 
| 【6】 | その鳥はどこから手に入れましたか? | 
| 【7】 | 主な鳥の症状は何ですか? | 
| 【8】 | その症状はいつから始まりましたか? | 
| 【9】 | 一緒に飼っている仲間の鳥はいますか? 別の篭に飼っている鳥はいますか? | 
| 【10】 | その仲間の鳥は何か変化がありましたか? | 
| 【11】 | あなたは過去に鳥を飼ったことはありますか? | 
| 【12】 | あなたが飼ったことのある鳥は、今の鳥と同じ種類ですか? | 
| 【13】 | 最近新しい烏を飼い始めましたか? | 
| 【14】 | 最近どこかに鳥をあずけましたか? | 
| 【15】 | 食欲は正常か? 異常か? それはいつからか? | 
| 【16】 | 活動性は正常か? 異常か? それはいつからか? | 
| 【17】 | 呼吸は正常か? 異常か? それはいつからか? | 
| 【18】 | 砂、紙、植物など別なものをよく食べたがるか? | 
| 【19】 | 日光に当たる時間はあるか? それは窓越しの日光か? | 
| 【20】 | 水をよく飲むか?それはいつからか? | 
| 【21】 | 最近飼料や飼育環境の変化があったか?( | 
| 【22】 | 排泄物は正常か? 異常か? それはいつからか? (硬い、軟らかい、水様)(色調は? 数量は?) | 
| 【23】 | 嘔吐はあるか? あれば食物か? 粘液か? 色は? | 
| 【24】 | 過去に病気したことがあるか? | 
| 【25】 | 最近または過去になにか投薬をしたことがあるか? その薬は何か? | 
| 【26】 | 手のりか? 人間によく馴れているか? よく鳥にさわるか? | 
| 【27】 | あなたが思う病気の原因はなにか? | 
| 【28】 | あなたの鳥は栄養補給に何を与えていますか? | 
| 【29】 | 他になにかペットを飼育していますか? | 
| 【30】 | 換羽に気がつきましたか?それはいつですか? | 
| 【31】 | 繁殖に関してどのような経過があるか? 過去に産卵したことがあるか? それはいつだったか? | 
| 【32】 | 篭から出して運動させるか? それはどのくらいの時間か? その回数は? | 
| 【33】 | あなたの鳥に認められる他の症状を該当する事項にマルをつけて下さい。(羽の毛ば立ち、あまり鳴かない、あまり動かない、咳、くしゃみ、やせた、太った、静か、姿勢が違う、よく目をつぶる、呼吸困難、鼻汁、羽が抜ける、出血する、かゆがる、口をバクパクする、肢が弱くなった、肢がはれてきた、羽をよくつっつく、ビッコを引く、その他) | 
| 【34】 | あなたの鳥に日常与えている飼料にマルをつけて下さい。 (ムキエサ、カワツキ、アワ玉、ヒマワリ、麻の実、カナリアシード、エゴマ、キピ、塩土、ボレー、イカの甲、ヤサイ、クダモノ、その他) | 
| 【35】 | あなたの鳥カゴに入っている食物以外のものでは、なにがありますか?(鏡、プランコ、オモチ、・巣箱、フソゴ、水あび用器、その他) | 
これらの情報を集めてみると、驚くほどに状態がよくわかることがある。できうれば我々獣医師は鳥にさわらず、視診と稟告のみで病気がなんであるかを知りたいとさえ思うときがあるが、注意深い稟告よってその病気の原因がなんであるかは、ときどき推察できることがある。
例えば代表的な例を2~3説明すると、過去においてボレー粉やイカの甲などを与えたことのない若鳥が肢が弱ってきてあまり動なくなったとのことであれば、くる病が最も疑えるし、塩土や砂を与えたことのない鳥において、紙など別のものをよく食べたがり、いつも状態があまり良くなく、ときどきエサが便に混じるとのことであれば、筋胃の砂が少量のための消化不良が原因と疑えるし、一羽で飼われているオスの鳥が、飼主や鏡に向かって首をタテに振って吐く動作をすれば、原因は精神的要因が強いと疑えるなどいろいろである。
小鳥を飼う飼主がよく獣医師にもらす不満は、飼主の話をあまり聞こうとしてくれなかったと、言う言葉である。そんなことが起こらないように稟告用紙に書いてもらうことである。この方法は言葉のみにあらず、文章によっても正確に伝わり、そのような不満も解消することであろう。これらの情報の収集はドクターのみならず、少し慣れたテクニシャンにも同様に行うことができるはずである。また待合室などで待っている間にでも書いてもらうことは可能で、我々ドクターの時間の節約にもなる。また大きな利点として飼主の鳥に対する態度とか、愛情度がよくわかるので、これから行う方法などについても参考となる点が多い。
稟告用紙に飼主がすべての事柄を書き終えたら、獣医師はよく読んで自分の頭の中で、いろいろな事柄を整理整頓をして、あらためてカルテに書きなおす。我々の病院で使用しているカルテを参考までに示しておく。
正確にデータを集めることができない獣医師は、完全または正確な問題点を引き出すことはできず、将来の経過を正確に予想することはおろか、迅速かつ効果的な治療法を見つけ出すこともできないであろう。獣医師は自分の置かれている環境で、どの程度の有意義な情報を自ら収集できるかを常に考えておくことである。なぜならば、重要な臨床的問題は収集されたデータによって明らかにされるものであり、正確なデータは必要不可欠であるからである。
検査はまず視診から
視診と言うのは通常、鳥にあまりストレスを与えないので、十分行える。あらゆる角度から鳥を診て、総合的な判断をする。鳥の目線の高さと自分の目線の高さを同じにして見ること重要である。カゴの状態から、鳥の頭の位置、肢の置き方などのすべての相関をよく見る。またある場合には鳥のような野生動物では、鳥に気づかれずに窓ごしから見て、鳥の自然の動作を見ることも重要なことがある。もし、少しでも動作や状態に疑問があれば、飼主に問い正してみるのがよいことである。
いかにして聴診するか?
鳥類の聴診はイヌ・ネコに比べると情報量としては少ないが、行って価値のある方法である。聴診器を使用する方法と直接鳥に耳を当てて聴く方法とがある。聴診器を使用する方法はできるだけ長さの短い(できれば10cmぐらい)聴診器で聴診すると、よりよく聴診される。耳に当てる方法は、鳥の体温を感じ取りながら行うとよいであろう。鳥の聴診はストレスを少なくするため、できるだけ手早く行うことが重要で、聴診には心臓のみならず、肺と気嚢の音にも注意して耳を傾ける。確認できる異常音には次の3つがある。
心雑音
老齢鳥で認められることがあるが、運動能力、飛翔能力の低下を示すと思われる。貧血の有無を確かめたり、頸静脈の状態の確認、心拡大の有無のためのX線検査、飲水の量の確認などを考えて調べられる範囲で行うことが望ましい。
不整脈
老齢鳥でさらに肥満した鳥にときたま認められることもあるが、元気な鳥にも認められる。Dr. Zenobleによると、インコの約10%に不整脈が心電図によって確認できるという。これもやはり運動能力の低下を示すと思われる。X線検査、心電図検査、頚静脈の状態の確認などで、補足される検査を行うとよいであろう。
徐脈
通常、循環器系の状態が非常に悪くなっていることを示し、すぐさま治療を開始しなければならないことを示している。保温を中心としたよい環境に鳥を移してやり、ジキタリス・エキシエルを1滴経口投与して、治療を始める。
触診はいかにあるべきか?
飼主が獣医師こもらす不平の一番多いものは、「獣医師は鳥にさわってくれなかった、ただ見ているだけだった」と言うことである。この言葉は肝に命じるべきである。身体一般検査で絶対に忘れてはならないのが触診で、そ嚢と腹部の触診は最重要である。できうれば、腹部などの触診の前に少量のアルコールで少し濡らすと、よく透けて臓器が見えやすくなる場合があるので、触診の助けとなる。
そ嚢
食事が入っていれば、食べていることを示し、その内容物の硬さ、拡張度、緊張度、臭気、異物、新生物などの有無を調べることができる。悪臭があれば鳥をさかさまにして、そ嚢から液体を出し、そ嚢を洗浄する。
腹部
腹部の触診は示指を中心にして行い、まず筋胃の形、位置、硬さなどを確認する。次に肝臓の辺縁をさがし同じように形、位置、硬さを調べる。最後に剣状突起と恥骨との間の間隔も調べるが、正常では5~7mmぐらいである。あらかじめ稟告などで軟卵が予想される場合などは、注意深く慎重に触診することが必要である。
身体一般検査の進め方
稟告をもとにして、問題となっている部分を中心にできるだけ、飼主の目の前で行うのがよい。その理由は疑問な点はすぐに問い正すことができるからである。身体検査を正確に行えば、実に多くの事柄がわかることがある。系統的に、いつも決まった方法で行うのがよく、まず異常な呼吸音がないかを調べてから、頭部から始めて行くのがよい方法であろう。
以下に簡単なチャートを示すが、それらの書類に書き込んでいくのが望ましい。検査には通常、拡大鏡、ピンセット、ペンライトなど小道具が必要である。検査には一定の明るさが必要であるが、スポットで特別に調べたい部分、例えば口内などの異物やビタミンA欠乏症などの存在を調べるために、光を当ててよく見ることがしばしば有効な方法となる。また羽などを光に当てて、透かして見ることによって寄生虫の発見も容易となるであろう。身体検査が終わるにあたって重要なことは、検査後の鳥の様子で、通常は5分以内であり、鳥のおかれているストレスのよい指標となるので参考にすべき事柄である。
| 身体一般検査表 | ||
|---|---|---|
| □飼い主 | □鳥の名前 | |
| □鳥の種類 | □性別 | □色調 | 
| □病歴: | ||
| □主訴: | ||
| □検査: | ||
| □頭: | □眼 | |
| □角膜 | ||
| □瞳孔反射 | ||
| □眼瞼 | ||
| □ろう膜(色) | ||
| □鼻孔 | ||
| □舌 | ||
| □口 | ||
| □嘴 | ||
| □口候 | ||
| □呼吸音:数 深さ | ||
| □耳 | ||
| □頸部: | □そ嚢 | |
| □胸部: | □胸骨 | |
| □筋肉 | ||
| □呼吸 | ||
| □聴診 | ||
| □腹部: | □胸骨と恥骨の距離 | |
| □触診 | ||
| □総排出口 | ||
| □肢 | ||
| □足 | ||
| □爪 | ||
| □翼 | ||
| □羽 | ||
| □皮膚 | ||
| □全身状態: | □従順 | |
| □態度 | ||
| □体重 | ||
| □糞便: | □色調 | |
| □臭気 | ||
| □硬さ | ||
| □PCV | □TP | □BS | 
| □Ⅱ | □ヘモグラム | |
| □便検査: | ||
| □尿検査: | ||
| □仮診断: | ||
| □治療方法: | ||
血液検査はなぜ必要なのか?
小鳥に血液検査ができるのか?などとしばしば聞かれることであるが、答はイエスであります。血液検査は診断、予後、治療の反応を調べるための強力な武器となりうる。また検査の結果はすぐにわかり、鳥類の病気の進行の早さと比べても十分に結果は応用できる。もちろん昏睡状態の鳥などには行うことはできず、血液検査は病鳥が検査をしても耐えうる力をもっている時にのみ行えるので、すべての鳥にはできません。現在我々の病院では、来院する鳥の約30%に血液検査が行われています
血液検査をどのようにして行うか?
通常、我々は小鳥などの場合、PCV、TP、BS、Ⅱ、ヘモグラムのみを行っています。方法は、日常犬猫で行う方法と同じであるが、違うのは毛細管チューブだけであろう。鳥が極小のため、特殊な動物用毛細管チューブ(普通より小型である。国際遠心器械式会社より発売)を使用する。鳥の翼または爪から少量出血させて毛細管チューブに2本取り遠心するが、その際ちょっとした工夫が必要である。動物用毛細管チューブは極小なので、普通は特殊な遠心器を必要とするが、我々が日常使用する毛細管チューブの中にそのまま入るので、使用できる。分離した血清は以下の方法にしたがって調べるが、血液塗沫標本は爪から1滴の血液で、通常の方法で作成しておく。
- 血清の色調を調べ、黄疽指数を記録する。
- PCVを測定する。
- バァファコートの層の厚さを調べる。
- 2本のチュープからTPを測定する。
- 残った血液でBSを測定する。使用する試薬はBMテストプラッドシュガー20~800(山之内製薬)でこれは20~800mg/dlまでの血糖値を調べることができる。
- 血液塗抹標本より白血球を概算で確認する。
- 血液塗抹標本で百分比を求める。
- 血液塗抹標本で寄生虫の有無を確かめる。
- 血液塗抹標本で栓球の有無を確かめる。
その他いろいろな検査項目があるが、小鳥において日常に行える血液検査は以上であると思う。なお、BUNは鳥においては腎機能の指数とならないので行わない。
- セキセイインコの血液学
- 
PCV 平均40~55%(35~60%) 55%以上:脱水(明確60%以上) 35%以下:貧血(明確20%以下) TP 平均3.5~6.0g/dl 5.0g/dl以上:脱水、感染、腺癌 3.5g/dl以下:慢性病 3.5~2.3g/dl:予後注意 2.0g/dl:予後不良 BS 平均200~550mg 700~1300mg:糖尿病 150mg以下:飢餓 70mg以下:死亡 黄疽指数 黄疽:肝臓病 脂肪血症:脂肪腫:肥満 
- 血液塗抹標本
- 
WBC 3500~6500mm3 異染性(好酸球、偽好酸球) 好中球 55%~65% リンパ球 33%~40% 好塩基球 3%~13% 単球 3%~5% 栓球(血小板、紡錘細胞) 平均20000~40000mm3血液塗抹標本にて、400倍にて2視野に1個の栓球で30000/mm3と評価 
- 1000倍でPCV52%の時
- 
7視野に1個のWBC→3500/mm3 6視野に1個のWBC→4000/mm3 5視野に1個のWBC→5400/mm3 4視野に1個のWBC→6700/mm3 
- 800倍でPCV52%の時
- 
6視野に1個のWBC→3200/mm3 5視野に1個のWBC→4300/mm3 4視野に1個のWBC→5400/mm3 3視野に1個のWBC→6400/mm3 2視野に1個のWBC→10000/mm3 
- 400倍でPCV52%の時
- 
5視野に1個のWBC→1900/mm3 4視野に1個のWBC→2400/mm3 3視野に1個のWBC→3200/mm3 2視野に1個のWBC→4800/mm3 1視野に1個のWBC→10000/mm3 
- 補正法
- 
例えば、PCV20%、1000倍のとき、5視野に1個のWBC 5400×20/52=2076mm3 バッハコート2mm以上で白血球増加 
- 白血球の変化の主な原因の要約
- 
増加 減少 異染性 ストレス、生理的、炎症、感染、貧血 骨髄疾患、敗血症、毒血症 リンパ球 慢性感染、慢性炎症、生理的 ストレス、ウイルス疾患、腎疾患 好塩基球 異染性の増加に伴って起こる慢性呼吸疾患 ストレス 単球 ストレス、慢性感染、炎症 急性疾患 単球 3%~5% 
- 
尿酸 平均2~15mg (5.3~8.0mg) 30mg以上: 腎炎 痛風 腺癌 寄生虫 インコ類のミクロフィラリアの検出は血液塗抹標本から評価 凝血時間 毛細管にて通常5分以内に凝血する。 
結果をいかに応用するか?
- 
PCV 通常鳥においては、文鳥以外はあまり貧血の指針となる事柄(肢、皮膚などの色調をみる)がないので重要である。35%以下は貧血を示唆しているので、貧血のための処置、酸素吸入、輸液、輸血などを考慮する。また鳥は脱水に対しても、指針(小型鳥で皮膚のしわ、大型鳥で足のしわ)となる変化があまりないが、これもPCVが確実に示してくれる。 
 すなわち55%以上は脱水を示しており、乳酸リンゲルを投与して脱水を改善させることが必要である。改善の指針は便に現れるので、よく注意してみることがよい結果を生む。PCVにおいては高値であろうと、低値であろうとすぐに生命の判定に役立つわけではない。TP 3.0g/dl以下において、低タンパク血症と言えるが、2.0g/dl以下になると普通予後不良と言われる。5.0g/dl以上は高タンパク血症となり、感染性疾患、腺癌あるいは脱水を示唆している。このTPは鳥の予後の判定に重要な役割をはたしている。しかしながらこのTPは変動が大きく、午前と午後の測定にても値が大きく変化することもある。また2.0g/dl以下であっても、鳥が元気であればあまり間題がないようで、著者の経験では、単に吐くだけのセキセイインコがTP0.4g/dlを示していたが、翌日には1.3g/dlとなり、17日後には3.0g/dlとなっていたが、鳥は元気であった。 BS 150mg/dl以下は低血糖症で、飢餓状態にあるものや、急性肝炎や慢性肝炎、末期の肝炎を示唆しているので、ただちに経ロ的に10%ブドウ糖を投与しなければならない。もし70mg/dl以下であれば、普通死亡する。60~80mg/dlにあるものは、低血糖性の痙攣が起こることがある。高血糖は二次的なストレス、糖尿病、腎不全などに伴って起こるが、常に尿の血糖とともに考慮することが重要である。尿の血糖は正常では陰性から痕跡である。これらの血液検査は、麻酔を行う前の評価としても重要な事柄となる。 WBC 鳥では赤血球は核をもち、白血球のみを選択的に残して他を壊わすことができないので、白血球数の算定は哺乳類でのように容易ではない。しかしながら概算は、血液塗抹標本より算定する。見る場所は、フェザーエッジのほどよく赤血球が存在する部分で測定する。 
尿、糞便検査
鳥の臨床においても、便検査は重要で必ず調べるべき事柄である。特に新しい環境となった鳥や輸入された鳥などはそうである。飼主には定期的に糞便検査の必要性を説明し、年2回は検査を実施する。小型の鳥では、ジアルジア、トリコモナス、コクシジウムが最も一般的な寄生虫であるが、まれにしか認められない。その他、便中に細胞があれば、炎症の結果として起こったことを示唆し、原虫、真菌などの検出にも注意を払う。便の色調と性状、臭気などには常に注意し、種類別の便の形も覚えておくと便利である。便を調べるためにスライドグラスに置いた時に、なんとなく砂があるような便は、筋胃の機能の低下を示唆している。飼主には便の掃除を一日に1~2回は行うように指導し、そのつど便の数や性状を確認すべきことを指導する。できれば便は、その便が乾く前に捨てさるべきである。
尿検査はどんな意義があるか? 尿検査は常に行いうるとは限らないが、多尿などの時には比較的、簡単に行うことができる。ワックスペーパーまたはセロファンを床に敷いて、尿が乾燥しないようにして集めるのである。検査は通常のペーパーが使用され、pH、タソパク、潜血、血糖、ウロピリノーゲン、ケトン、ピリルビンなどが調べられる。しかし潜血、血糖、ビリルビン、ケトンは仮性の反応がしばしば出現することがあり、特に潜血は70%が反応すると言われている。もし沈査が行うことができれば有効で、バクテリア、細胞などが検出できることもある。通常、毛細管チューブにて行われる。これらの尿検査をいかに解釈するか例を挙げて説明すると、昏睡状態で、呼吸困難な鳥の尿検査が、pH5、ケトン+++を示していれば、ケトアシドージスを示唆しているであろうし、血液検査で高血糖が認められた鳥において尿中に血糖が検出されなければ、糖尿病は除外できる。また、尿のpHによって重炭酸ナトリウムを投与したアシドーシスの治療の効果もモニターすることができる。
細胞診検査
腹腔穿刺、洞内穿刺などは多く行われ、取られた液体を凝固防止剤の入っていない毛細管チューブに入れて1500回転5分間、遠心して上澄みを捨て染色して顕鏡する。これらの細胞診応用によって、痘瘡、腫瘍、痛風、黄色腫、オウム病などに関する重要なデータが収集されることがある。
皮膚掻爬術
インコにおけるダニの検出に役立つので有用な方法である。まず検出したい部位に、流動パラフィンを付けてメスなどで軽くこすりながらスライドグラスに置き、KOHを使用して顕鏡する。また翼の羽などからダニが検査されることもある。
真菌培養
真菌、カピによる皮膚病は羽の脱毛の原因の一つであり、すぐさま治療が必要とされる。カンジダの鳥のそ嚢はひどく充満して膨脹しているようにみえる。そ嚢からの塗抹標本で顕微鏡的検査と培養による酵母状の発芽菌を検出するようにする。糞便検査にて、酵母状の形を認めたら、真菌培養をするとよい。
細菌培養
肝臓や腎臓が腸管などに関係した、感染は普通の原因であり、最もよく認められるのが大腸菌であり、サルモネラ、クレブシエラ、変形菌、緑膿菌、レンサ球菌、ブドウ球菌、シトロバクター、コリネバクテリウムなどが通常認められるものである。まず始めに行うべきことは便のグラム染色である。この結果と培養の結果を比べ合せて判定することが、鳥類における臨床検査の重要な部分である。
検死は必要か?
検死を行うと、他のいかなる方法よりも多くの事柄を知ることができるものである。犬猫に比べて鳥の検死は、飼主が許可をすることが多い。診断的意義をもたせるための検死は、死亡後1時間以内に行うのが理想的である。早ければ早いほど、押捺標本などの作成(オーム病の検出のための)にはよい結果を生む。
長く鳥を保存したい時は、鳥を完全に水の中に入れてしまい、冷蔵する。検死の前に術者は、手袋とマスクを必ず着用する。検死に先立って外貌の病変を検査し、採血がまだ行われていなかった場合は、心臓から無菌的に採血し、検査に役立てる。また滲出物も必要に応じて採集しておく。解剖の前には頸部を除いて(気道に消毒液が入らないようにするため)消毒液に漬けるか、スプレーする。次に鳥を抑臥位にして、翼と脚を延ばし、コルク板に針で固定するか、X線フィルムの上にテープで固定する。
解剖は手順よく行うために、頭部から行う。鼻孔、嘴、洞、ロ腔を調べ、頭蓋骨背面から皮膚を剥離する。次に頸部に移り、気管、そ嚢の外観と内部を調べ、肋骨と胸骨を触診し切開して調べる。胸部入ロにある甲状線、上皮小体、鳴管を調べ、心膜、(胸部)気嚢、肝を取り出して、筋胃、脾、腎、卵巣、副腎、肺を検査する。検死の方法などについては、成書を参照にして各自が調べておくとよい。
鳥の肉眼的病変の所見のまとめ
| 部位 | 病変 | 推定される原因 | 
|---|---|---|
| 皮膚 | 脚、足、顔、肛門周囲の痂皮形成 | トリヒゼンダニ(カイセン) | 
| 腫脹と隆起 | 脂肪腫や他の腫瘍 | |
| 羽毛の脱毛と欠損 | フレンチモルト、栄養不良、外傷、羽毛ダニ | |
| 脚の多発性結節 | 痛風、化膿巣 | |
| 巣状壊死性皮膚炎 | 特発性壊疽 | |
| 鼻 | 滲出物 | 呼吸器病、オウム病 | 
| 眼・口 | びらん、痂皮 | 痘瘡 | 
| 嘴 | 変型 | イカの甲の欠乏、外傷、栄養不良、カイセン | 
| 脚 | 肉趾膿瘍形成、傷害 | ブドウ球菌感染、とまり木の太さが悪い | 
| そ嚢 | 壁が肥厚し、白いチーズ様の内容がある | カンジダ、トリコモナス | 
| 甲状腺 | 過形成 | ヨード欠乏 | 
| 上皮小体 | 腫大 | カルシウムまたはピタミンD3の欠乏 | 
| 心膜 | 変化した色、滲出物あり | 細菌感染またはオウム病 | 
| 気嚢 | 変化した色、滲出物 | オウム病、カピ性、細菌性、またはマイコプラズマ性気嚢炎 | 
| 脳 | 出血(血餅形成) | 外傷 | 
| 肝 | 出血をともなう壊死、脂肪変性、肝硬変 | 低タンパク血症、細菌性肝炎、アフラトキシン中毒 | 
| 脾 | 巨脾 | オウム病 | 
| 腎 | 黄色出血、腫脹、白色の膜(尿酸塩) | 腎炎と腎障害(飼鳥では多数の原因あり) | 
| 腸 | 出血、腸炎 | コクシジウム、ニューカッスル、細菌性、出血性、カピ性または単純性腸炎 | 
| 肺 | 巣状硬化 | アスペルギルス | 
| 鳴管 | 炎症性滲出物 | アスベルギルス、カンジダ | 
| 気管 | 入口に異物(種子)などがある | 窒息 | 
| 気管の閉塞炎症性滲出物 | 細菌性、ウイルス性、マイコプラズマ性感染 | |
| 寄生虫 | 開嘴虫 | 
X線検査
鳥におけるX線診断は、最も貴重な診断的価値を見出す方法である。鳥は小さいながらも、その生体の特殊性から気嚢を持つので、これが役立ってうまくコントラストが生じる。さらに造影検査を組み合わせることによって、驚くほどの情報が得られ、その価値にはすばらしいものがある。通常小型の鳥、例えばセキセイインコ、文鳥、カナリアなどには麻酔などは必要ないが、大型の鳥においては、鎮静は必要となることが多い。その間に十分な身体一般検査など、その他必要な情報を集めることが安全にできるわけである。保定の位置は非常に重要で、普通腹背像および側面像が利用される。著者らは初めに側面像を撮り、次に腹背像を撮り、古いX線フィルムの上に鳥をテープで固定して撮影している。その際に足と翼と頭の保定が最もポイントとなる。
X線検査で何がわかるか?
X線において通常認められる異常には、次の事柄があげられる。
- 骨折(外傷または病的)と傷害を受けた骨の周囲の状態
- 関節炎(感染性、新生物、外傷、変性、代謝性疾患)
- 鉛のようなX線不透過性の異物
- 卵づまり、軟卵、卵の破壊または虚脱または変形した卵
- 肝腫大…腹背像にて肝が正常より拡大する。たぷん後縁は寛骨臼の位置まで占有する。そして気嚢は外側に押しやられ、心臓と近づいて上方に押しあげる。そのため心臓、肝臓のウエストが消失する。そしてたぶん筋胃も後方に変位する。側面像においては、肝拡大のため筋胃が後方に変位し、軽度に背側にも変位する。そして肝臓を占有する部分が広くなる。
- 肺炎(肺うっ血)…たぶん気管支の壁が厚くなり、気管支の陰影が低下し、蜂巣構造は消失する。(鳥の呼吸運動によるブレと混合しないように注意)
 しばしば空気気管支造影像が見られる。
- 膿胞(シスト)
- 気嚢炎…気嚢の壁の厚さが増加するが、気嚢の濃さは、非常にわずかな混濁から完全な硬化までさまざまである。
- 砂のつまりすぎ
- 前胃に砂が存在…しばしば予後が悪いことを示唆する。
- 脾腫…しばしばX線で確認できる。
- 腹水(腹膜炎)…腹部および胸部の陰影度の増加が認められ、腹部が腫大する。
- 腫瘍…直接認められるか、他の臓器の変位によって認められる。特に筋胃が変位するとわかりやすい。背側の腹腔内腫瘍(腎臓、副腎、精巣、子宮、卵巣、背面の肝臓腫瘍)は筋胃を小腸を腹側に変位させ、普通は尾側には変位しない。そしてよく腹水が存在する。腎臓腫瘍のあるものは寛骨や脊推を破壊するタイプのものもある。側面像においては腹部の気嚢が正常では小さな部として、肺と腎臓の間、腎臓と腹部内臓の間に認められるが、腹部腫瘍のためにこの間隔が狭<なることがある。腹部後方の腫瘍は筋胃を前方へ変位させる。
- 心臓の拡大
- 前縦隔洞腫瘍(例えば甲状腺形成不全)
- 汎骨炎…大理石骨症と同様に、雄の場合は精巣の異常、雌の場合は産卵中か卵巣の異常を示唆する。
- 腎臓の拡大
- ときたま精巣または卵巣が成熟し終わったときに認められる。
- 皮下気腫
- 繁殖のシーズンにおける燕雀類の雄は、遠位の精管が拡大する。
- 産卵中の雌は、長骨の陰影度の増加がおこる。(しばしば雄も認められることがある)
- 拡張したそ嚢
- そ嚢結石
- 腹部のヘルニア…筋胃が後方に変位する傾向にある。
- 大理石骨症…骨の陰影度の増加
- 最初の身体検査で見逃がした、外部の軟部組織の陰影を確かめられる。
- 洞の腫瘍か洞炎の際に、洞の部分は陰影度が増加する。
- 血管や他の組織の異常な石灰化
- 気管虚脱
- カルシウムやピタミンDの不足、あるいはカルシウムとリンの不均衡…骨の陰影度が低下し、皮質が肥厚し、病的骨折が認められる。
- 化膿性肉芽腫…限界明瞭な膿瘍が肺実質と気嚢内に巣状の散在する陰影として鑑別でき、しばしば肝などの内臓の輸部から突きだした滑らかな突起としてもみられる。
- 消化器が変化するような消化管疾患がパリウム造影で検査できる。
- 消化管の変位の性質を見分けることや、消化管以外に起因する(肝腫、腎臓および生殖器の腫大)疾患を診断できることがある。
飼鳥のための治療の考え方
どのように治療するか?
鳥の治療は経験から基づく治療が多いが、それだけに実戦的でもある。特定の病気に基づかない治療は、もっとも多く利用されている治療法であり、特異的治療法も非特異的治療の不足を個々に補ったものにすぎない。鳥の治療は環境で治すようなものである。すなわち鳥本来が持っている自然治癒力を伸ばすように手助けしているようなものである。
これはある意味においては、自然の状態にできるだけ戻して治療すると鳥が生きている間は、高いエネルギーが必要で、これはあたかもローソクの火を常に燃やし続けているようなものであり、熱源がなくなれぱ、落鳥(死亡)してしまう。そのために常に燃やす物を取り入れなければならず、熱源がより必要な場合は食べていても元気という指標にはならない。
鳥の治療は強力な監視の下に、最小のストレスで十分な看護のもとに行われるべきである。もし鳥が治癒したとしても、問題となる原因は除いておくべきであり、病気にならないように管理(治療)すべきである。
非特異的治療法のいろいろ
- 温度29~30℃・・・コタツ、ストーブ、電球、電気毛布などを利用する。
- 温度70%以上・・・空気の乾燥を防ぐためで、湿度計でモニターする。夏は水蒸気や水で、冬は轍乾燥剤などを利用する方法もある。
- 酸素20~30%・・・必ず水に通して使用することで、適当な湿度が与えられる。
- 静かな環境・・・犬、猫がいない自分のテリトリーに競合する鳥がいないこと。
- すき間風が入らないこと。
- 新鮮な果物などの食物や水などを食べやすい位置に変えて、いつでも飲食できるようにしてやる。
- 水はできれば暖かくした水を用意し、その中に5~10%のブドウ糖を入れてやること。
- 通常、水にはビタミン剤などを混ぜておくが、しかしそれを本当に飲むか確かめなければならない。
- カゴの中の止り木は、低い位置にし安定していなければならない。
- 鳥には十分に休息をとらせること。
- 暗い部屋において体力の消費を防ぐ。烏は暗い所ではエサを食べないので常に注意する。
- 1日1~2回、各1時間ぐらいネブライズすると効果的である。
- 元気な仲間の鳥の声を聞かすと、エサを食べ始めることがある。
- 太陽光線の1日の正規の周期にあわせて、照明をするとよい。その際、人工太陽燈(ねじり電球)を使用すると効果的である。
- 皮膚や羽毛が汚れたら、羽の絶縁効果が失われるので、これを防ぐため暖かい湿った布できれいに拭いてやる。
- 衰弱している鳥は、チューブやスポイトで5%ブドウ糖を30分間隔で3回与える。これは救急処置として行う。
- すべての食物は?嚢が空になるまでその前に与えない。
- そ嚢が停滞しているときには、洗浄をして流動パラフィンなどでマッサージする。
- 救急処置としての投与が終わっても、食欲不振のある鳥には、若鳥には4~6時間毎、成鳥には6~8時間毎に、幼児用ミルク代用品である「ボンラクト」(和光堂)を直接そ嚢内に投与する。
- エサの中には消化酵素、ビタミンB1、酵母、カルシウムなどを混合しておき、鳥に投与する。
- 食欲不振の鳥にはその鳥が好みそうな食物を与えるべきで、果物もその中に加えるべきである。
- 伝染病が疑われる鳥に対しては、一羽ずつペーパータオルで包むようにして捕え、ペーパータオルを使用後に処分し、手は一羽ごとに洗う。
- 人に馴れている手乗りの鳥は、食餌を手で与えると食べることがある。
- 病鳥はいつでも食餌が食べられるように明るくしているか、夜に2~3回明るくなるようなタイマーを利用する。
- 病鳥のあるものは、砂などを過食することがあるのでこれを取り除いておく。
- 重症な鳥に対しては、水分を多く取らせるために、水にビタミン剤や薬など混ぜたものでない新鮮水を別に必ず用意しておく。
- 病鳥はときどき水を飲みすぎる場合もあるので、水の容器を置き放しにせず、時間別に与えることが必要な場合もある。
- 鳥が食べているにもかかわらず、体重の減少があれば、強制給餌を行う必要がある。
ショックのためのアルゴリズム
鳥の治療においていつも決まった方法と言うのはありえないが、多少の例外的存在が、一般原則を否定してしまうのではない。アルゴリズムとは、診断、治療の臨床的問題を解決するための原則または手順である。
この原則に対する例外が多く出現するが、事実と思われる適切な事柄との関係によって解釈する。二つ以上の異なった疾患が相互に作用しているような状況では、この方法で一貫性を保つことは不可能であるからである。
