三鷹獣医科グループ

学術マニュアル(診療)

獣医師向け情報

学術マニュアル(診療)


輸液療法

輸液療法の適応

4大適応症
  • 脱水
  • 手術
  • ショック
  • 下痢・嘔吐
  • その他、火傷・利尿剤等の投与
輸液療法の特徴とは?
  • 原因が解らなくても有効だが、元となる病気の原因を調べることが重要である。
体重測定の重要性
  • 輸液をする前に測定すること
  • 必ず毎日測定すること
  • 毎日同じ体重計で測定すること
  • 正常・減少・増加の判定
積極的な輸液療法の禁忌?
  • 肺水腫
  • 脳水腫
  • うっ血性心不全(適度に回復すれば十分)
過剰な輸液療法をしたら?
  • 脈拍・心拍数・呼吸数・体温に変動あり
  • 中心静脈圧・咳・浮腫に注意
  • PCV15~30%・Hb5~10g/dl
  • 総蛋白濃度3.5g/dl・アルブミン1.5g/dl
輸液療法の重要点
  • できるだけ頚静脈カテーテルを用いる
  • 低血糖があれば、50%のブドウ糖を体重2Kg当たり1mL、2倍に薄めて投与。
輸液療法のモニター法
  • 1日3回のPCV・TPの測定
  • 1日1回の体重・尿比重の測定
  • 身体検査の要点
    ・頚静脈拍動
    ・体重
    ・聴診
  • 臨床検査の要点
    ・PCV
    ・TP
    ・尿比重
輸液療法の実際
  • どんな経路で投与するか?
    経口投与 VS 非経口投与
    ・皮下注射
    ・静脈内注射
    ・骨髄内注射
    ・腹腔内注射
  • どれだけの量を投与するか?
    これはどんな輸液剤を使用するかという事より重要である!
    ・必要な維持量とは?
     40~60ml/kg
    ・その根拠とは?
     20ml/kg/日(呼吸からの排泄) + 1~2ml/kg/時間(24~48ml/kg/日)(尿からの産生量)
  • どんな輸液剤を投与するか?
    ナトリウムとカリウムが最も重要「一般的な輸液剤の種類」
    ・乳酸化リンゲル(L/R)
    ・0.9%生理食塩液
    ・5%ブドウ糖
    ・乳酸化リンゲル+2.5%ブドウ糖
  • なにが必要か?
    ・水分・糖分・電解質・アミノ酸糖分について
    ・5%G=100kcal/500ml
    ・維持エネルギ-必要量(kcal)=60×体重kg+140
  • どんな速さで投与するか?
    喪失量と喪失時間による
    必要なら
    ・犬で80~90ml/kg/時間
    ・猫で50~55ml/kg/時間
  • どんな時点で輸液を止める?
    輸液療法がうまくいった場合!
    水和状態が改善され動物の食欲や元気が出てきたら!
    ・状態によって25~50%減少
    ・必要ならその後は皮下輸液
    輸液療法がうまく行かなかった場合!
    輸液を続けたら浮腫が生じた!
    →血液希釈の問題
    ・開始時のPCVより15%低下した場合
    ・開始時のTPより50%低下した場合・→輸液は中止する
    その他の基準は?

    ・TPが3.5g/dl以下(但しA/Gが正常)
    ・アルブミンが1.5g/dl以下の場合に適応
脱水の判定の3大注意点
  • 肥満
  • 削痩
  • 利尿剤の投与
脱水の評価は?
  • 身体検査所見
    ・皮膚の緊張度(頚部では行わない)
    ・いつも同じ部位で行う
  • 元の皮膚に戻るための時間は?
    ・12%の脱水で5~10秒間を要する
  • 所見
    ・心拍数・呼吸速拍・脈拍・眼球の陥没
    ・急激な体重減少
    ・口腔粘膜の色調と乾燥度
    ・末梢部の体温低下
    ・毛細血管再充満時間
    ・性格の変化
    ・膀胱の触診
    ・臨床症状所見(PCV/総蛋白濃度)その他A/G比等
  • 末期はショック状態となる
脱水の指標となる証拠は?
  • CRT
  • 心拍数・脈拍の状態
  • 口腔粘膜の色
  • 尿量の回復
毎日の脱水の評価
  • 身体検査を行う
  • 皮膚の緊張度は同じ場所で行う
  • 同じ体重計で測定する
  • PCV/総蛋白濃度の測定
最も簡単な輸液療法(レベル1)
  • 脱水の状態の表現
    軽度…体重の4%
    中度…体重の6%
    重度…体重の8%
    激度…体重の10%

脱水量の算定法
  • 急に体重が減少したら脱水をまず疑う
    例:脱水7%×10kg=700ml
    例:脱水10%×10kg=1000ml
  • 維持量(イヌ)
    ・3Kg→100ml/Kg
    ・10Kg→75ml/Kg
    ・50Kg→50ml/Kg
  • 維持量(ネコ)
    ・1Kg→80ml/Kg
    ・2Kg→70ml/Kg
    ・3Kg→60ml/Kg
    ・5Kg→50ml/Kg
  • 維持量の覚え方
    ・小型の犬 100ml/kg
    ・猫 60ml/kg
    50Kg(犬)=5kg(猫)→50ml/Kg
    ・例:10kgのイヌ、6%の脱水
    (10kg×6%(0.06)=600m)+(75ml×10kg=750ml)=1350ml(75~80%投与)
    ・例:3kgのネコ、8%の脱水
    (3kg×60ml)+(8%×3kg)=180+240=420ml
  • レベル1の輸液療法の注意点
    L/Rを使用(重症の肝不全や血液量減退と高カリウム血症を除いて)または
    ソルデム1(L/R+5%G)を使用
    2日目よりブドウ糖を加える
最も簡単な輸液療法(レベル2)
  • ナトリウムで脱水のタイプを分類
  • カリウムの補正を行う

脱水のタイプ分け(分類)
  • Na=正常、>高い、<低い
  • 最も重要なNaの量で評価する
    ・Naが正常(145~155)→ 等張液:L/Rやソルラクト1
    ・Na=155↑ → 高張液:5%G
    ・Na=145↓ → 低張液:生理食塩液

カリウムの測定の重要点
  • 食欲がある場合にはカリウム減量してもOK
    ・増加(5.5) → 0mg/dl
    ・正常(3.5~5.5) → 10mEg/L加える
    ・3.0~3.5 → 20mEg/L加える
    ・2.5~3.0 → 30mEg/L加える
    ・2.0~2.5 → 40mEg/L加える
    ・2.0以下 → 50mEg/L加える
  • 代謝性アシドージスが疑われる場合
    (深くて早い呼吸、炭酸ガスを出すため)
    7%重曹を0.5~1mL/Kg 20分以上かけて投与
    重炭酸ナトリウムの測定ができない場合は?→BUNを用いる
    ・軽度 BUN<100・・・5mEq/Lの不足
    ・中度 BUN=100~175・・・10mEq/Lの不足
    ・重度 BUN>175・・・15mEq/Lの不足
  • レベル2の輸液療法の注意点 
    ・ビタミンB複合体を1000mLにつき1mLを別ルートで投与
    ・食欲がない場合、10%ブドウ糖を投与
    ・嘔吐、下痢等の推定の不足量の2倍を加えて投与
最も簡単な輸液療法(レベル3)
  • 重炭酸塩濃度の測定→重炭酸塩濃度(HCO)が14mEg/L以下 
  • 塩基不足が-10mEg/L以下 
  •  血液pHが7.2以下
血液代用液の使用法
  • TPが3.5↓(ただしA/Gが正常) 
  • アルブミンが1.5↓の場合に適応

デキストラン製剤
  • その効果の利点は?
    L/R等→30~60分で約70%間質に出て、浮腫を生ずる。
  • 有害作用として血液凝固系の障害があり。その程度は投与量に依存する。
  • 必ず電解質液と同時に投与!→体液の移動が過剰となり代償作用が消失してしまうから
    デキストラン40(低分子デキストラン製剤)
    ・血管床への移動を促進
    ・毛細血管の泥状化
    ・DICを予防
    ・尿細管に詰まり腎不全の原因となることあり
    使用法
    ・2~6時間(半減期3.5時間)
    ・開始量10~15mL/kg.Ⅳ
    ・総量は24時間で20mL/kgを超えないこと
    ・必ず電解質液と伴に投与すること(体液の移動が過剰となる)
輸血療法
効果の高い長期的な治療とはならない

  • 輸血療法の適応
    原則1 初めよりPCVが15%、TPが50%以下になった時
    原則2 PCVが20%、TPが3.5以下になった時
    原則3腹腔内出血が認められる時
  • 輸血療法の実際
    例:10kgの犬、PCV10%

    ・目標のPCV30%→20%×2.2ml=44ml
    ・44ml/kg×10kg=440mlの輸血
    ※PCV1%=2.2ml/kg
ショック時の輸液療法(通常の方法)
  • 失われた全血量の2~3倍の輸液が必要
    ・最初の30分以内に30ml/kgを投与
    ・評価し、まだショックがあれば次の15分以内に15ml/kgを投与
    ・評価し、まだショックがあれば次の30分以内に30ml/kgを投与
    ・評価し、まだショックがあれば・・・
ショック時の輸液療法(専門的な方法)
  • 失われた全血量の2~3倍の輸液が必要
    ・最初の10分以内に30ml/kgを投与
    ・評価し、まだショックがあれば次の20分以内に15ml/kgを投与
    ・評価し、まだショックがあれば次の10分以内に30ml/kgを投与
    ・評価し、まだショックがあれば・・・
血漿(プラズマ)製剤
  • 自己製剤
    血漿を冷蔵庫で保存
    ・21~27日間有効
    ・-20℃で1年、-70℃で5年保存可
    ・投与量:5~10ml/kg/時間
  • 人工製剤
    乾燥犬プラズマ(500円/kg)
    ・投与量:5~20ml/kg、5ml/分以内
高張生理食塩液
  • 2大適応
    ・血液減少性ショック
    ・頭部外傷 
  • 禁忌
    ・脱水
    ・心不全
    ・腎不全
    ・高浸透圧状態(高血糖・高ナトリウム)
  • 使用法
    ・7~7.5%高張生理食塩液が最も良い?
    ・10%高張生理食塩液の使い方
    例:7ml+3ml(生食、デキ40等)
    7~7.5%高張生理食塩液として4~6ml/kg(最小2.5ml/kg)
    3~5分以上かけてⅣ
  • 作用機序
    ・高張生理食塩液を静脈内に投与すると、血管内が高浸透圧となり、血管外から血管内への体液の浸透を促進するため。
    ・ゆえに脱水状態では、間質腔に水分が少ないため、禁忌となる。